第107話 帰れない町 6

 調査の班分けを決める事になったが、それに一つの意見があげられた。「これからの事も考えて、新しい組合せを試してみないか?」と言う意見が、調査の段取りを決める段階であげられたのである。今までは新しいメンバーを受けいれ、元からいたパーティーにその特性を加えて、パーティー自体の強化を図ってきた。小規模な組織が、大規模な組織へと変わっていくように。俺達のパーティーもまた、その流れに従っていたのである。


 それが意識にあるか、ないかに関わらずにね。その空気に任せていたが、これからは違う流れも考えなければならなかった。「何らかの原因でメンバーが散り散りとなった時、そうなった時の対処をどうするか?」と言う流れも。俺達は、互いの事を信じている(と思う)。信じている(と思う)が、それらの不安が決してなくなったわけでなかった。だからこそ、その意見があげられたのだろう。それをあげたリオ自身もまた、不安な顔で仲間達の顔を眺めていた。リオは自分の顎をつまんで、床の上に目を落とした。


「みんな事を疑っているわけじゃない。みんな、気持ちのいい子達ばかりだから。どんな状況になっても、『大丈夫だ』と思う。でも」


 そこに割りこんだミュシアもまた、彼女と同じような事を考えていたらしい。彼女は彼女の横顔を見つめると、真面目な顔で仲間達の顔を見わたした。


「それでも、不安が消えるわけじゃない。戦力の分断はたぶん、相手も考える。こっちの人数が少ない時ならまだいいだろうけど、それがもし多くなったら。その戦力をきっと、『割こう』とする。それのままでは多いパーティーを割って、少ない人数の時に倒そうとする。その方がずっと楽だし、こっちはそれだけ不利になるから。有利な状態で勝つのは決して、卑怯な事じゃない」


 少女達は、その言葉に押しだまった。その言葉がたぶん、戦いの本質を突いていたからだろう。少数の敵を倒す時には包囲殲滅、多数の敵を倒す時は戦力分断(あるいは混乱)などが基本だ。その基本が分かってさえいれば、少数でも大軍の敵を打ちまかせる。歴史の中で様々な大戦、激戦を潜りぬけてきた知将達は、そう言う戦術に長けた専門家達だった。俺も、彼等の残した本はいくつか読んだ事があるが……。少女達は真面目な顔で、互いの顔を見あった。


「そうだね、これからどうかるか分からないし。仲間との連携は、強めていた方がいい」


 マドカは「うんうん」とうなずいて、愛用の短剣をクルクルと回した。それがあまりに上手かったせいか、何人かの少女は「それ」に見入っていたが、当の本人は「いつもの事だ」と言わんばかりに「ふん」と笑って、懐の中に短剣を仕舞った。


「オレは、賛成だよ。最初はみんな、そんな感じだったし。ここにいる奴等はみんな、オレの仲間なんだから」


 それがたぶん、決定打になったのだろう。今までは不安が残っていた少女達の顔が、一瞬の内に落ちついてしまった。マドカはその反応に微笑んで、部屋の壁に寄りかかった。


「それで、どうする?」


 その対象はどうやら、俺だったらしい。マドカは部屋の壁に寄りかかった状態で、俺の目をじっと見はじめた。


「調査の班分けは?」


 俺は、その答えに頭を抱えた。答えの決定権が自分に渡された事はもちろん、「それの返答次第では、色々と大変な事が起こりそう」と思ったので、その返事に戸惑ってしまったのである。俺は部屋の中をしばらく歩いてみたが、その返事は上手く答えられなかった。


「そ、そうだね」


 これでもまだ、戸惑ってしまう自分が悲しい。でも、いつかは答えを出さなければならないのだ。「それなら、うん」


 こうしよう。これがある意味で、最も平和な方法だ。



 その反応はもちろん、「くじ引き!」だ。それも、とんでもない大声の。


「大きな紙をちぎって、その紙にいくつか印をつける。印の種類はそうだね、◯とか✕でいいでしょう?」


「異議なし」


 そう誰かが言ってくれたので、残りのみんなも「それでいい」とうなじてくれた。少女達はたまたま持っていた大きな紙をちぎって、そこに何種類かの印を書き、これまた作った箱の中にそれらを入れて、くじ引きの順番を決めてからすぐ、箱の中から一枚ずつ、それもかなり真面目な顔で自分のくじを挽きはじめた。君達、なんかマジになりすぎていない? 言い出しっぺのマドカやミュシアなどは別だが、それ以外はとても真剣な顔でくじを引いていた。彼女達は自分のくじを引きおえると、真剣な顔でくじの内容を確かめはじめた。


「終わった」


 うん、確かに終わった。終わったが、どうしてそんなに暗いの? 部屋の空気も、どうしてこんなに重たいの? 少女達は俺が引いたくじの内容、「◯」と同じマークの人以外はなぜかガッカリしていた。「はぁ」


 俺は、その声に首を傾げた。その声がどうして発せられたのか、その意味がまったく分からなかったからである。俺は不可思議な気持ちで、周りの少女達を眺めつづけた。


「あ、あのぉ?」


 それに応えてくれたのは、俺と同じ調査班になったニィとワカコさんだけだった。二人は嬉しそうな、あるいは、気恥ずかしそうな顔で、目の前の俺に「ニコッ」と笑った。


「それじゃ、ゼルゼル」


 ワカコさん。それ、あだ名ですか? まあいいけど、何だかくすぐったい気持ちです。


「よ、よろしくお願いします」


 ニィさんの方は、何だかたどたどしい。今もやっぱり、俺との距離感を覚えているのだろうか? そう考えると、少し寂しい。


「今回は!」


「う、うん! こちらこそ、よろしくお願いします」

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