裏18話 幽霊の正体(※三人称)

 そんな力が自分に? そう驚いたライダルだったが、彼女がまだ本物かどうか分からない以上、その話をすべて信じようとはしなかった。彼女がたとえ、「ゼルデ・ガーウィンの仲間だ」としても。彼女がそれを信じるに値する者でなければ、その内容にも「うん」とうなずけなかったのである。


 ライダルはマティから彼女の力について聞いたが、それでも自身の不安を消さないで、少女の顔をじっと見つづけた。


「ミュシアさんの話が、『本当だ』として。『スキル殺し』って言うのは、どう言うスキルなの?」


「スキル殺しは、相手のスキルを殺すスキル。相手が使っているスキルを壊して、普通の人間にしてしまう能力。貴方の奥には、その力が眠っている」


「そう、なんだ。相手の得意技を封じてしまう能力。それは、確かに強いね?」


「うん、強い。強いけど、弱点もある」


「弱点?」


「スキル殺しは、『自分よりも強い相手に使う』と消える。その相手にも通じるけど、使った瞬間に使えなくなる。貴方がスキル殺しを使いつづけるには、と戦いつづけるしかない」


 ライダルは、その話に戸惑った。話の内容はもちろんだが、その悪い部分が大きすぎる。自分よりも強い相手ともし、自分が戦ったら。そのスキルが消えてしまうなんて。スキル自体は強くても、その使い時があまりに難しかった。ライダルは自分のスキルに喜んでいいのか分からず、ミュシアが自分に笑いかけた時も、複雑な顔でその目をじっと見かえしつづけた。


「確かに強いね、このスキル。でも、今の僕には使えない」


「どうして?」


「今の僕は、弱いから。そんなのを持っていても」


「無意味じゃない」


「え?」


「貴方は、強い。自分では、気づいていなくても。貴方は」


 ライダルは、その言葉に押しだまった。それにどう応えていいのか、彼にも分からなかったからである。自分の力を認めてくれている(のか?)は嬉しいが、彼女が自分の力を実際に見たわけではないし、何らかの力でそれを知ったとしても、「それをすべて知っているわけではない」と言う点ではやっぱり、彼としては素直に喜べなかった。ライダルは「謙虚」とも「謙遜」とも違う態度で、彼女の言葉に首を振った。


「ありがとう。でも、やっぱり」


「大丈夫」


「え?」


「貴方は、いつか」


 彼女がそう言いかけた瞬間だった。今まで二人の会話に紛れていた闇が、その雰囲気を急に変え始めた。二人はその変化に戸惑ったが、やがて闇夜の中に意識を戻した。闇夜の中には思ったとおり、例の幽霊が見えている。幽霊は彼等の存在に驚いているのか、その表情こそは分からないものの、明らかに戸惑った様子で、彼等の所にゆっくりと近づいていた。


 ライダルは自分の後ろに少女をやって、目の前の幽霊をじっと見はじめた。「あの幽霊が、町に現われる」

 

 ミュシアは、その言葉を遮った。その言葉自体をまるで、打ちけすかのように。



 それに驚いたのは、ライダルだけではない。彼の隣に立っていた、マティも同じだった。マティは自分の大剣を抜いて、ミュシアの顔に視線を移した。


「どう言う事だ?」


「言葉どおりの意味。アレは、幽霊じゃない。幽霊になった人間」


「幽霊になった人間。それはつまり、『死んだ人間』と言う事か?」


「違う。それじゃ、普通の幽霊。あの幽霊は、普通じゃない。それが生みだされた過程も。あの幽霊は、人間のスキルで作られた」


「人間のスキルで作られた?」


 これには、流石のマティも驚いた。人間の力で作られた幽霊など聞いた事がない。その幽霊が、あんな風にさまよえる事も。すべては、マティの理解を超えた事だった。マティは訝しげな顔で、目の前の幽霊を睨んだ。幽霊は彼の威嚇に驚いたが、その歩み自体は止めなかった。


「お前の言葉が、『本当だ』として。アレを作りだした人間は、どこにいる? アレが人間の作った物なら、その本体も必ずどこかにいる筈だ」


「そう。でも、アレは違う」


「違う? アレには、創造主がいないのか?」


「いる。けど」


「けど?」


「アレの創造主は、アレ自身。アレが自分の身体を霊体に変えて、あんな風にさまよっている。その意味では、あの幽霊こそが本体」


 マティは、その言葉に眉を寄せた。ライダルも、それに震えあがった。二人は彼女の話に押しだまったが、やがて二人同時に「なるほど」と呟いた。マティは、幽霊の方に大剣を向けた。


「奴は、倒せるか?」


 その答えは、「分からない」だった。「でも」


「でも?」


「追いはらう事は、できるかも知れない。あの幽霊にはたぶん、『お祓いは通じない』と思うから。幽霊の外殻に傷を負わせれば、この場所から逃げていく筈」


「分かった。なら、行くぞ? ライダル」


 それに驚く、ライダル。ライダルは不思議そうな顔で、相手の横顔に目をやった。


「マティさん?」


「敵は、得体の知れない相手だ。もしもの事も、考えられる。ここは二人で、一気に畳みかけるぞ?」


 ライダルは、その言葉に「はい!」とうなずいた。それに自分の心を引きしめるように。ライダルは自分の剣を構えて、目の前の幽霊に突っ込んだ。

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