第9話 悲しい過去、新しい仲間 2
あれはたぶん……いや、絶対に奇跡だった。そうでなければ、俺が生きのこれる筈がない。モンスターの大群に襲われた町は、その程度はどうであれ、大抵は滅茶苦茶な状態にされてしまう。昨日までは建っていた建物が倒され、店の中にあった商品は燃やされ、せっかく育てた畑の作物もすっかり踏みつぶされてしまうからだ。
俺の住んでいた家も、またしかり。家の大半は怪物達に叩きつぶされ、俺の両親もそれに捲きこまれてしまった。家の壁が、塀が、屋根が、二人の身体を押しつぶす光景。見たとおりの地獄絵図。両親は俺の命を救おうと、家の瓦礫が落ちてくるわずかな隙を見つけて、安全な外側に俺の身体を押しとばした。
その光景は、今でも忘れられない。いや、忘れられる筈がない。瓦礫が父さんの身体を押しつぶす瞬間、父さんが俺に言った「生きなさい」の言葉は、俺が町の風景を眺めていた時、あるいは、山の上から風景を眺めていた時にふと思いだす、不思議な稲妻のようになっていた。それに撃たれると、自分の心が乱れてしまう。目の前の視界も、それと一緒にかすんでしまう。正に形のない魔物、俺の中に潜んでいる真っ暗な怪物だった。
俺は「それ」に打ちひしがれ、同時に真っ黒な感情が沸きあがって……気づいた時にはもう、「超剣士」のスキルを目覚めさせていた。逃れようのない哀しみと、救いようのない憎しみを抱いて、自分でも気づかなかった力を力任せに目覚めさせてしまったのだ。その時の感覚は、今でも忘れられない。
身体の血潮が煮えたぎる感覚。
あらゆる恐怖が、殺意に変わる感覚。
破壊以外の思考が、産まれてこない感覚。
それが俺に地面の剣を拾わせ、普通なら怖がる筈のモンスター共に斬りかかって、それらの命を次々と奪っていった。
それによって生まれた悲鳴は、完全に無視。自分の身体に吹きつけられた血も、まったく気にならなかった。あいつらの血が何色であろうと、そんなのは本当にどうでもいい。今は、あいつらの悲鳴さえ聞かれればいい。アイツらがあげる、断末魔のような悲鳴さえ聞かれれば。
頬から流れる涙も、それに伴う
すべては、無慈悲だ。
幼い子供には、辛すぎる無慈悲。
文字通りの地獄絵図。
そんなところで慈悲を見せるのは、自分が「バカだ」と叫んでいるようなモノだった。
「俺は、バカじゃない!」
だから、右手の剣を振るった。自分でも驚くような動きを見せ、敵の攻撃をふわりとかわして、怪物達の命を次々と奪っていった。それがどれくらい続いたのかは分からないが、町の空が明るくなった頃には、怪物達の姿もすっかり見られなくなって、自分の周りにもそれらがいた跡や、あるいは、死体しか残っていなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
最初は、呼吸。
「はぁ」
次に思考が落ちついた。
「終わった」
そう、すべてが終わった。俺の生きていた日常が、すっかり終わった瞬間だった。俺の日常はもう、どう頑張っても帰ってこない。
死んだ人間は、死んだまま。生きのこった人間は、それに泣きつづけるだけだ。それだけは、ずっと変わらない。自分がまだ、生者の側でいつづける限りは。
それを子供ながらに悟ってしまった俺が、絶望のあまりに取ろうとした行動は……もちろん、自殺しかない。自分の父親からどんなに「生きろ」と言われても、その現実だけはどうしても耐えられなかった。
俺は右手の剣を見てからすぐ、それで自分の喉を切りさこうとしたが……。
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