裏26話 鞭と輪(※三人称)

 そこに駆けつけるのが、「バヤハ」と言う少女である。バヤハは一見すると鈍そうに見えるが、メンバーの防御役を担っている事もあって、実は意外と素早かった。敵の攻撃からダンヌを守る時も、その動きを予め読んでいたし。そこから後ろの彼女に「間に合った」と笑った時も、相手の驚きを無視して、その安全を第一に考えていた。バヤハは盾の側面を上手く使って、目の前の本体を何とか退かせた。「今の攻撃は、何とかなったけど。次は、分からない」

 

 ダンヌは、その言葉に震えた。それが意味する事をすぐに察したからである。バヤハが敵の方に向きなおった時も、その背中をじっと眺めていた。ダンヌは不安な顔で、敵の顔に視線を戻した。敵の顔は言わずもがな、あの笑みを浮かべている。「そんなにヤバイ奴なの?」

 

 バヤハは、その言葉にうなずいた。その言葉をじっと悔しがるように。「わたし達が考える以上に危険。さっきの攻撃を防いだ時も、盾の内側まで衝撃が走った。内側まで衝撃が走る攻撃は、わたしが知る限りでもそんなに多くない。彼は、わたし達の想像を遙かに超えている」

 

 ダンヌは、その言葉に押しだまった。普段は怖い物知らずの彼女も、その言葉には流石に怯えたらしい。彼女の抱えていた大筒も、その恐怖に震えていた。ダンヌは「恐怖」と「憤怒」の間に立って、敵の身体に照準を定めた。「そんなに強い相手なんて、本当」

 

 ついていない。そう思ったのは、彼女だけではないようだ。「敵の動きを封じよう」と思っていた少女、ヒミカも「それ」と同じ事を考えていたのである。ヒミカは「相手の身体に呪いを掛けよう」として、その背後にそっと忍びよった。だが、それを気づいてしまうのが本体。彼女達と互角以上に戦える、本体の力だった。


 本体は相手の呪術をはねのける力があるのか、ヒミカはもちろん、それに加わったコハルの力も、「ニヤリ」と笑ってはねのけてしまった。「なるほど、なかなかに強い呪いだが。そんな物は、通じない。ましてや」

 

 その続きを遮ったのは、彼の間合いに入っただった。クウミは二刀流の利点を活かして、相手に一撃の攻撃を躱されても、そこから二撃目の攻撃に移った。二撃目の攻撃は、一撃目の斬撃よりも速かった。それを見切られるマティやアスカ、イブキなどがいなければ、本当に「一瞬の出来事」と思えるだろう。事実、それを見ていたバヤハも「凄い」と驚いていた。


 クウミは剣が風を斬る音、鉄が風を薙ぐ音で、相手の身体に攻撃をぶちこんだ。でも、やはり通じない。二撃目の攻撃がどんなに速かろうと、それを見切られる目があれば、その剣に小太刀をぶつける事も決して難しくはなかった。本体は彼女の小太刀を捌いて、その身体を勢いよく押しとばした。


「はぁ、驚いた。でも、そんな程度じゃ」


「くっ!」


「絶対に勝てない。ただ、速いだけじゃあね? この身体には、傷一つ付けられないよ?」


 クウミは、その言葉に苛立った。「それが相手の挑発だ」としても、それを否める言葉が見つからない。ただ、「このぉ!」と悔しがる事しかできなかったからである。クウミは相手の身体にもう一度斬りかかろうとしたが、相手が「それ」よりも速く動いたせいで、アスカがその攻撃を防がなければ、相手に自身の身体を切りきざまれるところだった。


「アスカ」


「落ちつけ! 冷静さを欠けば、相手の思う壺だ。相手は、お前の隙を窺っている」


 アスカは自分の刀を持ったままで、敵の顔にまた向きなおった。敵の顔は予想どおり、例の笑みを浮かべている。「


クウミは、その言葉に眉を寄せた。確かにその通りだ。この敵は、普通の方法では倒せない。自分の小太刀を捌いた動きからも、その感覚がひしひしと感じられた。「コイツは自分よりも……いや、自分達もずっと強い敵である」と、そう内心でも感じられたのである。


 それゆえに負けられない。相手がたとえ、「自分よりも強い敵だろう」と。この敵からは決して、逃げるわけにはいかなかった。クウミはアスカの目を見たが、やがて目の前の敵にまた視線を戻した。「それでも、絶対に」

 

 勝つ。そう言って相手に振るった小太刀はまたも、その剣に防がれてしまった。クウミはそれでも相手の剣に抗ったが、相手の剣はやはり強く、彼女がどんなに頑張っても、それに抗うどころか、反対に「弱い」とはね返されてしまった。「くっ!」

 

 本体は、その声に「ニヤリ」とした。その言葉を聞いてどうやら、自身の勝利を信じたらしい。クウミが自分の事をまた睨んだ時も、楽しげな顔で「それ」を睨みかえしていた。本体は自分の剣を操って、彼女の身体に斬りかかろうとした。だが、そこに。影達は彼の斬劇を防ぐだけではなく、その剣自体を弾いて、クウミの前から本体を退けてしまった。

 

 本体は不満げな顔で、影の正体を睨んだ。影の正体はトモネとワカコ、それぞれに鞭と輪を得意とする少女達だった。本体は自分の剣を振るって、目の前の少女達を嘲笑った。「まったく、次から次へと! 本当に面倒な奴等だ。払っても、払っても、沸いてくる」

 

 少女達は、その言葉に顔を強ばらせた。それぞれの武器である、を握りしめて。

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