嬢8話 美の統率者 3(※一人称)

 さて、魔王様から闇の美少年達も頂いた事ですし。これから何処を攻めましょう? 私としては我が故郷を攻めおとしたいところですが、「彼等の気分」と言うモノもあります。「自分としては、ここの町を滅ぼしたい」とか、そう言う要望もあるかも知れません。彼等は元々、魔王様の配下であるわけですから。魔王様から「私がお前達の新しい主人だ」と言われても、それに反感を抱いている人もいるでしょう。


 あるいは、その命令にすら不服を抱いているかも知れません。魔王城の中にいる間は一応、「魔王様のご機嫌を取る」と言う意味で渋々従っている人もいるかも知れない。「本当は、こんな奴になど従いたくない」と、そう内心で思っているかも知れないのです。それは、私としても面白くない。だから一応、「彼等の意見も聞こう」と思いました。

 

 私は不安な顔で、少年達の顔を見わたしました。少年達の顔は無表情ではありませんが、それぞれに私との距離感を見せています。私に好奇心らしき物を抱いている人はそれっぽく、逆に不満そうな人は素っ気なく、それぞれに私への態度を見せていました。私は、それらの態度に呼吸を整えました。「あ、あの? みなさんは?」


 少年達は、その言葉に応えました。特に優しそうなグループは私の不安を察してくれたようで、目の前の私に「なに?」と話しかけてくれました。私は、「それ」が嬉しかった。


「その、何処か攻めたい場所はありますか?」


 少年達はその質問に驚きましたが、やがて「クスクス」と笑いだしました。その質問がどうやら、彼等にはおかしかったようです。


「たくさんあるよ、もちろん。でも今は、君の配下だからね。俺達は、貴方の指示に従う」


 残りの取り巻き達も、その言葉にうなずきました。彼等は(その内心は分かりませんが)少年達の中では、私への態度もかなり友好的であるようです。彼等の爽やかな笑顔、華やかな雰囲気、お洒落な服装からは、その空気が感じられました。彼等は「ニコッ」と笑って、私の周りを囲みました。それがなかなかに恥ずかしかったのですが、貴族の社交界で見た女性慣れしている美男子達を思いだすと、それも少しだけ落ちつきました。


 彼等は息をするように笑い、息をするように口づけして、女性の欲望を満たします。言わば、欲望の蜜飴。それを舐めれば、どんな女性もメロメロになってしまう。私も一人の女性である以上、その甘さには思わずクラクラしてしまいました。少年達は「それ」に微笑んで、私の緊張を解してくれました。


「君は、何処に行きたいの?」


「私は……」


 当然、あそこしかありません。私の人生を狂わせ、その心を壊したあそこ。今も思いだしたくない、我が故郷しかないのです。私が魔王様の野望に与している理由も、「その故郷を徹底的に潰したい」と思っているから。そして、「この世の悪を滅ぼしたいから」と思っているだけなのです。私がこの世の人間に罰を与えれば、それだけで世の中も清められる。私は一切の躊躇いを消して、少年達の顔を見わたしました。


「私が行きたい場所は一つ、そこは」


 その先は、別に述べなくてもいいでしょう。これからどうせ滅びる場所なのだし、それにイチイチ迫る必要はありません。大事なのは、それをどう滅ぼすかです。私にはこうして(たぶん)強い配下達が付いていますが、この数だけで攻めおとせるかは(正直)分からない。今は「国の軍がほとんど動いていない」とは言え、一応の精鋭は揃っています。


 それらとすべて戦うのは、正直に言ってきつい。恐らくは互角以上に戦えるでしょうが、こちらの損失も計り知れないでしょう。最悪の場合は、全滅ですらありえるかも知れない。軍事にはあまり明るくない私ですが、それは素人目から見ても明らかな事でした。相手に無策のままで突っ込めば、必ず大変な事になる。私はその現実に唸って、自分の頭を思わず掻いてしまいました。


「ご、ごめんなさい! 今回は、やっぱり」


「いいよ」


「え?」


「君がそこに行きたいのなら、俺達も一緒についていく。さっきも言ったけど」


 違う少年もまた、その言葉につづきました。少年はどうやら、彼と親しい間柄にあるようです。彼の肩に腕を絡ませる動きからは、その親密さが感じられました。少年は「ニコッ」と笑って、着くずした自分の服を揺らしました。


「俺らは、お前の配下だからさ。お前が行きたい場所なら、何処だってついていくぜ?」


「そう、ですか。なら」


「ストップ!」


「え?」


「敬語禁止。何度も言うけど、お前は俺らのリーダーなんだからさ? リーダーなら普通、部下にはタメ口だろう?」


「そ、そうでしょ、かな?」


 たとえ部下でも、「一応の礼儀は必要だ」と思うけど。相手がそう言っているのなら仕方ありません。「全員一律」とはいきませんが、そう望む人には「タメ口を使おう」と思います。私は「ニコッ」と笑って、少年の顔を見かえしました。少年の顔は、太陽のように光っています。それこそ、魔物である事を忘れてしまう程に。人間よりも人間らしく、光よりも光らしく輝いていました。私は、その輝きに胸を打たれました。その輝きと一緒にいれば、私もきっと幸せになれる。


「うん、よろしく!」


「あいよ、よろしく!」


 少年は何処か照れくさそうな、でも嬉しそうな顔で、自分の鼻先をくすぐりました。

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