嬢17話 裏A(※一人称)

 冒険者達は、その声に驚きました。特に彼等の頭目らしき少年、彼に至っては周りの誰よりも驚いています。私達の中で最も弱そうな相手、この私が刃を向けてきた事に心底驚いているようでした。冒険者達は最初の数秒は驚いていましたが、やがて「フッ」と笑いはじめました。


 まるでそう、私の力を侮るかのように。私の突撃を「無謀だ」と思っては、楽しげな顔で「それ」を眺めていたのです。冒険者達は自分と戦う相手への警戒心こそ解きませんでしたが、その意識はどう見ても私に移していました。「笑わせる。あんなの」

 

 素人の動き。そう思いたくなる気持ちは、よく分かります。実際、私も剣術に関しては素人でしたから。彼等に笑われるのも、仕方ありません。正直、そうしようとする私自身が恥ずかしい程でした。でも、それでも、やっぱり譲れない物はある。自分の不安を捨てても、「それ」と戦わなければならない物もある。


 私が彼等に剣を向ける理由は、「自分も仲間の役に立ちたい」、「仲間の命を奪おうとする、この愚かな連中を倒したい」と言う理由だけでした。私は仲間の中で最も小柄、年齢の方は私とそう変わりませんが、「敵との肉弾戦にはあまり向いていない」と思われる少年、トネリ君の助太刀に入りました。「トネリ君、下がって!」

 

 トネリ君は、その言葉に驚きました。ですが、それに「逆らおう」とはしません。私が彼の前に立った時も、目の前の私に「あ、ありがとうございます!」と返すだけで、私の行動はもちろん、その気持ち自体も否めようとはしませんでした。トネリ君は最初こそオロオロしていましたが、モルノ君の「今は、とにかく下がれ」を受けて、私の近くから申し訳なさそうに下がりました。「ご、ごめんなさい! アグラッド様! ぼく……」


 私は、その言葉に微笑みました。それを責めるのは、おかしいですから。彼の謝罪にも、「大丈夫」と応えました。「ここから先は、私が戦うから」と、そう彼に微笑んだのです。私は正面の敵に向きなおって、その顔をじっと睨みました。


 敵の顔は、その威嚇に怯えていました。私の力には怯えていなくても、それには(あくまで私の主観ですが)どうも怯えてしまったようです。私が相手の方に剣を向けた時も、それをしばらく眺めるだけで、その態度を変えようとはしませんでした。私は「それ」に勝機を感じて、目の前の相手に挑みかかりました。「やぁああ!」

 

 相手は、その言葉に目を見開きました。それが私の攻撃、つまりは「本気だ」と気づいたようです。相手は自分の武器を構えて、私の剣を見事に受けとめました。ですが、それもやはり甘かったのでしょう。剣の一撃を受けとめた場所が悪かったのか、それとも私の力がやはり強かったのか、相手が「それ」を受けとめた瞬間、その武器が「パキン」と壊れてしまいました。


 相手は、その光景に驚きました。相手の仲間達も、彼と同じ反応を見せました。彼等は自分達の力を驕っていたせいか、多少の抵抗こそ考えていたものの、その現象自体は本当に予想外だったようです。彼等は仲間の一人が呆然とする中で、その沈黙に妙な緊張を覚えているようでした。「

 

 そう呟いたのは誰か、私には分かりません。ハルバージ君辺りは気づいていたようですが、目の前の敵が「え、なっ!」と戸惑う様を見て、その反応に意識が向かなかったのです。普段は冷静なモルノ君も、この時ばかりは思いきり驚いていました。冒険者達は私の力にしばらく止まっていましたが、流石に「このままでは不味い」と思ったらしく、私と戦っていた仲間を下げて、私に代わりの相手をぶつけました。


 代わりの相手は、先程の敵よりも強そうな青年でした。青年は私の力に最初から怯えていないのか、頭目らしき人物から「油断大敵」と言われても、それに「分かっている」と笑いかえしただけで、目の前の私にはまったく怯んでいませんでした。


「少しはやるようだが、そんな程度じゃ俺達には勝てない。俺達は、Aのグループだからな?」


「裏Aのグループ? そんな物は」


 聞いた事がありません、私の知り限りは。そうなると、考えられる事は一つです。普通の冒険者達とは違う物、正式な冒険者とは違う人達です。それこそ、魔物かどうかも分からない人達を待ち伏せするような。そんな人達が今、私達の前に現われているのです。


 まるでそう、私達の意表を突くかのように。最初の一人もたぶん、その揺動役だったに違いありません。獲物の前に現われて、その注意を引く囮。そして、それが私達の注意を引いている間……。


「取り囲む。なるほど、確かにいい手です。そうすれば、獲物は」


「一網打尽に。お前等は言わば、漁師の網に掛かった雑魚だ。本命の魚ではないが、一応の値は付く雑魚。雑魚は雑魚の値打ちしかないが、それでも魚には違いない」


 相手は「ニヤリ」と笑って、私の身体にまた剣を振りおろしました。ですが、私にそんな攻撃など通じない。私が相手の動きはもちろん、その太刀筋すらも(なぜか)読めていた以上、それに当たる方がずっと難しかったのです。私は相手の剣を捌くどころか、その剣自体を弾いて、相手の身体に剣を突きさしてしまいました。

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