裏21話 振りおろされる剣(※三人称)

 模写、ではない。この場合は、本体か? 自分の分身を作りだした本体、幽霊の中に魂を吹きこんだ存在。それが今、自分達の前に現われたのだ。敵の意表を突くようにして、その姿をスッと表したのである。本体は敵の数に目を細めこそしたが、その力には怯んでいないようで、マティがまた自分の大剣を構えても、それに驚くどころか、反対に「フッ」と笑いだしてしまった。「確かな強さを感じる。が、その程度では」

 

 マティは、その言葉に眉を寄せた。それに苛立ったわけではないが、彼としてはやはり面白くない。相手が自分の事を「フフフ」と笑う態度も、それが自分への挑発としか思えなかった。マティは地面の上を駆けて、相手の間合いに這入りこんだ。「なんだ?」

 

 そう言ってから降ろされる、マティの大剣。大剣は本体の体を襲ったが、本体に「それ」を避けられてしまい、大剣の風圧で相手を飛ばせはしたが、その体に傷は負わせられなかった。マティは「それ」に苛立って、相手の顔をじっと睨んだ。「チッ」

 

 相手は、その言葉に怯まなかった。それどころか、マティの事を「クククッ」と嘲笑っている。まるでマティの力を蔑むように、その口元を笑わせていた。本体は何処から出したか分からない剣を構えて、目の前のマティと向かいあった。


「面白い相手だ。でも」


「『自分の敵ではない』と?」


 その答えは言わずもがな、マティへの冷笑だった。相手の尊厳を踏みにじる冷笑、その自信を打ちくだく笑み。本体はマティの力を舐めてこそいないが、それに怯える様子は見せなかった。「


 マティは、その言葉に押しだまった。それは、最高の侮辱。「自分」と言う存在を舐めた、最悪の暴言だった。マティはマノンの制止を無視して、目の前の相手にまた斬りかかった。「

 

 それと重なる、マティの大剣。彼の怒りが込められた一撃。大剣は周りの空気を切りさいて、相手の頭上にまた振りおろされたが……相手には「それ」を受けとめるだけの力があったらしい。大剣自体は相手に躱されなかったが、相手の剣に「それ」を受けとめられてしまった。


 剣と剣がぶつかり合う光景。見かけの力を超えて、それが等しくなる現象。その奇妙すぎる現象は、それを見ている者達に不思議な気持ちを抱かせた。特にライダルは、その感覚が誰よりも強かったらしい。マティが相手の剣を弾いた後も、不安な顔で二人の戦いを眺めていた。ライダルは自分の剣を握って、マティの顔に視線を移した。


「マティさん! 僕も!」


「動くな」


「え?」


「お前が動いたところで、何も変わらない。ここは」


 その後につづいたクリナ達もまた、彼と同じ意見だった。クリナ達は「透明化」のミュシアを先頭にして、クリナ、マドカ、リオ、シオンと本体に戦いを挑みはじめた。だがそれも、相手にはやはり通じなかったらしい。「透明化」のスキルには「なに?」と驚いていたが、それ以外は冷静も冷静、敵の姿が見えない中でも、その動揺を見せないどころか、敵の力に「凄いな」と喜びさえしていた。「この力は、確かに凄い。相手の姿はおろか、その気配すらも消してしまうなんて。だが」


 そう、それでも無意味。あの幽霊を生みだした彼には、そんなスキルなどまったくの無意味だった。マティが本体の後ろを取り、シオンが敵の足下に矢を放ち、リオが二人の援護に回り、クリナが敵の左側、マドカが反対の右側を塞いでも同じ、それらの行動を嘲笑って、彼等の攻撃を軽々と弾いてしまった。本体は敵との間に距離を取って、その四方すべてに殺気を飛ばした。「話にならない。その程度で戦いを挑むなど」


 クリナは、その言葉に苛立った。特に「その程度」の部分、これにはとても怒ったらしい。透明化の力を受けながらも、それを壊すかも知れない勢いで、目の前の本体に斬りかかった。だが、これも同じ。本体が彼女よりも強い限りは、その攻撃もまたすぐに弾かれてしまう。クリナは相手の力に負けて、地面の上に倒れてしまった。「クッ! 何なのよ、一体? アイツは!」


 マドカも、その言葉に目を細めた。マドカはリオの反対側に立って、相手の動きをじっと窺った。相手は彼女の視線に気づかないのか、地面の上にぼうっと立ちつづけている。「化け物」


 リオも、その言葉にうなずいた。アレは、確かに化け物。これだけの集中攻撃を受けてもなお、そのすべてを弾いてしまうなんて。普通の人間には、ありえない事だった。リオは味方の全員に結界を張って、敵の動きをじっと見はじめた。


「そうだね。でも、きっと」


「突破口は、ある? オレも、そう信じたいけどさ? だけど」


 本体は、その会話を遮った。二人の会話が聞えたわけではないようだが、その気配らしきモノを感じて、会話の続きを「遮ろう」としたらしい。本体は「ニヤリ」と笑って、自分の剣をくるりと回した。「そんな物は、無い。この程度の力じゃ、すぐにやり返せる。挑むだけ無駄だ」


 マドカは、その言葉に押しだまった。リオも、彼女の沈黙に倣った。二人は本体の力に苛立って、相手の事をじっと睨みはじめた。だが、それすらも受けながす本体。本体は自分の剣を構えて、ライダルの方に走りだした。ライダルの放つ、殺気を感じとって。「情けない。それでは、自分から相手に居場所を教えるようなモノだ」


 本体は、ライダルの身体に剣を振りおろした。

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