裏25話 火器の嵐(※三人称)

 反撃タイムは、凄まじかった。空中からは空隙チームの攻撃が降り、地上からはボーガンチームの攻撃が飛ぶ。正に「戦い」としか言いようのない時間だった。彼女達の中に混じっていた東方チーム、旅芸人チームも、それに負けず劣らずの攻撃を繰りだしている。彼女達は本体の周りを取りかこんで、その逃げ道を完全に封じていた。


 のだが、やはり侮れない敵。彼女達の攻撃は確かに受けていたが、その傷はやはり深くないらしく、攻撃の嵐を受けている時も、それに怯むどころか、反対に「ニヤリ」と笑っていた。本体は攻撃の嵐をどうにか振りはらって、少女の一人に「甘い」と斬りかかった。「そんな程度じゃ、まったく」

 

 少女は、その言葉に驚いた。だが驚いただけで、それに怯みはしなかった。少女は得意の長巻きを構えて、相手の剣を迎え撃った。「甘いのは、そっちだ!」

 

 本体は、その声を無視した。無視した上に「ニヤリ」と笑った。本体は「彼女が実力者だ」と分かっても、それにまったく怯えず、むしろ嬉しそうに笑って、相手の長巻きに剣をぶつけた。その衝撃は、やはり凄かった。刃と刃がぶつかる衝撃音、それが両者の間に響きわたったのである。それらが互いの間合いから離れた時にも、その余韻がしっかりと残っていた。


 本体は、相手の顔に目をやった。少女も、相手の顔に目をやった。両者は、互いの目をしばらく見つづけた。「やるな」、「そっちこそ」

 

 本体は「ニヤリ」と笑って、自分の剣を構えた。まるでそう、相手の事を嘲笑うかのように。本体は今の場所から動いて、目の前の少女に斬りかかろうとした。だが、それを防ぐのが相手。彼の剣にをぶつけた、ヤエだった。


 ヤエは自分の仲間こと、イブキにウインクして、相手の方にまた向きなおった。相手は、彼女の登場に驚いている。ヤエはその表情に「クスリ」としたが、愛用の布からは手を放さず、それを巧みに使って、相手の剣にそれを巻きつける、つまりは剣の動きを見事に封じてしまった。「動いても、無駄。うちの布からは、絶対に逃げられん。悪い事言わんから、すぐに降参し?」

 

 本体は、その言葉を無視した。その言葉自体は聞いていても、それを受けいれるつもりはなかったらしい。自分の剣を動かして、彼女の布を何とか振りほどこうとした時も、それに苛立ちこそしたが、その言葉自体はすっかり聞きながしていた。


 本体はヤエの顔をしばらく睨んだが、やがて自分の剣をそっと放した。「分かったよ。まいった、なんて言うと思ったかい?」

 

 ヤエは、その言葉に驚いた……だけではなく、相手の反撃も受けてしまった。ヤエの布を逆に利用した、その驚くべき反撃も。ヤエは自分の得意技が封じられたばかりか、それに相手の剣を上乗せされて、仲間達の方に身体を吹き飛ばされてしまった。「んなぁ!」

 

 仲間達は、その声に動いた。彼女が自分達の方に飛ばされてきた瞬間、その身体を何とか受けとめたのである。仲間達は彼女の身を気遣って、彼女が自分の身体を「痛たたたたぁ」と押さえると、不安な顔で彼女に「大丈夫か?」とか「怪我はないか?」と話しかけた。「まったく、無茶な事を」

 

 ヤエは、その言葉に苦笑した。特にチームのリーダーであるサクノから「援護もええけど、自分が危なくなっちゃ」と言われた時は、その言葉に思わず「ごめんな」と謝っていた。ヤエは着物(らしき物)の汚れを落として、本体の顔に視線を戻した。本体の顔は、彼女の様子にほくそえんでいる。「このぉ、他人の不幸がそんなに!」

 

 面白い。それが本体の答えだった。「他人の不幸は、いつも見ても面白い」と言う、答え。それが彼の本意で、また同時に真実だった。本体はヤエの仲間達に目をやると、それをしばらく眺めて、自分の周りをまた見わたした。彼の周りには、例のボーガン部隊が立っている。ボーガン部隊は大筒使いのダンヌ、大型ボーガン使いのゴルンを主として、彼の事をじっと狙っていた。


 本体は、彼女達の武器から視線を逸らした。彼女達の武器は確かに強そうだが、それに「怯える必要はない」と思ったらしい。バヤハさんが盾の内側から彼を見た時も、それに驚くどころか、反対に「ふうん」と笑っていた。本体は彼女の盾から視線を逸らして、彼女達のリーダーに視線を移した。


 彼女達が彼の身体に向かって弾を放ったのは、彼が彼女達のリーダーに攻撃を仕掛けようとした時だった。本体は彼等の弾を避けたが、その爆風は流石に避けられなかったらしく、爆風のそれには怯えなかったものの、身体の方は「それ」に捕らわれてしまった。「いまいましいな、まったく」

 

 ボーガン部隊は、その言葉を無視した。そんな言葉を聞いているくらいなら、相手の身体にまた弾を当てた方がいい。事実、ダンヌが彼に大筒の弾を放っていた。弾は凄まじい爆音を鳴らして、本体の身体に迫った。ボーガン部隊は、その光景に声を上げた。「くたばっちまえ!」

 

 そう叫んだのは、大筒の弾を放ったダンヌか? ダンヌは興奮気味な顔で、本体の様子を見つめた。本体の様子は、(彼女の見る限りは)無傷ではないらしい。一発の威力が高いそれを食らったせいで、本体の服もボロボロになっていた。


 ダンヌはその光景にほくそえんだが、それもすぐに消えてしまった。彼女が本体の服から視線を逸らした瞬間、本体が彼女の前に迫ってきたからである。彼女は相手の攻撃に反射が追いつかず、悔しげな顔でその場に立ちつくしてしまったが……。

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