第96話 黄金の龍、弱者の抵抗 5

 考えてみれば、「自分は、とても幸運だ」と思う。自分自身が困った時、あるいは、その仲間達が困った時にはこうして、何かしらの助け船がくる。今回の場合もまた、その助け船が来た。それも自分達の四方八方から、それぞれの文化を身にまとって、見ず知らずの俺達に厚意を示してくれたのである。


 彼女達は遊撃竜、刃虎、炎鳥、亀蛇の所に別れて、俺の仲間達が戦っている前に次々と走りよった。俺の仲間達が、それに「えっ?」と驚いている間にね。彼等の前に立っては、その防壁になってくれたのである。彼女達は自分の自己紹介も忘れて、目の前の相手に武器を構えた。「こんなところにまさか、とんでもない大物がいたなんてね。本当に驚きだよ」

 

 俺は、その言葉に息を飲んだ。確かにその通りだが、今はそんな事を言っている場合ではない。相手の姿を見わたして、「フフッ」と笑っている場合では。俺は木の物陰から出て、目の前の少女達に叫んだ。「喜んじゃダメだ! そいつらは、黄金龍の力を受けて」

 

 少女達は、その言葉に振りかえった。その言葉に不快感を覚えたような顔で。


「なるほど。つまりは、しているわけだ」


 そう言ったのは、狩人のような服を着た少女。少女は俺と同じくらいの年頃に見えたが、その右手に持っているボーガン(と思わしき物)があまりに特徴的で、彼女の釣り目が「ニヤリ」と笑わなければ、その不思議さに思わずぼうっとするところだった。


「なら、こっちもインチキしなくちゃね?」


 そう返した相手は、俺ではない。彼女の隣に立っていた、彼女と同い年くらいの少女だった。彼女は小型の大筒(変な表現だが、そうとしか言いようがない)を持っていたが、肩の上にそれを乗せていたせいで、その見かけよりもずっと逞しそうに見えた。ポニーテールの下に見えている首は、どう見ても細いのに。彼女は(どう言う原理かは分からないが)、大の男でも大変そうな大筒を軽々と持っていた。


「同感。そう言う相手には、ドでかい一発を食らわせなくちゃ!」


 その隣に立っている少女もまた、彼女と同じような表情を浮かべている。彼女も前の二人と同年代に見えるが、その体型が小柄な事もあって、彼女の両手に持っているそれが、余計に小さく見えた。アレはたぶん、改良型のボーガンだろう。ボーガンとはかなり違って見えるが、武器の上部に火蓋らしき物が見えるので、鉄製の何かを飛ばす武器に違いない。それを持っている本人もまた、その扱いに長けているような感じだった。


「アイツらの身体に風穴を明けてやるよ!」


 それにつづいた、「当然だよね?」の言葉。その言葉を発した少女もまた、今までの少女達と同じくらいに見えた。彼女は周りの少女達とは違い、その両手で大きな盾を持っている。相手の攻撃をすべて防げるような、そんな感じの盾をしっかりと持っていた。彼女は「ニヤリ」と笑って、俺の仲間達を守りはじめた。


「相手の事をこんなに追いこんだのなら、それに仕返しされても仕方ない」


 それにまたつづいた、「それが相手のやった事だから」と言う言葉。その言葉を発した人物はどうやら、彼女達のリーダーらしい。周りのキャピキャピした雰囲気と違って、彼女だけは落ちついた雰囲気を漂わせていた。彼女達と同年代とは、とても思えない。チアが妖艶な大人の感じなら、彼女は知的な大人の感じだ。その両腕で構えている武器もまた、彼女の雰囲気と見事に合っている。ボーガンのそれをずっと大きくしたような、そんな雰囲気の漂う武器も。彼女は冷静な顔で、反対側のグループに目をやった。反対側のグループもまた、彼女達と同じような雰囲気を漂わせている。


「あの子達ともきっと、私達と同じ気持ちである筈」


 そうかも知れない。そうでなければ、俺達の事もわざわざ助けない筈だ。こんな強敵と戦っている俺達の事を、既に疲れきっているパーティーの事を。彼女達はその厚意で、俺達の事を助けてくれたのである。それが、無性に嬉しかった。俺達の窮地を察してくれた、その厚意自体が。涙が出る程に嬉しかったのである。


 俺は亀蛇の前に立っている少女達を見たが、向こうはこちらに視線を向けなかった。少女達は、目の前の亀蛇をじっと見つづけた。特に彼女達の頭目らしい少女は、その不思議な衣服、「赤」と「白」の服装も含めて、異様な雰囲気を漂わせている。まるでそう、目の前の悪魔でも祓うかのように。右手の棒を振りまわしては、何やら呪文らしきモノを唱えていた。「神の模造品に罰を」

 

 それにつづいた少女もまた、彼女と同じような服装だった。上半身の白と、下半身の赤とを組みあわせた服装。東方の記述にしか出てこない巫女服。それを身にまとった二人の少女が、長袖の巫女服少女につづいて、半袖の巫女服少女が亀蛇に呪術を掛けている。彼女達は結界の中に亀蛇を閉じこめて、その亀蛇にまがまがしい呪術を掛けつづけていた。その光景があまりに恐ろしかったが、残りの三人が割と普通(に見えた)だったので、仲間の少女達よりはそんなに驚かなかった。残りの三人は、それぞれに自分の武器を構えはじめた。それがまるで、「いつもの流れ」と言わんばかりに。「彼女達は……」

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