第10話 悲しい過去、新しい仲間 3
それを止められた。正確には、その場面を見ていただけかもしれないけど。とにかく、「止めろ」と怒鳴られたのだ。とても怖い声でね。右手の剣も、ついでに弾かれてしまった。
俺は、その相手を睨みつけた。
「くっ!」
なんだよ、止めるなよ! せっかく死のうと思っていたのに。あんた、どう見ても冒険者だろう? 背中に巨大な剣を背負ってさ。その右頬にも、傷なんかつけているし。俺に「止めろ」と言ったのもどうせ、単なる同情なんだろう? だったら!
「どっかに行け! お前の助けなんかいらない」
今思えば、かなり失礼な言葉だった。自分よりも、目上の相手に言う言葉ではない。普通だったら「生意気なガキが!」と殴られる場面だった。
「くっ!」
「勘違いするな」
「え?」
それは、どう言う?
「意味かは、考えなくても分かるだろう? 俺は、お前が欲しい」
「は?」
ますます分からない。コイツは、頭がおかしいのではないか? こんなガキが欲しいなんて、大の大人が言う事ではない。普通なら「消えろ」とか「失せろ」とか言うところである。
「どうして?」
それに対する答えは、正に即答。俺があわてる必要もなく、すぐに返ってきた。
「
「は?」
どこがどう、決まっているのだ? 「お前のスキルが気に入ったから」って。コイツはやっぱり、どこかおかしいのかもしれない。
「そんな理由で?」
「当然だ。『冒険者』に必要なのは力、それも絶対的な力だ。それがなければ、魔王の軍勢も倒せない。お前は、皆の
一瞬の沈黙は、それに対する戸惑い。次の
「討ちたい」
「そうか。なら、俺に力を貸せ」
「え?」
「お前のスキルで、俺のパーティーをもっと強くしろ。そうすれば」
「父さんと母さんの、みんなの仇を討てる?」
「それだけじゃない。この世のすべてを救える。
それが決定打になった。自分の力を使えば、この世を救えるかもしれない。この乱れに乱れた世界を、元の平和な世界に戻せるかもしれない。そう思える証拠は何もなかったが、地面の剣をまた拾いに行ったあたり、俺も「それ」に希望を抱いていたようだった。
俺は剣の柄を握りしめて、男にその鋒を向けた。
「貸すよ。俺の力を、貴方に」
「そうか」
男は何処か、嬉しそうに笑った。俺も「それ」が嬉しくて、思わず笑ってしまった。
「マティ」
「え?」
「それが、俺の名だ」
「マティ、さん」
「お前の名は?」
「俺の名前は、ゼルデ。ゼルデ・ガーウィン」
「ゼルデ」
「はい」
「この町から出ていくぞ?」
「この町から」
出ていく。それはつまり、「これまでの自分を捨てろ」と言う事だった。自分が今まで生きてきた経緯を、そこに関わってきた人達を。「朝の光に捨てつつ、それを焼きはらえ」と言う事だった。「お前はもう、幼い子供ではないのだ」と。
「出ていったあとは?」
「近くの町に行き、そこで登録を済ませる」
「冒険者の?」
「そうだ」
「分かりました。でも」
「なんだ?」
「最後に一つだけ、天の神様に祈らせてください。『俺の両親をよろしく』って」
「分かった、好きなだけ祈れ。死人の始末は、神の管轄だ」
「はい」
俺は、天の神様に祈った。本当は泣きたかったけど、そこは男の自尊心が許さない。目頭の緩みを必死に押さえて、神様に両親の事をじっと頼んだ。
1分。
2分。
3分。
「ふん」
「もういいのか?」
「はい、充分です」
「そうか。なら、行くぞ」
「はい」
俺は右手の剣を握りつつ、自分の過去を背にして、新しい道を歩きだした。
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