第79話 炎の鳥、少女達の力 1

 鳥の住処は、大体が山。それも、山奥の可能性が高い。昼間は濃い霧に包まれ、夜は不穏な空気に包まれた山奥の。神聖なる場所が、邪なる物になっている所だ。まるでそう、山の中へと冒険者達を誘うように。周りの木々を上手く使って、その命を奪いとるように。「山」と言う場所には、多くの危険が潜んでいるのだ。


 俺達が今歩いている山道も、そんな不気味な雰囲気が漂っている。木々の表面に不気味な虫がよじのぼり、それを狙った爬虫類や鳥類、果ては獣類達すらも集まっていた。彼等は弱肉強食の理どおりに振る舞って、自分よりも弱い相手を次々と食べている。俺が道の隅にたまたま見つけた芋虫も、雀のような鳥に「パクリ」と食べられていた。

 

 俺は、その光景に眉を寄せた。その光景が不快だったわけではない。そこから覚える違和感、不自然な食物連鎖にただ苛立ってしまったのだ。まるでこう、自然の真似事のようで。あらゆる自然現象がわざとらしく、そして、演出過多に思えてしまったのである。「ここはたぶん、魔物の領域であろう」とね。そう裏づける証拠は何もなかったが、山の奥へと真っ直ぐに伸びた山道を進む度、その景色がだんだんと変わっていく度にそう思ってしまったのだ。俺はパーティーの周りに結界を張りつつも、真面目な顔で自分の周りを見わたしつづけた。



 それに答えたのは、俺の隣を歩いていたビアラだった。彼女は町の中から出た後も、進んで俺の隣を歩きつづけていた。


「うんうん、確かに。何だか嫌な感じだよ。まるで何かに見られているみたいでさ?」


「やっぱり?」


「うん、ただの感覚だけどね。遠い所からじっと見られているような」


 俺は、その言葉に腕を組んだ。確かにその通りだった。周りの風景はどう見ても穏やかだったが、それはあくまで偽りの姿、魔物が仕掛けた罠のようで、その前進になぜか重圧感を覚えてしまったのである。「これ以上は、近づくな」と言う感じに。それを察していたらしいミュシアも、俺の後ろから「もしもの時は、私もスキルを使う」と話しかけては、不安な様子で地面の上を進んでいた。


「狙われているのかな?」


「たぶんね。『鳥』って言うのは基本、木の枝に留まっているから。あたし達の事をじっと眺めているに違いない。鳥は、その目もいいからね。遠くの獲物も」


猛禽もうきん類だな、『鷹』とか『鷲』とか同じ。獲物の隙をじっとうかがっている」


 俺は、背中の杖を弄くった。そうする事で、「自分の戦意を上げよう」と思ったからだ。


「まあ、何であとうと。俺はただ、そいつを倒すだけだ」


「そうだね、確かに」


 彼女も、やる気満々だ。それはもう、「どこからでも来い!」と言う感じに。これは彼女も含めて、かなりの期待が持てそうだ。


「ケチョン、ケチョンにしてやろう!」


「うん!」


 俺は「ニコッ」と笑って、自分の正面に向きなおった。俺の正面には相変わらず、今までと同じ景色が広がっている。そこに僅かな違いこそあったが、虫は虫らしく、鳥は鳥らしく、獣は獣らしくしていた。だがやっぱり、違和感がある。何とも言えない違和感がさ、空気の中に潜んでいるのだ。見えない気体に隠れて、俺達の事をじっと眺めているのである。


「うっ」


 俺は、額の汗を握った。それに怯えたわけではないが、身体中から汗が噴きだしてきたからだ。周りの少女達にも、それと同じような現象が起こっている。吸いこむ空気が妙に熱いせいで、身体の汗が止まらなくなる現象が起こっていた。俺は「それ」に打ちふるえたが、「ここで焦ってはダメだ」と思いなおして、自分の気持ちをなんとか持ちなおした。


「少し休もうか?」


 その返事はもちろん、「賛成」だった。みんな、相当に参っていたらしい。俺が倒木の上を指さしても、それを特に拒もうとはしなかった。


「近くに川もあるしね? 身体を休めるには、ちょうどいいだろう?」


 俺はパーティーの周りに結界を張りつつも、真面目な顔で倒木の前に向かった。少女達も「それ」につづいて、倒木の前に歩みよった。俺達は倒木の上に座り、風の涼しさに浸って、喉が乾いた人は水筒の水を、それが無くなっていた者は川の水をすくって、自分なりに自分の身体を休ませはじめた。


「ふう、生きかえるわ」


 これは、クリナ。クリナは結構重装備なので、パーティーの中では最も疲れているらしかった。


「堅い鎧もいいけれど。こう熱くちゃ、堪ったもんじゃないわよ」


 マドカは、その言葉に苦笑した。「奇襲」を得意する彼女の装備は、クリナとちょうど真逆。「防御力」よりも「機動力」を重んじていた。「機動力」が高い装備ならば、その重さも当然に軽くなる。マドカは川の水をすくって、それで自分の顔を洗った。


「まあね、この装備でも熱いんだから。その装備じゃ、相当に熱いでしょう?」


「う、うううっ」


「それにしても」


 マドカは、自分の顎をつまんだ。どうやら、何か引っかかるところがあるらしい。


「これは、いくらなんでも熱すぎない? 今の季節を考えてもさ? これは、どう考えても」


 それに答えたのはなんと、ミュシアだった。ミュシアは今の気温に怯えていたらしく、不安そうな顔で周りの風景を見ていた。


「おかしい。


「そう、それ。オレ達の事を今にも」


 マドカがそう、言いかけた時だった。川の水が一気に干あがって、川底が突然に現れてしまった。マドカは、その光景に飛びあがった。


「どうやら、来たみたいだな? オレ達の獲物がね」

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