第11話 悲しい過去、新しい仲間 4

「まあ、その道も途絶えてしまったけど」

 

 彼女は、その言葉に瞬いた。彼女に自分の過去を話したわけではない。今までのそれは、あくまで俺の回想だ。俺の回想は、俺の頭でしか覗けない。相手に特別な力でもない限りはね。だから彼女も、しばらく何も言わずに俺の顔を眺めていた。


「挫折は、その人を強くする」


「え?」


「昔、わたしの親が言っていた」


「ふうん。それは」


 良い事を言う親だね。


「きっと立派な人達だったんだ?」


「たぶん」


 あれ? 何だか自信なさげだぞ?


「立派な人達」


「嫌いだったの? 親の事」


「嫌いじゃなかった。けど、好きでもなかった」


「どうして?」


「本当の親じゃないから」


「え?」


 衝撃の事実。彼女はどうやら、普通の環境で育っていないらしい。


「な、ならさ」


「うん?」


「本当の親は?」


「本当の親は、殺された」


「魔王の手下に?」


 彼女は、その質問に首を振った。そうでないのなら、一体?


「盗賊」


「盗賊?」


「そう、人のお金を奪う人達。わたしの親は、その人達に殺された」


「そんな事」


 あまりに理不尽すぎる。そんな下衆達に殺されるなんて、あんまりだ。俺の過去も悲しいが、彼女の過去はそれ以上に悲しい。


 俺は怒りのあまり、地面の上を思わず蹴飛ばしてしまった。


「許せない」


「うん」


「俺だったら、絶対に殺している」


「わたしは、殺したくない」


「どうして?」


「人が死ぬのは、嫌だ」


 彼女は「クスッ」と笑ったが、その顔は何処か悲しかった。たとえ悪人でも、人の死はやっぱり悲しい。「幼い頃の記憶」とは言え、そう言う記憶はやっぱり悲しいのだろう。彼女は泣きこそしなかったが、頭上の空を見あげた瞳はわずかに潤んでいた。


「あの人達は、わたしを育てた。たぶん、慰め物にするために。だから、わたしに名前もつけなかった。『おい』とか『お前』とかは、言っても。わたしには、わたしの証がまったくついていなかった」


 俺は、その話に嫌悪感を覚えた。それは、あまりにむごすぎる。


「地獄だね」


 彼女がそれに応えなかったのは、それが正に真実だったからだろう。彼女は自分が不幸すぎるあまり、その感情が限界を超えていたのだ。だから、肝心な部分が死んでいる。男への恥じらいがマヒっている。俺に自分の裸を見られても動じなかったのは、そう言う過去が関わっていたのもしられなかった。


「そうだとしても!」


「うん?」


「い、いや……。自分の力に気づいたのは、いつなの?」


「分からない」


「え?」


「気づいたら、そうなっていた。相手の才能が分かるように」


「そう、なんだ。なら、盗賊達の才能も?」


「分かった。でも、みんな嫌な才能ばっかり。相手を脅せる才能とか。だからみんな、死んでしまった」


「ふうん」


「でも、あなたは違う」


「え?」


「あなたの才能は、特別。普通の人とは、違う」


「どんな風に?」


「普通の人は、魂の外側に才能を持っている。その表面を覆うように、丸い膜を作っている。あなたの剣術もたぶん、それと同じだった。過去の出来事がきっかけで、膜の表面に力が行きわたった」


「なるほど。それじゃ、超剣士のスキルが死んだのは?」


「その膜が破けただけ。隠れていた才能の外側を覆っていた膜が、それを使いすぎた事によって『パンッ』と破けただけ」


「そっか、それなら腑に落ちる。『スキル死に』はそう、滅多に起こる事じゃないから」


「でも、起こってしまった」


「うん。でも、そのお陰で隠れていた才能にも気づけた。『自分が本当は、魔術師だった』って事に」


「魔術師の才能は、魂の内側で眠っていた。わたしはただ、


 俺は、その言葉に微笑んだ。改めて聞くと、やっぱりすごい。彼女は、正真正銘の天才だった。


「それは、普通じゃできない事だよ?」


 彼女は、その言葉に瞬いた。「天才」って奴は案外、自分の才能には無自覚らしい。まあ、それが天才なのかもしれないけどね?

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