第97話 黄金の龍、弱者の抵抗 6

 強い。それも、ただ強いだけではない。とてつもなく強い。俺の仲間達も相当に強いが、それと同じくらいの強さ、あるいは、それ以上に強かった。あの亀蛇をあっという間に封じてしまうなんて、「驚くな」と言う方が無理な話である。彼女達は巫女の呪術らしきモノで亀蛇を弱らせると、その周りに張っていた結界を解いて、残りの三人に亀蛇を託した。「後は、任せたわ」と言う感じにね。上手い具合に攻守交代を果たしたのである。


 残りの三人は刀剣、それぞれに太刀、小太刀、長巻きを使って、目の前の亀蛇に次々と挑んでいった。その光景は本当に圧巻だったが、彼女達の太刀捌きもまた鮮やかだったせいで、俺の仲間達はもちろん、味方である筈の遊撃竜や刃虎達でさえも、その光景を呆然と眺めていた。それだけ凄い光景だったのである。彼女達は短髪の小太刀使い、セミロングの太刀使い、長髪の長巻きから順々に攻めこんで、目の前の亀蛇をとうとう倒してしまった。「他愛もない」

 

 俺は、その言葉に震えた。そう言われれば、確かにそうなのだろう。彼女の実力を察すれば、ね。でも、それでも、これはやっぱり凄い。凄すぎる。強化状態の亀蛇を倒してしまうとか、それに「凄い」としか言いようがなかった。俺は胸の動揺を必死に抑えながらも、真面目な顔で他の少女達にも目をやった。他の少女達はまだ、俺の仲間達を守っている。


「みんな……」


 仲間達は、その声に応えなかった。その声に応えるだけの余裕が、まったく無かったらしい。彼女達は不安な顔で、目の前の少女達を見つめていた。少女達は、その視線に振りかえらなかった。俺の仲間達が不安でいっぱいなら、彼女達もまた闘志で頭がいっぱいだったからである。


 彼女達はそれぞれの特性を活かして、頭上の遊撃竜、あるいは、炎鳥に攻撃を仕掛けていた。特に炎鳥の方に攻撃を仕掛けているチームは、先程の二グループが「ふうん」と驚く程に動いている。チームの全員が飛行魔法(あるいは、それに類するモノ)を使える上、使っている武器のそれ自体が高威力なせいで、その種類が剣とか縄とかだけにも関わらず、あの強化状態である炎鳥を見事に押さえてしまった。挙げ句の果てには、その縄で炎鳥自体を捕らえてしまう始末。彼女達は空中での連携を活かして、地面の上に炎鳥を叩きおとしてしまった。


「いっちょう、あがりね! 次は」

 

 もちろん、遊撃竜だ。遊撃竜も俺達の頭上を飛んでいた以上、彼女達の追撃からは逃げきれなかったらしい。遊撃竜は彼女達に火炎を放ったが、その的自体が小さかった事はもちろん、相手の動きもすばしこかったせいで、お得意の火炎も空振りに終わってしまった。だから、悔しげに唸っている。彼女達の身体に何としても当てようと、その火炎を何度も吐きだしている。


 肝心要の主様は、「その光景を眺めているだけ」と言うのに。遊撃竜は主人の命令を守って、自分の敵と戦いつづけた。だが、やっぱり限界だったらしい。最初は攻撃一辺倒だったが、彼女達にだんだんと押されはじめ、それでもなお抗っても、自分の攻撃がことごとく躱されてしまい、挙げ句の果てには炎鳥と同様、その身体をぐるぐる巻きにされて、地面の方に落とされてしまった。そこに刃虎がいたものだから、その衝撃も本当に凄まじかっただろう。遊撃竜は刃虎との衝突で傷を負い、刃虎もそれが原因で倒れてしまった。

 

 二体は、身体の痛みに悶えつづけた。そこに鉄の矢を浴びせる、例の狩人集団。彼女達は最初こそ遊撃竜と戦っていたが、遊撃竜の機動力が想像以上にあがっていたせいで、その特技を上手く活かしきれないでいた。それが今、こう言う状況になったわけだからね。その状況に慈悲を与えるわけがない。


 彼女達は「ニコッ」と笑って、遊撃竜の身体に矢を当てはじめた。それがあまりに凄まじかったが、「敵への慈悲は、命取りになる」と分かっていたので、刃虎が彼女達の射程から逃げだした後も、黙ってその光景を眺めつづけた。彼女達は、敵の身体に攻撃を当てつづけた。「くたばっちまいな!」

 

 ううん、物騒。でも、悪い気はしない。戦う相手が、流石にアレだからね。そうなる気持ちも、分かる気がした。俺は遊撃竜が完全に倒されたところで、残りの少女達に目をやった。残りの少女達は、先程の刃虎と相対している。


「あの子達は」


 旅芸人かな? 実際は冒険者だろうけど、その見かけがどうしても旅芸人にしか見えない。華やかな衣装をまとった、華やかな少女達。冒険者のそれには、まったく見えない少女達。少女達は「四人」と言う人数で、それぞれが扇子や鞭、謎の輪や布を使って、目の前の刃虎を苦しめていた。それこそ、旅芸人のそれと同じように。


「さぁって皆さま、お待ちかね。これからは」


 こ、これからは?


「あたし達の十八番、獣狩りの始まりですよ!」


 少女達は「ニヤリ」と笑って、目の前の獲物を睨みつけた。目の前の獲物をじっと見つめる、密林の覇者のように。

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