第27話 初クエスト、初討伐 4
来たか、ブラックリザードが十五匹。依頼の内容とまったく同じだ。獲物の隙をついて、その背後から襲ってくるのも同じ。すべてが、事前の情報通りである。「頭」と思わしきリザードの頭が赤くなっているが、それ以外はまったくの普通だった。
「よし」
俺はミュシアと場所を代わって、奴らの頭を迎え撃った。社会性の強い生物は、その社会性に頼る。自分達の秩序を守り、頭の指示を守って、その目標を達する。今回の場合もまた、その例に漏れない。
奴らの目標は、目の前の俺達を狩る事。縄張りの中に入った獲物を襲って、その肉を腹いっぱいに食う事だ。自分達の空腹を満たすために、そして、その闘争本能を満たすために。奴らが今も見せている口には、「俺達を食おう」とする意思がはっきりと浮かんでいた。
「そんな意思には、従えないね」
奴らの餌になるなんて、真っ平御免だ。
「クリナ!」
「ちょっ! 様を付けなさい、様を!」
「クリナ様、君は前を守って。前の連中は、子分だ。親分の命令がなければ、ほとんど動けない。しばらくは、君を睨んでいるだけだ」
「そ、そうなの?」
「うん、それに結界も守ってくれる。そいつらの力じゃたぶん、この結界は破られない。どう考えても、返り討ちになるのがオチだ」
それを聞いてホッとするクリナ。最早、大胆なのか臆病なのか分からない。俺が彼女に「大丈夫?」と話しかけた時も、口では「だいじょうぶよ!」と返していたが、その身体はかなり震えていた。これは、気絶もありえるかも。
「とにかく、腰の鞘から剣を抜いて!」
その返事はなかったが、俺の言葉には何とか従ってくれた。顔の方は、かなり涙目だったけどね。
「よし。それじゃ、次は」
「な、なによ?」
「目の前のモンスターに『それ』を向けて」
「こう?」
「そうそう! それが相手への威嚇になる。相手は雑魚モンスターだけど、武器の恐ろしさは充分に分かっている筈だから。君が堂々としていれば、敵に舐められる事はない」
「わ、分かったわ!」
クリナは震える身体で、自分の剣を構えた。それをしばらく見ていたが、俺も俺でやる事がある。「目の前の頭に杖を向ける」と言う威嚇が。「頭の一体を抑えて、その全体を弱らせる」と言う作戦が。
頭の一体が弱まれば、その手下達も戦意を失う。戦意の失った連中は、ただの群れ。自分の頭では何も考えられない、つまりは「烏合の衆」に過ぎない。目の前の敵にただ、震えつづける集団。
そんな集団を倒すのは、意外と難しくはない。場合によっては、少数でも勝てる。手順と戦法を間違えさえしなければ、ね。だからこそ彼女にも「それ」を伝えようとしたが、彼女も彼女なりに「それ」を察したらしく、俺が彼女にまた話しかけた時にはもう、まったくではないものの、ある程度の余裕を取りもどしていた。君、テキオー力高いね。
クリナは、自分の剣をぶんぶん振りまわした。こら、そんなに振りまわしたら危ないでしょう? ミュシアも、それに若干怯えているし。
「ふん! アンタ達なんて、怖くないわ!」
そう口では言うけれど、声はやっぱり震えている。剣の振りも、さっきより激しくなった。
「ほらほら、どうしたの?」
こら、挑発するんじゃありません! 奴らの頭が、怒りだしちゃうでしょう。現にほら、自分の手下達に命令を出しはじめたし。これでは、今までの努力がおじゃんだ。奴らをせっかく無力化しようとしたのに。
「うぇっ!」
「やりすぎだ」
「え?」
「挑発しすぎたんだよ。それじゃ、相手の怒りを買うだけだ」
俺は、目の前の黒蜥蜴を睨んだ。目の前の黒蜥蜴は、今も自分の手下達に叫びつづけている。
「くっ!」
苛立つ必要はない。それは分かっていたが、それでも苛立ってしまった。ブラックリザード達が結界の壁へと攻めかかる光景に。そして、「まあ、いいや」
結界の力は予想通り、奴らの攻撃を防いでいる。その身体もついでに燃やして、敵の数を一つ、また一つと減らしていた。
「よし」
俺は、目の前の光景に眉を寄せた。「このまま行けば、勝てる!」と信じて。
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