第82話 炎の鳥、少女達の力 4
それがたぶん、悪かったのだろう。地面の上に結晶体を置いておいた事が、今の事態を引きおこしてしまったのだ。まさか、結晶体の表面が割れてしまうなんてね。流石に意表を突かれてしまった。結晶体は火炎の欠片を散らばらせて、鳥の形にそれらをまた練りなおした。まるで不死鳥のように、不死鳥が灰の中から生まれかわるように。火炎の産声をあげて、生命の神秘を蘇られたのである。俺達がそれに驚いている、正にその瞬間に。
「こんな事は」
ありえる。相手は、不死身の怪鳥。死の淵から何度も蘇る、文字通りの不死鳥なのだ。先程の攻撃が不十分であったなら、この再生も充分に考えられる。炎鳥は自身が結晶体になった後も、その回復力を活かして、自分の身体を蘇らせたのだ。
「しつこい」
それは、周りのみんなも思っていたらしい。俺が自分の杖を握りしめると、彼女達も自分の拳を握りはじめた。彼女達は先程の連携をまた行おうとしたが、炎鳥の方も決してバカではないらしく、剣と拳の攻撃はもちろん、カーチャの攻撃すらも見事に躱してしまった。
「くっ!」
俺は、上空の怪鳥に杖を向けた。やっぱり、あの呪文しかないのかも知れない。すべての怪物を焼きはらう、あの呪文しか。俺は上空の怪鳥に向かって、あの強力な破壊呪文を放った。だが、やっぱり避けられてしまう。砲撃のかすめる瞬間には僅かな反動を食らうようだが、それでも当たらない事には意味がないので、桃色の光は遙か遠くへ、空の向こうへと消えてしまった。
「くそぉ! だったら」
もう、一発。だがこれも、見事に躱されてしまった。炎鳥の速さはどうやら、あの遊撃竜よりも速いらしい。「ちくしょう!」
俺は、自分の杖を下ろした。攻撃の意思が別になくなったわけではない。頭の中がクラクラして、右手の杖を思わず下ろしてしまったのだ。
「くっ!」
その言葉を遮ったのはなぜか、俺の肩に手を乗せたリオだった。リオは何か考えがあるようで、俺の動揺にも「落ちついて」と微笑んだ。
「そんなにイラついていちゃ、見えるモノも見えなくなる」
それで、一気に落ちついた。確かにその通りだ。こんな事でイラついていたら、何も考えられなくなる。命がいくらあっても、足りない。正しい判断には、正しい落ちつきが必要なのだ。今の俺には、その落ちつきが足りていない。
「そうでしょう?」
「うん」
俺は一つ、息を吸った。「それが自分の落ちつかせる」と信じて。
「ありがとう」
「どういたしまして」
リオは「ニコッ」と笑ったが、やがて頭上の空に視線を戻した。頭上の空では、クリナやビアラ達が戦っている。地上の方でも、シオンが彼女達に援護射撃を行っていた。
「ゼルデ」
「分かっている。アイツに火は効かない」
「そう。だから、あの呪文はほとんど効かない。『ただ、火の勢いが増すだけだ』と思う。そんな相手を倒すためには」
そこに割りこんだのは、なんとミュシアだった。ミュシアもミュシアで、何かしらの考えがあるらしい。彼女は真剣な顔で、俺の目を見つめた。
「相手の回復力よりも、強い攻撃を浴びせつづける。あの子達の攻撃は強けれど、継続力がない。一撃が効かない相手には、長い攻撃を当てるしかない」
俺は、その言葉にうなずいた。その言葉を否める理由が、どこにもなかったからだ。あの回復力を破るには、その攻撃がどうしても必要になる。問題は、「それ」を誰があるかだが。
「オレがやるよ」
マドカさん、目が怖いです。でも、凄く頼りになる感じ。彼女の本気は、その周りにいる全員をうなずかせた程だった。彼女は「ニヤリ」と笑って、愛用の短剣を光らせた。
「オレなら、アイツの背後を取れる。オレには、そう言うスキルがあるからね?」
「それなら」
ミュシア、君の目も怖いですよ?
「私も手伝う。あなたの姿を消して、鳥の背中に乗らせる」
「うぉ、分かっているね! 鳥の背中に乗りさえすれば、あとはこっちのペースだ。アイツの首元に短剣を突きさしてやる。もちろん、水の魔法を付けてね? 水は出口が狭いと、その勢いも強くなるでしょう?」
「なら」
リオも、本気状態だ。
「その動きは、あたしが止める。あたしの白魔法なら、『アレにも通じる』と思うから」
リオは俺の顔に視線を戻して、その目をじっと見つめた。俺の同意をたぶん、求めているのだろう。ここのリーダーは一応、俺だからね。そう言う部分は、意外としっかりしているのだ。
「ゼルデ?」
「反対なわけがないだろう? アイツを倒すのが、俺達の仕事なんだから。反対意見なんて、言っている場合じゃない」
「うん!」
リオは、嬉しそうに笑った。周りの少女達も、同じように笑った。少女達はそれぞれの役目を確かめて、新しい戦法を練りはじめた。
「次の攻撃、シオンがアイツに弓を打ったら」
それが合図、作戦実行の合図である。
「よし」
打った。シオンが俺達に目配せして、上空の敵に矢を放った。
「作戦、開始だ」
マドカは「ニヤリ」と笑って、地面の上に飛びあがった。その愛する短剣を光らせて。
「待っていろよ、化け物。不死身の世界から解きはなってやる」
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