嬢14話 夢の少年(※一人称)

 そこで「ハッ!」と目覚める、私。私は自分の頭を押さえながらも、真面目な顔で自分の周りを見渡しました。自分の周りには、その寝床とテントが張られています。テントの外には見張りが立っていて、「ここに敵が攻めてこないか」を見ているようでした。テントの向こうに見えている人影も、私のよく知る少年ばかりです。


 私は彼等の事をしばらく見ていましたが、さっきの光景をふと思いだすと、自分の頭を何度か掻いて、あの光景が何なのかを考えました。あの光景から考えられる事、そして、その真実らしき物を考えたのです。私は仲間達の足音にホッとする中で、その事をずっと考え続けました。ですが、やっぱり分かりません。普通に考えれば、「夢」と言う結果になりますが。


 アレを「夢」と言うには、あまりに現実的すぎます。少年が私に向けてきた眼光はもちろん、その槍先が光る光景も、やっぱり夢には思えない。まるで、「現実の現し身」としか思えなかったのです。私がこれから出会うだろう敵、「悪役令嬢わたしとは(これも変な話ですが)対になるような相手だ」と言う風に。本能の内で、彼の存在を感じてしまった。

 

 彼はきっと、。私の前に現われて、その進行を必ず阻んでくる。彼自身の信念に賭けて、その力を振るうに違いない。そう考えると、なぜか怖くなりました。「彼とどこかで合うかも知れない」と言う、そんな不安に襲われてしまったのです。そんな事は決して、有り得ないのに。私の異変に気づいたらしいサタリ君がテントの中に入ってくるまで、その不安にずっと怯えてしまいました。サタリ君は不安げな顔で、私の顔を見つめました。「どうしたの、そんなに震えて? なにか悪い夢でも見た?」

 

 私は、その質問に俯きました。それが自分の胸に響いて、その質問に答えられなかったのです。私は「なにか言わなきゃ」と思いながらも、その言葉がまったく見つかりませんでした。それ故に黙るしかない。彼が私の顔を覗きこんだ時も、それにただ「ごめんなさい」としか言えなかった。私は私自身の性格、ハッキリしない部分に苛立ちました。


「なんでもないんです、なんでも」


「ないわけないでしょ?」


「え?」


「君の顔を見れば、分かる。君は今まで、嫌な夢を見ていたんだ。自分の仲間にも言えないような悪夢を。君は、君の心に蓋をしているんだ」


「自分の心に蓋を、している?」


 サタリ君は、その言葉に微笑んだ。そうする事で、私の不安を宥めるように。


「話していい、君の中で何かが悶えているなら。俺達は、『それ』を受けとめる。君の苦しみは、俺達の苦しみでもあるんだから。一人で抱えてちゃいけない。君はもっと、周りを頼っていいんだ」


 私は、その言葉に折れました。折れた上に思わず泣いてしまった。彼の優しさに胸を打たれて、子どものように「ワンワン」と泣いてしまったのです。私は自分の涙を何とか抑えて、彼に夢の内容を話しました。「実は……」


 サタリ君は、その話に眉を寄せました。それに何かしら感じる所があったのか、何度も「ううん」と唸っています。私が彼に話し掛けた時も、自分の両脚を組みあわせて、夢の内容をじっくりと振りかえっていました。


「それはもしかすると、かも知れないね?」


「正夢? あの夢が、『本当に起こる』って事? 私の仲間が皆、やられる!」


「あるいは、それに近い夢か? 俺達の前に現われる敵、それを知らせる夢かも知れない。『その敵には、充分に気をつけろ』って。神か何かのお告げかも知れない」

 

 私は、その言葉に押し黙りました。特に「神か何かのお告げ」の部分、これには思わず驚いてしまった。神様が私の夢を通して、その危機を知らせてくれるなんて。今の私には、とても信じられない。正直、「それはないだろう」と思いました。自分の信者たる修道士や修道女ならまだしも、「悪役令嬢である私に危機を知らせる」とは。私は神の悪戯、あるいは、悪魔の戯れにただ苦笑しつづけました。「どちらにしても、悪趣味だね。神様も、悪魔も」


 サタリ君は、その言葉に驚きました。私がまさか、そんな言葉を言うなんて。夢にも思わなかったようです。彼は私の顔をしばらく見ていましたが、やがて自分の足下に目を落としました。


「確かにね。でも、それがアイツ等だ。アイツ等は、ずっと昔から悪趣味。人間の心を揺さぶって、それに嫌な幻を見せる。君の夢に出てきた少年も、それに巻きこまれた被害者だろう。君とは、何の関わりもない癖に。神か悪魔の悪戯で、君との関わりを持たされた」


「かわいそうな人。でも、すごく強かった。私の仲間達を次々と倒して。アレは、『普通の冒険者じゃない』と思う。夢の中に出てきた人だから、それが本当にいるかどうかは分からないけど。とにかく!」


「まあまあ、落ちついて。君が怯えても、その事実は変わらない。夢はどこまで行っても、夢だ。それが正夢だろうと何だろうと、その真実を見る事はできない。だから」


「サタリ君?」


「怖がらないで。俺達は死んでも、君の事を守る。君は魔王様の認めた、本物の悪役なんだから。本物の悪役はこんな事で、怖がっちゃいけない」


 私は、その言葉に胸を打たれました。その言葉には、彼の愛情が感じられたからです。私は私自身の不安、その恐怖を抑えて、寝床の上から立ちあがりました。


「サタリ君」


「なに?」


「ありがとう。私、絶対に負けない。あの少年がもし、私の前に現われても。私は私の力で、その恐怖を乗り越せてみせる。それが『私に課せられた使命だ』と思うから」


 サタリ君は「それ」に驚きましたが、やがて「ニコッ」と笑いました。私の思いを受けとめるように。

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