嬢11話 悪役への追手(※一人称)
戦闘の恐怖は消えましたが、夜明けの安堵は消えませんでした。夜明けの安堵はいつも、私の気持ちを満たしてくれます。昨日まで憂鬱だった気持ちを晴らして、それに新しい風を吹かせてくれます。私が今自分の頬に受けている風も、それと同じ雰囲気が漂っていました。私は頬の風にホッとして、自分の仲間達を見わたしました。自分の仲間達は朗らかな顔、その口元に笑みを浮かべています。「皆さん、本当に強いんですね?」
少年達は、その言葉にはにかみました。特にハルバージ君のグループであるトルガ君は、自分の頭を何度も掻いていました。私の言葉がどうやら、相当に嬉しかったようです。彼はチョラ君の程にはしゃいではいませんが、その顔には確かな喜びが浮かんでいました。
「んまぁね? 俺等、魔王軍の中でもかなり強い方だし? あんなのは、本当に朝飯前だよ? 正直、余所見しながらでも勝てるわ」
眠たげな顔ですが、その声はどこか弾んでいます。まるでそう、「それが自分の癖」と言わんばかりに。ズボンのポケットに両手を入れている様子からも、その余裕らしきモノが感じられました。彼は眠たげな顔で、口の欠伸を噛みころしまた。
「生存者もいないしね。俺等の事が……今は、敵に知られる事もない。いつかは、それも知られるだろうけど。今は敵の妨害を防ぐ意味で、余計な情報は知られない方がいいだろう」
「そう、だね。皆が殺した冒険者達も、普通の冒険者とはどこか違う感じだったし。『確かにその通りだ』と思う。私達は、今回の目標が達せられるまで」
トルガ君は、その言葉にうなずきました。その言葉から漂う雰囲気を察して、それに「分かった」とうなずいてくれたようです。
「んだね。でも」
「でも?」
それを聞きながす、トルガ君。トルガ君は真面目な顔で、ハルバージ君の顔に視線を移した。ハルバージ君の顔は彼と同じ、何かの疑問を抱いているようです。
「なぁ、ハルバージ」
「分かっている。俺達の倒した冒険者達だろう?」
「んああ、そうだ。俺達の倒した冒険者達。そいつらの事なんだが、どうも引っかかるんだ。奴等の装備とかには特に変わったところはなかったが、その反応がどう見てもおかしい。『敵の集団に思わず出会ってしまった反応』とは、どこか違うような気がするんだ。それがどう違うのかは、上手く言えないけど」
「なるほどね。それは、俺も思っていたが。奴等はたぶん」
「たぶん?」
「
「捜索、部隊?」
それに驚いてしまった私も、トルガ君と同じ表情を浮かべてしまいました。私は彼の声を遮って、ハルバージ君の前に歩みよりました。
「どうして、今さら? 私の事を?」
ハルバージ君は、その質問に眉を寄せました。おそらくは、質問の答えを考えているのでしょう。彼の思考までは分かりませんが、自分の顎を摘まむ仕草からは、その雰囲気が感じられました。ハルバージ君は自分の顎から手を放して、私の顔を見かえしました。
「君の死体が、見つかっていないからだよ」
その答えに固まってしまった、私。私は少年達の顔を見わたしましたが、気持ちの動揺を抑える意味で、目の前の彼にまた視線を戻しました。彼はまだ、私の顔を見つめています。
「それはつまり、私の事をまだ?」
「『諦めていない』と言うよりは、『死んでいない』と思っているんだろう。君は貴族達のパーティーで、自分の首を掻ききった。自分の首を掻ききったところで、彼等の前からスッと消えてしまった。その光景から『君が死んだかも知れない』と思っても、君の遺体が見つかるまではやっぱり」
「ホッとできない?」
「おそらくは。君は言わば、ある種の危険分子だからね? 自分達の家や周りに災いをもたらすかも知れない危険分子。そんな人間がもし、生死不明な状態のままでいたら?」
「もちろん、怖い。いつ報復に来るか分からないから。それで?」
「ああ、君に追手を放った。正確には、『追手』と言う名の調査隊だろうけど。彼等は君の生死が分かるまで、これからも君の事を追いつづけ」
「そう」
「うん。それにたぶん、君の生存はもう」
「え? まさか、相手に?」
「遅かれ早かれ知られるだろうね? 調査隊の一部が全滅、しかも消息不明になったんだ。余程の人でなければ、その異常性にも気づくだろう。そう言う連中は、俺達が思っている以上に臆病だからね。自分の想像も、悪い方に傾く筈だ。そうなると」
「さっきのような敵が、これからも現われる?」
「そう言う事になるね? 彼等はきっと、必死だ。自分達の体面を守るためにも、君の死体はどうしても欲しいだろう。君の死体さえ見つければ、今の不安もとりあえずは無くなるからね。これからも、躍起になって捜す。君は彼等への復讐者でもあるが、それと同時に彼等の獲物でもあるんだ。『狩られる前に狩る』と言う関係。君達は互いが互いの鬼になっている遊び、そんな鬼ごっこをしているんだよ」
「互いが互いを追いかける鬼ごっこ、か。それでも」
そこに割りこんだトルガ君が、妙に殺気立っていたのは気のせいでしょうか? トルガ君はポケットの中に両手こそ入れていましたが、真面目な顔で私の目を見つめはじめました。
「追ってくるのなら潰す。俺も、そう言う奴等は嫌いでね。嫌な追跡者共には、さっさと退いてもらいたい。アンタもそうだろう?」
私は、その言葉にうなずきました。それに心から「うん!」と微笑んで。
「私は、彼等の獲物じゃない。彼等を追いかける狩人でありたいから」
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