第8話 悲しい過去、新しい仲間 1
「ありがとう、本当に」
それに微笑む彼女。その顔は、天使のように美しかった。これまでにいろいろな女性を見てきたけれど、こんなに美しい笑顔は見た事がない。思わず見ほれる程の美しさだった。
俺は「それ」を誤魔化そうと、あわてて彼女の顔から視線を逸らした。
「う、ううう」
あ、マズイ。変な声が出てしまった。これでは、彼女に気味悪がられてしまう。
「ご、ごめん」
「なにが?」
「え?」
「ごめん、なの?」
「それは」
たぶん、言わない方がいい。それを言うのはほとんど、自分の恥をさらす事だった。ちっぽけなモノだったが、俺にも俺なりの自尊心がある。その自尊心を損なうのは、俺としてもあまり面白くない。だから、曖昧な返事で誤魔化した。
「うんう、やっぱり何でもない。だからその、気にしないで?」
「分かった」
即答。
「気にしない」
彼女は「ニコッ」と笑って、俺の目を見つめた。俺も、その目を見つめかえした。俺達は互いの目をしばらく見つめあったが、それも数秒くらいで終わってしまった。お互いにどうやら、ある種の感覚を覚えたらしい。ほんの一瞬、他人と他人が交わるあの感覚を。
「行くの?」
「うん……。君のおかげで、隠れていた才能にも気づけたし。俺としても、自分の夢をまだ諦めたくないからさ。やれるところまでやってやる! そして」
「そして?」
「あいつらの事を」
絶対に見かえす。後悔ではなくて、驚かせてやる。「お前らの追いだした剣士は、実はものすごい魔術師だったんだ」ってね? その目を思いきり開かせてやるのだ。
「そして、人間の敵を倒す。俺の故郷を焼いた怪物達を。それを統べる魔王その物を。『冒険者』の名にかけて、絶対に倒してやるんだ!」
この世に生きる人間としても、また、これからを生きる人間としても。自分の未来が真っ暗な世界に落ちるのは、どう考えても耐えられなかった。俺は、明るい未来に生きたい。希望あふれる、平和な世の中に生きたい。今の世の中に広がっているのは、その希望を打ちくだく絶望だった。
「絶望なんて」
「くそ、くらい?」
「ふぇ?」
「あなたの顔が、そう叫んでいるから」
彼女は「クスッ」と笑って、俺の顔を指さした。その仕草もまた、可愛い。本人は俺の反応に首をかしげているが、そんなのは本当にどうでもよかった。彼女の笑顔を見られれば、それだけでホッとしてしまう。
「わたしも、そう思う」
「君も?」
「ええ」
あれ? 表情が暗い。まさか、
「わたしも、怪物に自分の親を殺されたから」
「え?」
ま、まさか?
「君も!」
「うん」
「そっか」
それしか言えなかった。それ以外の言葉はたぶん、彼女への侮辱になってしまうだろう。励ましの言葉は、文字通りの冒涜だ。彼女の悲しみは、彼女にしか分からない。
「まあ、こう言う世界だからね」
「うん……。だからずっと、一人で生きてきた。物心が付いてから、ずっと」
「そうなんだ」
無言の返事。それに胸が苦しくなった。
「俺は目の前で、怪物に自分の親を殺された」
「そう」
「うん」
「それは、つらいね?」
「うん。でも、それが」
「それが?」
「それが、超剣士のスキルを目覚めさせた」
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