第83話 炎の鳥、少女達の力 5

 三人の少女達は決して、弱くはなかった。拳法少女は素早いし、獣使いの腕も良好、犬耳少女の力も強かった。正に三傑、戦いの少女達である。だが、それ以外の少女も例外ではなかった。透明化のスキルが使えるミュシア、剣の腕をあげたクリナ、隠密行動が得意なマドカ、弓の名手であるシオン、白魔道士のリオ。彼女達もまた、その力に秀でた少女達だった。彼女達の力が集まれば、どんな敵にも負けない。それこそ、百戦錬磨の活躍だ。マドカの短剣につけられた魔法もまた、その強さを表している。彼女の「ニヤリ」に裏づけられた、その確たる強さを。

 

 マドカは炎鳥の隙を突いて、その背中に勢いよく飛びのった。……よし、ここからが始まりだ。あの炎鳥を倒す、俺達の戦い。「連携」と「継続」とが絡みあった、文字通りの決戦だ。この決戦に勝てれば、あの怪鳥を葬れる。あとは、それに問題が起きないだけだ。

 

 マドカは怪鳥の背に乗って、そこからミュシアの顔を見おろした。「透明化のスキルを使え」と言う合図である。「頼むぜ?」

 

 ミュシアは、その言葉にうなずいた。その言葉自体は聞こえなかった筈だが、相手の意図はちゃんと察したらしい。彼女は「それ」に従って、マドカの身体に透明化のスキルを使った。


「お願い」


 そう言わなくても、その効果は絶大だった。今まで見えていたモノを突然に消してしまうスキル。その気配も混ぜて、相手の認識を殺してしまう才能。それに驚いたのは炎鳥だけではなく、炎鳥と戦っていたビアラ達も同じだった。彼女達は情報としてミュシアの力は知っていたものの、それを見るのは流石に初めてだったので、その全員が「え? なに?」と驚いていた。彼女達は仕事の手を止めて、俺の方に視線を移した。


「これは?」


 俺は、その質問に答えた。それこそ、ありったけの大声で。


「ミュシアの力だよ!」


 ビアラは、その言葉に目を見開いた。まあ、そう言う反応になるよね?


「これが?」


「そう。だから!」


 そこから先は、俺が言わなくても通じたらしい。ビアラは残りの二人に目配せして、彼女達に撤退の指示を送った。「あたし達はたぶん、戦いの邪魔になる」と言う風に。


「分かった、頼んだよ!」


「うん!」


 マドカさん、すげぇいい声。


「任せて!」


 マドカは右手の短剣を回して、炎鳥の首筋にそれを突きさした。ううん、正に暗殺者の動き。刺された炎鳥も、自分に何が起きたのか分かっていない様子だった。マドカは短剣に水の魔法を添えて、炎鳥の中に「それ」を注ぎこんだ。


「そんなに熱い身体じゃ、流石に辛いでしょう? オレがあんたの身体を冷やしてあげる!」


 その返事は、ない。炎鳥が自分の身体を動かそうとした瞬間、リオが相手の身体に向かって捕縛魔法を放ったからである。魔法は敵の動きを封じ、マドカへの負担も(可能な限り)減らしてしまった。こうなったらもう、マドカさんの独壇場である。俺は彼女の身体に強化魔法をかけて、なおも抗おうとする炎鳥には、その意識を逸らす意味で、シオンが地上から何発も矢を撃ちはじめた。


「ほら、ほら、どうしたの? さっきまでの勢いはさ?」


 あ、あおっている。


「そのままだと、死んじまうぜ?」


 今の台詞も、楽しそう。


「焼き鳥野郎が!」


 マドカは「ニヤリ」と笑って、炎鳥の首筋を睨んだ。こ、怖すぎる。炎鳥の周りに矢を放っているシオンも、それと同じような表情を浮かべていた。君達、すげぇ楽しいそうじゃない。俺としては、見ていてかなり怖いんだけど。


「ふん!」


 マドカは炎鳥の首筋を眺めていたが、やがてその視線を逸らしてしまった。彼女が怪鳥の首筋に短剣を刺している間、獲物の身体がまた結晶化してしまったからである。マドカは結晶の正面に傷をつけて、その再生を見事に防いでしまった。


「これが、再生を止まる鍵なんだろう? 結晶体の表面に傷をつける事が?」


 な、なるほど。そんな手があったのか? 流石は、元盗人少女。そう言う観察眼は、普通の人よりもずっと優れているらしい。彼女は「ニコッ」と笑って、俺達にピースサインを見せた。


「どうだ?」


「ナイス!」


 そう応える、俺。周りの少女達も、同じように応えはじめた。


「最高!」


 俺達は彼女の着地を手伝って、その無事をしっかりと確かめた。うん、どこもケガしていない。「ニヤリ」と笑った顔からは、余裕すら感じられる。彼女は「うん」とうなずいて、俺に今回の戦利品を渡した。


「やっぱり、いつ見ても綺麗だよな?」


「ああ、本当に」


 いつ見ても綺麗だよ。


「この戦利品だけはさ。どんな時も、ワクワクする」


 俺は「ニコッ」と笑い、マドカもそれに笑いかえしたが、ビアラ達はなぜか「ごめんなさい」と謝りだした。


「ふぇ? どうして?」


「それは……その、あんまり役に立たなかったから」


「そんなわけ」


 クリナは、その言葉を遮った。彼女もどうやら、俺と同じ気持ちだったらしい。


「ないでしょう? アンタ達の力は、充分に凄かったわ。みんなが、みんなの力を活かしあって。何も卑屈になる事はない。アンタ達は」


「クリナ……」


 ビアラは両目の涙を拭って、目の前の少女に「ニコッ」と笑った。その笑顔に思わずときめいたのは、俺だけの秘密にしよう。


「ありがとう」

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