嬢21話 閃光弾(※一人称)
彼が戦う姿は、格好良かった。相手の剣を捌いてからすぐ、自分の剣を振りまわす動きも。そして、相手の隙を窺う様子も。それらすべてが、「美」の空気に包まれていました。彼の近くで戦っている少年、セモン君も楽しげな顔で相手の攻撃を躱しています。
セモン君は(少々自信過剰な所があるせいか)行動の一つ一つに余裕(と言う名の格好付け?)が見られ、相手の攻撃を躱す時も、まるでダンスでも踊るような動き、普通なら真面目に避ける部分ですら、愛用(と思われる)片眼鏡を光らせて、相手の攻撃を軽やかに避けていました。「どうしたんだい? そんな程度じゃ、どんなにやっても当たらないよ? 僕の動きについてこられないんじゃ!」
相手は、その言葉に苛立ちました。言葉の内容もそうですが、その口調にもどうやら苛々したようです。セモン君がまた自分の事を煽った時も、それに思いきり怒って、自分の剣をぶんぶんと振りまわしていました。相手は彼の動きに怒って、地面の上に鋒を叩きつけました。「貴様、この俺を辱めるつもりか? そんなふざけた態度で、俺と」
戦う。それが彼の、セモン君の戦術だったようです。実際に自信過剰な性格ではあるようですが、それも一種の作戦、彼が得意とする頭脳戦の一つであるようで、敵が自分の動きに苛立つ瞬間、つまりは戦い以外の部分に意識が向いた瞬間を狙って、その隙を見事に突いていました。相手は「それ」に応えられず、彼の身体に剣を振りおろそうとした時にはもう、彼に自分の身体を切りきざまれていました。「ぐっ、あっ!」
セモン君は、その光景に微笑みました。「微笑み」と言う冷笑を浮かべて、その光景にほくそえんでいたのです。彼は敵が地面の上に倒れた後もなお、勝利の余韻に浸っているのか、嬉しそうな顔で頭上の空を仰いでいました。「いやぁ、惜しい。実に惜しいよ。君のような逸材を殺してしまうなんて、損失以外の何物でもない。僕としては、『何かの実験材料にでもしよう』と思ったけど、現実は、そうはいかないね? 相手が自分に刃を」
そう言って、自分の背後に迫っていた敵を斬るセモン君。セモン君は敵の身体をまた切りきざむと、今度は肉片の一つ一つに哀れみを見せて、それらに「もったいない、もったいない」と呟きました。「人間も、こうなったらお仕舞いだ。かつての尊厳はなく、ただ野獣の餌と化す。僕も命ある存在だが、死に際のそれは美しく散りたいモノだ」
私は、その言葉に震えました。「その言葉が怖かったから」と言うのもありますが、それ以上に彼の怖さに怯えてしまったからです。彼は聡明さの中に残酷さを宿す、そんな危険極まりない少年でした。私はその事実に震えるあまり、彼の「お嬢さん」にも思わず応えてしまいました。「は、はい! なんで、しょうか?」
セモン君は、その言葉に微笑みました。その言葉を聞いて、何を思ったのかは知りません。ですが、「私の緊張を和らげよう」としたのは確かでした。彼は私の顔をしばらく眺めて、自分の周りにまた視線を戻しました。彼の周りではまだ、この戦闘が続いています。
「
「え?」
それは、どう言う?
「意味ですか? 『そろそろ』って?」
セモン君はまた、私の言葉に微笑みました。今度は、ある種の悪戯心を見せて。
「それはもちろん、敵がここから逃げだす事だよ。敵は、自分達の力に自信があった。最初のアレを見る限り、こう言う戦いには慣れているようだしね? 今回もまた、いつもの戦法が『通じる』と思ったんだろう。味方の一人が囮になって、獲物の奴等を
「私達の事を襲った?」
「そう言う事、今の状況から察する限りでは。彼等はこの戦術を使って、不当な利益を得ているわけだ。公的な機関を通さない、裏のルートを使って。だから、『裏』と言っていたんだよ。裏は、表の奴等とは違う。その規範も、根性も。だが」
「だが?」
「それゆえに
そう言って、鞘の中に剣を戻すセモン君。セモン君は「ニヤリ」と笑って、敵の一人を指さしました。「今のような状況になると、ほらね? 互いに目配せしている。アレは、逃げる時宜を見はからっているんだ。『こいつ等と戦いつづけるのは、ヤバイ』ってね。逃亡のサインを送りあっている。ハルバージ辺りは、それに気づいているようだけど?」
私は、その言葉に「ハッ」としました。そう言われてみれば、確かにそうです。彼との会話に夢中で気づきませんでしたが、そう言う光景があちこちで見られました。私は、「それ」に戸惑いました。「それが飛びかっている」と言う事はつまり、「敵がこの場から引いてくれる可能性」も考えられたからです。
私は「嬉しい」とも「惜しい」とも言えない気持ちで、敵達の動きを止めようとしました。ですが、敵の方がやはり一枚上手だったようです。ハルバージ君達も敵の逃亡を阻もうとしましたが、彼等が敵の身体に剣を振りおろそうとした瞬間、敵が地面の上に激しい光を生みだす物(セモン君曰く、これは「専攻弾」と言うらしいです)、その一つらしき物を投げたせいで、自身の視界をすっかり奪われてしまいました。
彼等は光の余韻が消え行く中、その真ん中に私を立たせて、敵の姿が消えた光景をただじっと眺めはじめました。
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