得意の技能(スキル)が死んだ俺は、所属の組織(パーティー)から追い出されたが、代わりの最強技能(スーパースキル)が目覚めたので、新しい冒険生活(ライフ)を送る事にした
第72話 悪魔の気配、燃えあがる闘志 1
第72話 悪魔の気配、燃えあがる闘志 1
悲しい別れ、かな? マティさんの気持ちは分からないけど、俺には何だかそう思えてしまった。彼とはたぶん、もう二度と……いや、そんな事はないか。この世界に生きている限り、いつかまたどこかで会える。「それ」を裏づける証拠は何もなかったが、観客達の声が響いている中、彼が俺の手を放した気配からは、そう訴える何かが感じられた。
彼はきっと、変わっていく。俺も、俺なりに変わっていく。それがどんなにちっぽけで、おろかしい事であっても、相手の尊厳を踏みにじったり、それを「ざまぁ」と罵ったりするよりは、「ずっといい」と思えた。俺達には、己の生き方を改めるチャンスがある。俺達はただ、そのチャンスに「挑もう」と思っただけだった。
「じゃあな」
「はい」
単純なやりとり。だが、それが無性に嬉しかった。お互いがお互いの本音を喋っているようで、思わず「ニコッ」と笑ってしまったのである。
「お元気で」
「お前も、な」
マティさんは、マノンさんの顔に目をやった。マノンさんの顔は、「ニコッ」と笑っている。まるで胸の痛みが消えていくように、その顔をキラキラと輝かせていた。
「死ぬなよ?」
「マティさんも」
その返事は、なかった。「そんなモノは、言わなくてもいい」と、そんな風に思ったのだろう。彼が俺に自分の背を向けた態度からは、どんな労いよりも強い言葉、励ましよりも優しい空気が感じられた。彼はたぶん、俺の事を心から案じている。俺に自分の罪と罰を示して、その大剣を光らせていた。
俺は、その大剣に胸を痛めた。何だか知らないけど、突然に悲しくなってしまって。その両目から涙を流してしまったのである。
「生きてください」
「だいじょうぶ」
これはもちろん、ミュシアです。彼女は俺の隣に立って、その肩に手をそっと乗せた。
「彼は、死なない。生きようとする意思が強いから」
「なるほど。でも」
「それでも、だいじょうぶ。彼は、あなたの恩人でしょう?」
そうだった。彼は、俺の人生を救ってくれた人。その未来に光を灯してくれた恩人だった。
「恩人は、そう簡単には死なない。それが物語のお約束」
「この世界は、物語じゃないけどね?」
ミュシアは、その言葉に首を振った。それもどこか、楽しげな顔で。
「そこに本筋がある限り、どんな現実も物語。私もあなたも、そのストーリーを生きている」
「何だか不思議な話だけど」
でも、なぜか……。
「妙にうなずける。俺達はある意味で、物語の登場人物かも知れない。その役割を担う登場人物。だから、主役にも脇役にもなれる」
俺は女神の顔を見つめて、それから残りの少女達にも目をやった。残りの少女達は穏やかな顔、どこかホッとしたような顔を浮かべている。
「行こうか? 次の冒険へ」
少女達は、その言葉にうなずいた。特にリオは俺と同じような気持ちだったようで、その言葉に誰よりも「うんうん」とうなずいていた。少女達は俺の後につづいて、闘技場の中から出ていった。「それで?」
クリナは、俺の隣に歩みよった。今までは後ろの方を歩いていたのにね、なぜか「ふん」と歩みよってきたのである。
「次は、どこに行くの?」
「それはもちろん、クエストの内容次第だよ。それに頼む相手が」
そう言いかけた瞬間だった。「冒険者」と思われる男が一人、通りの真ん中を勢いよく走ってきて、周りの冒険者達に「とんでもない知らせだ!」と叫びはじめた。彼は周りの冷たい目、「なんだ、コイツ?」と言う視線を受けてもなお、真剣な顔でその知らせを叫びつづけた。「あの町が、『棄てられた町』が落ちたぞ!」
俺は、その言葉に目を見開いた。それを聞いていた周りの少女達も、俺と同じような表情を浮かべている。俺達は彼の言葉にしばらく呆然としていたが、その魔力がふと消えると、真剣な顔で互いの顔を見あいはじめた。
「ま、まさか。そんな事が?」
これは、俺。今の話にかなり驚いています。
「お、起こるなんて」
信じられない。そう言いかけた俺だったが、彼が「フカザワ・エイスケ」の名前を言った瞬間、その戸惑いがすっかり消えてしまった。まるでそう、悪魔の気配が背後から迫ってきたかのように。男の言った「そいつが『棄てられた町』を落としたんだ!」に震えあがってしまったのである。それを見ていたミュシアが、俺の手を「だいじょうぶ?」と握ってきた時にも。
俺は「それ」に微笑んで、彼女に「だいじょうぶ」とうなずいた。そうしなければ、「周りのみんなにも心配をかける」と思ったからだ。
「ちょっと驚いただけだから、別に」
「そう。でも」
「うん……」
俺は、両手の拳を握りしめた。あまりの悔しさに……いや、これは苦しさか? どちらにしても、「ちくしょう」と思ったのは確かだった。マティさんを超えて、「その勝負にも勝った」と言うのに。フカザワ・エイスケは、それでも俺のずっと前を歩いていた。俺はその背中を思って、自分の実力にイライラした。
「負けていられない、俺も」
自分の夢を叶えるのだ。
「この世界を救うために」
俺は真剣な顔で、自分の正面を見はじめた。俺の正面には……うん、何だろう? 周りの雑音で気づかなかったが、一人の少女が冒険者達、それも柄の悪そうな冒険者達を睨んでいる。少女の隣にはもう一人、こちらは獣使いか? 獣自体は擬人化しているようだが、犬耳少女らしき者がそのご主人を守っていた。
「揉め事か?」
俺は彼女達の様子をしばらく見ていたが、真面目な顔でその近くにそっと歩みよった。
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