第98話 黄金の龍、弱者の抵抗 7

 獣狩りは鮮やか……いや、鮮やかではないな。これはどう見ても、野蛮だった。目標の相手に矢玉を当てまくる戦術、鉄の雨を降らせる戦法。それは本当に見事だが、同時に恐ろしい光景だった。獲物の虎が、どんどん追い詰められていく。


 虎は身体の痛みに抗おうとしたが、少女達の攻撃があまりに激しくて、ついには「ぐおん!」と叫び、地面の上に倒れてしまった。だが、それでも終わらない。あの虎を追いつめる地獄は、虎が地面の上に倒れた後もつづいていた。それこそ、暴力のそれを表すかのように。猛獣の身体が砕けるまでは、その暴力がずっとつづいていたのである。「す、凄い」

 

 俺は、目の前の光景に息を飲んだ。目の前の光景に怯えた意味もあったが、その内容自体に思わず驚いてしまったからだ。あんな戦法は、今まで見た事がない。接近専用の武器をほとんど使わず、飛び道具だけでモンスターと戦う戦法は。パーティーの中に遠距離要員、魔法の使える魔法使いや、弓矢の使える弓術士などを置く時はあるが、それもあくまで補助要因であり、パーティーのバランスを図る、一つの手段でしかない。


 それを彼等は……どう言う理屈かは分からないが、それに力を注いでいたのだ。敵が自分のところに近づくのを防ぐ、あるいは、その接近すらも許さないパーティー。盾持ちにすべての守りを任せて、自分達はただ相手への射撃に打ちこむ。その新しい戦法になぜか、胸の奥がとても踊ってしまった。彼女達の容姿もどこか、垢抜けた感じだしね。かなり荒っぽい雰囲気ではあったが、時折見せる笑顔はどう見ても十四才の少女だった。「格好いい」

 

 そう、本当に格好いい。あそこまで自分のボーガンモドキをさばく動きには、どうしても熱くならずにはいられなかった。自分の身体をくるりと回して、それから振り向きざまに武器の引き金を引く動きにも。何とも言えない高揚感を抱いてしまった。


 俺は「それ」に胸を躍らせながらも、上空の黄金龍がどうしても気になって、黄金龍の動きを何度も確かめては、それが動いていないところを見て、自分の正面にまた視線を戻した。自分の正面ではまだ、彼女達が暴れまわっている。


「あ、あの、もう」


 いいのではないか? そう言いかけた俺だったが、それも相手にはあまり通じなかったらしい。彼が彼女達に「そのへんで!」と言っても、それぞれの武器を下ろすどころか、より一層に撃ちまくって、刃虎の身体を粉々に砕いてしまった。彼女は「それ」を喜んで、それぞれにハイタッチを交わした。


「イェーイ!」


 テンション、高いですね。俺達の頭上にはまだ、あの黄金龍が飛んでいるのに。そんな事などお構いなしに態度だった。彼女達は「ニヤリ」と笑って、頭上の黄金龍を見あげた。黄金龍はまだ、俺達の事を見おろしている。


「さて、残りは?」


 それにつづく、仲間達の言葉。それらもまた、闘志に燃えた声だった。


?」


 黄金龍は、その言葉に応えなかった。身体の玉をクルクルと回すだけで、自分の素材をまた呼びだそうともしない。俺達の様子をただ、窺っているだけだった。黄金龍は無感動な顔で、周りの雲に稲妻を光らせた。その稲妻でたぶん、俺達を怯ませようとしたのだろう。一撃目は遠くの山に落としただけだったが、二撃目は俺達のすぐ近くに生えている大木へと落として、その樹木を見事にかち割ってしまった。

 

 俺は、その光景に目を見開いた。見開いたが、驚きはしなかった。アイツが最強クラスのモンスターなら、こんな事なんて朝飯前だろう。頭上の空から俺達を見おろす目からは、そう思わせるだけの殺気が感じられた。「お前達では、自分には勝てない」と言う風に。雷鳴轟く雲海の中を泳いでは、楽しげな顔で俺達の事を見おろしていた。


「野郎」


 舐めるな! そう言ったのは、俺ではない。黄金龍の身体に銃口を向けていた、あの少女達だった。少女達は盾持ちの少女を上手く使って、上空の黄金龍に矢玉を浴びせはじめた。


「すぐに蜂の巣にしてやるよ!」


 その口調も、乱暴。だが、それには同感だ。「いつまでも高みの見物ができる」と思ったら、大間違いである。「命乞いは、受けないぜ!」


 彼女達は、黄金龍の身体に矢玉を撃ちつづけた。だが、相手もやはり強力な怪物。そんな攻撃などは、まったくの問題外らしい。身体の宝玉を使って、少女達の矢玉を見事に弾いている。例の大筒が放たれた時も、それをじっと見わしたが、その攻撃すらも簡単に弾いてしまった。


 少女達は、その光景に舌打ちした。その光景がやっぱり、相当に悔しかったらしい。火力の面ではかなり強そうな彼女達だが、「自分の得意技が封じられた」となれば、その悔しさもより一層らしかった。彼女達は恨めしそうな顔で、それぞれの武器に矢玉を入れはじめた。


「ちくしょう! 変な玉をくるくる回しやがって! あたし達の事を」


 舐めてはいないらしい。だが怖がってもいないらしく、彼女達が自分達の武器をまた構えなおしたところで、その上空から突然に舞いおりてきた。黄金龍は盾持ちの少女を弾きとばして、残りの少女に視線を移した。


 少女達は、その視線に怯えている。俺も「それ」に危険を献じて、彼女達の助けに回ろうとしたが……そう考えたのはどうやら、俺だけではないらしい。俺が今の場所から走りだした瞬間、旅芸人風の少女達が「やらせない!」と駆けつけてきた。少女達は自分の武器を使って、黄金龍の周りを取りかこんだ。

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