第102話 帰れない町 1

 歓迎会の達人、か。店の給仕係が言うには、そう言う認識を持たれているらしい。「ゼルデ・ガーウィンは、本物の女たらしである」と、そんな風に言われているらしかった。実際は、そんな事などないのに。俺が新しい仲間の歓迎会を毎回開くせいで、周りの人達からそう見られているらしかった。挙げ句の果てには、ウェルナにも溜め息をつかれる始末。「あなたのプロフィールに『女たらし』を加えますか?」とか言われてね、呆れ顔で睨まれてしまったのである。彼女は俺の願い(と言うべきか?)を聞きいれて、そのパーティーに新しい名前を付けくわえた。

 

 最初に書きくわえられたのは、ボーガン部隊の少女達。改造ボーガンを使うボウレ、大筒を使うダンヌ、二丁銃(と言うらしい)を使うツイネ、大型ボーガンを使うゴルン、巨大な盾を持つバヤハだ。彼女達は(最初の印象どおり)とても垢抜けた格好で、少し不良っぽい印象を受ける。俺に話しかける口調も、やや荒っぽいしね。まあ、中身の方はとてもいい子達だけど。内気な人からすれば、少し付きあいづらい人達かも知れない。

 

 それにつづいて書き足されたのは、飛行部隊の少女達。赤色のゴーグル(飛行の時に目を守る道具らしい)が熱いユイリ、青色のゴーグルが格好いいスラト、緑色のゴーグルが愛らしいグウレ、黄色のゴーグルが雄々しいエウロ、桃色のゴーグルが可愛らしいピウチだ。彼女達はゴーグルの色に合わせた飛行服(飛行の時に役立つ服らしいが、俺には魔術師の着るそれにしか見えない)を着ていて、その武器も一般的な物が多かったが、彼女達が「切り札」としていたアレにはやっぱり驚かされてしまい、その絶妙な力加減で打ちあげられたそれがパッと爆ぜた時には、その美しさに思わず唸ってしまった。

 

 それにつづいて書きくわえられたのは、東方出身の少女達。長袖の巫女服を着ているヒミカ、半袖の巫女服を着ているコハル、太刀使いのアスカ、小太刀使いのクウミ、長巻き使いのイブキだ。彼女達は凜々しさと美しさを兼ねそなえた容姿が特徴で、その髪も長さこそ違うがすべて黒髪だった。身につけている装飾品も、東方由来の物が多い。特に「お守り」と言う所有者の安全を願った物は、その見事な作りと相まって、俺の心が妙に揺さぶられてしまった。

 

 最後に書きくわえられたのは、旅芸人風の少女達。優雅な扇子を使うサクノ、危なそうな鞭を使うトモネ、不思議な輪を使うワカコ、柔らかそうな布を使うヤエだ。彼女達は人数こそ四人だが、それぞれがそれぞれの得意を活かす事で、「冒険者」としての生業だけではなく、実際に旅芸人としてもかなり稼いでいた。それこそ、その額に「え!」と驚いてしまう程に。彼女達はこの時代を、この狂った世界を、必死に生きていたのである。のだが……それがどうして、これに繋がったのか? 「俺のパーティーに入る」と言う流れに。彼女達程の冒険者なら、そのメンバーだけでも充分にやっていける筈だ。


「それなのに?」


 彼女達は、入った。「スキル死に」から蘇った俺の話を聞いて、「このパーティーに入りたい」と言いだした。「そんなに面白い人がいるパーティーなら、自分達もぜひ入ってみたい!」と。それに驚く俺を無視しては、嬉しそうな顔で「自分達もちょうど、男の仲間を探していた」とか「これからの戦いには、もっと多くの仲間がいるだろうから」とか言いつづけていた。挙げ句の果てには、俺の仲間達すらも抱きこんでしまう始末。彼女達は「まるで旧知の仲だ」と言わんばかりに意気投合して、現在の状況を作りだしてしまった。


 俺は、その状況に溜め息をついた。その状況に不満があるわけではないが、それでも疲れてしまったからだ。俺の予想すらも超えて、次々と巻きおこる出来事に。その出来事に「う、うううっ」と唸ってしまう状況に。とんでもない疲労感を覚えてしまったのである。


 俺の仲間はもう、彼女達の事を受けいれているけどね。その適応力には驚かされるが、同じ年代、同じ性別、同じ職業の少女達が集まれば、そうなるのも決して分からない話ではなかった。同性の仲間が多い集団なら、それが少ない集団よりも、ずっと入りやすいのだろう。そこに彩りとしての紅一点もとえ、黒一点がいれば、(俺には、イマイチ分からないが)精神の興奮を覚えるらしかった。男子達が、一人の美少女に胸を躍らせるようね。彼女達もまた、それと似たような感覚を覚えているらしかった。「ま、まあ、敵でないなら別にいいか」


 俺は彼女達のところから離れて、遠くから彼女達の事を眺めはじめた。彼女達は俺の視線にまったく気づかず、陽気な連中が中心となって、年相応に「キャ! キャ!」と盛りあがっている。それを眺めている大人しい少女達もどこか楽しげな感じだったが、そこから離れてきたミュシアだけは、どこまでも穏やかな雰囲気だった。彼女は俺の隣に座ると、テーブルの上に自分が持ってきたコップを起き、右手でそのコップを弄りはじめた。


「また、増えた」


「うん」


「みんな、可愛い」


「うん、でも」


「でも?」


「俺の女神はやっぱり、ミュシアだ。この人生を救ってくれた女神。それだけは今も……いや、これからも変わらない」


 ミュシアは、その言葉に微笑んだ。思わずドキッとするような、そんな笑顔を浮かべて。彼女は自分のコップを何回か回し、その中身が落ちついたところで、例のアップルジュースを飲みほした。


「ありがとう」


「い、いや、そんな事」


 ない。そう言いかけた俺だったが、ある一言に「それ」を掻きけされてしまった。「それならに行ってみよう」と言う言葉に。俺は「それ」に驚いて、少女達の方を思わず見てしまった。

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