第63話 かつての仲間、これからの友 7

 いろいろな事があったが、とりあえずは終わってよかったよ。え? 終わってくれない? 「話は、まだまだつづくよ?」って。確かに「つづく」と言えばつづくが、この空気だけは許してほしい。見せない火花のような物が、バチバチとぶつかるような空気だけは。


 その真ん中にいるのはなぜか、パーティーのリーダーである俺なんだよ? 俺自身はただ、自分の思うよりにやっているだけなのにさ。俺がまるで、すべての元凶のような空気になっているのだ。それこそ、ハーレムの王のように。あらゆる女性の嫉妬や陰謀、その他諸々が俺に集まっている。


「俺、何もやっていないよね?」


 そう呟く俺だったが、それも聞きながされてしまった。挙げ句の果てにはまた、周りの少女達から「女たらし」と言われる始末。はぁ、本当に解せない。これではまるで、針のむしろではないか? 俺の隣に立っているリオですら、今の状況に苦笑しているし。訳の分からない事態である。俺は「それ」に溜め息をついたが、先程の言葉がようやく効いたようで、俺が鞄の中に戦利品を入れた時にはもう、例の町に向かって歩きだしていた。


「やっと帰られる」


 それに答えてくれたのは、俺の隣を歩くリオだけだった。


「そうだね」


 リオは「ニコッ」と笑って、自分の正面に向きなおった。その横顔が可愛かったのは、俺だけの秘密である。


「これで帰られる」


 俺は、その言葉に目を見開いた。それには言葉以上の、彼女の本音が感じられたからだ。自分の帰るところを見つけられた喜び、それに近いような本音が。俺は「それ」に驚くあまり、今までの気持ちをすっかり忘れて、彼女の横顔を思わず見てしまった。


「ねぇ、リオ」


「なに?」


「あの人は、今」


 そう聞いてからすぐ、「何でもない」と言いなおした。あの人の事はもう、彼女から少し聞いている。自分の仲間を(たぶん、無慈悲に)殺してしまった事も。それなのになぜか、あの人の事が聞きたくなってしまった。あの人が今、どこにいるのかも含めて。それをどうしても聞きたくなってしまったのである。


 俺は自分の言葉を悔やみつつ、真面目な顔で今の話題を変えようとした。だが、それもすでに遅かったらしい。俺が別の話題を探しはじめた時にはもう、その答えが聞こえてきてしまった。

 

 俺は、その話をじっと聞きはじめた。


「それじゃ」


「うん、どこにいるのかは分からない。あたし達の仲間がどれくらい残っているのかも。あの人はゼルデを追いだしてから……その理由は分からないけど、仲間への評価が厳しくなった。今までは普通だった事が、『それじゃ足りない』と言いはじめて。評価の線をなぜか、引きあげたの」


「そして君も、その犠牲者になった?」


「……うん。ある日突然、あの人から脱退書を渡されて。その時は、本当に最悪だった。自分の努力がまるで、踏みにじられたかのように。あたしは」


「リオ」


「ごめんね。あたしよりもずっと、ゼルデの方が辛かった筈なのに」


「そんな事は、ないよ。辛い気持ちに大きいも小さいもない。リオは、俺と同じくらいに苦しんでいたんだ」


 リオは、その言葉に押しだまった。その言葉にたぶん、耐えられなくなって。だから彼女の涙が光ったのも、別に不思議な事ではなかった。彼女は両目の涙を拭って、それからまた、隣の俺に「ニコッ」と笑いかけた。


「ありがとう」


「いや」


「ゼルデ」


「ん?」


「あの人は、悪鬼になった。人間の血が流れていない悪鬼に」


「悪鬼、か。その悪鬼は一体、何を求めているんだろう? 自分の仲間を潰してまで」


「それは」


「うん、俺にも分からない。分からないけど、これだけは言える。あの人はたぶん、いつか独りになるよ」


 リオは、その言葉に目を見開いた。彼女もどうやら、俺と同じ意見だったらしい。


「やっぱり、そう思う?」


「思うよ。周りの人を大事にしない人は、その周りからも大事にされない。あの人は、良くも悪くも冷たすぎるんだ。自分の目的を果たすためなら、平気で悪い事もやってしまう。それが結果として、『世の中を平和にする』と信じてね。あの人はたぶん、平和の意味を履きちがえているんだ」


 リオは、その言葉にしばらく黙った。それが彼女の葛藤を表すかのように。


「ねぇ、ゼルデ」


「ん?」


「あの人ともし、どこかで会ったら?」


「もちろん、逃げないよ。逃げないで、あの人と向きあう。あの人とたとえ、『戦う事になった』としても。そうしなければ、俺も前に進めないから」


「そっか。なら、あたしも逃げない。逃げないで、あの人とまた向きあう。自分のこれからと向きあうためにも」


 リオは、俺の目を見つめた。俺も、彼女の目を見つめかえした。俺達は真面目な顔で、互いの目をしばらく見つめ続けた。


「頑張ろう」


 二つの声が重なったのは決して、偶然ではないだろう。俺達はまた、互いの声に「ニコッ」と笑いあった。「かつての仲間。うんう、これからの友にために」


 俺は、その言葉に胸を踊らせた。これから来るであろう、様々な困難に。冒険者が味わうであろう、喜びと悲しみに。俺はそれらの感情を抱きつつも、仲間達と一緒に例の町へと帰った。


 そして、これも未来の光なのだろうか?

 この会話をはじまりに俺達の知名度もどんどん上がっていったのである。

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