第4話 絶望からの出会い 2

 恥じらい。それを感じたのは何故か、俺の方だった。

 

 俺は裸の少女に思わず慌ててしまい、彼女がポカンとする中で、その露わな姿から視線をすぐに逸らした。


「ご、ごめん」


 もう一回、謝った。自分でも、思った以上に動揺しているらしい。


「そんなつもりは、なかったんだ!」


 その返事はない。ただ、水の音が聞こえるだけだ。水面の波がいくつもぶつかって、この静寂を打ちやぶっている音だけが。


「だから」


 これでも、返事はない。聞こえてくる音も、今までとまったく同じである。


 俺は「それ」に耐えかねて、少女の方にまた視線を戻してしまった。少女はまだ、俺の方を眺めている。まるで俺の事を品定めでもするように、その清らかな瞳を光らせていた。


「本当にごめん」


「だいじょうぶ」


 それが彼女の返事だった。人間のそれよりも、ずっと可愛らしい声。それでいながら、年相応の声。声の質から察する限り、おそらくは俺と同じくらいだろう。その背格好も、それと同じくらいに見られる。瞳の色は、淡い緑だったが。


「気にしていない」


「そ、そう? でもさ!」


 少しは恥じらおうよ、君。異性にを見られているんだぞ?


「と、とにかく! 俺は、もう」


「待って」


 何だ? どうして、呼びとめられ……。


「その先に行っちゃダメ」


「え?」


「怖い怪物がいる」


 そこから先は、聞かなくても分かった。彼女はたぶん、俺の身を案じているのだろう。たった一人で森の中を抜けようとしている俺に。


「でも」


 そうなら、彼女の方が危ない。彼女は、どう見ても丸腰だ。泉の縁に置いてある服も普通、「これ」と言って変わったところは見られない。彼女自身の身体にも、「くっ!」


 俺は迷わず、彼女の手をまた握った。それで彼女に驚かれても構わない。俺は彼女の身を案じて、その手を思いきり引っぱった。


「だったら、早く逃げないと」


「え?」


「じゃない! 君は、魔王の手下と戦えるの?」


 俺は彼女の手を掴んだまま、彼女が脱いだ服の所まで行き、それを素早く拾って、彼女に「ほら!」と渡した。


「はやく着て! 今の俺には、君を守られるだけの力が無いんだから!」


 自分の事ですら、守られるか怪しいのに。素人に毛が生えた程度の力では、誰かを守るなんて到底に無理な話だった。勝てない戦いに挑むのは、文字通りの自殺行為である。


「君も、死にたくないだろう? て言うか」


 どうして、こんな危ないところに? 

 それも、たった一人で? 

 この子には、自殺願望でもあるのだろうか?


「まあいい。今は、とにかく!」


 逃げるのが先決だ。それからの事は、それからに考えればいい。


「ぼうっとしていないで!」


 少女は、その声に応えなかった。それがあまりに意味不明すぎる。俺の手も放しこそしたが、そこからは自分の服をゆっくりと着はじめるだけで、今の場所から逃げるどころか、俺の顔を不思議そうに眺めはじめてしまった。


「だいじょうぶ」


 また、だいじょうぶ、だ。今の状況は、どう考えても大丈夫ではない。


「私は、魔王の手下に襲われない」


「は?」


 またもや、意味不明な言葉。「自分は、怪物に襲われない」なんて。この子には、まともな思考回路がないのだろうか? それとも、「もしかして?」


 俺は、彼女の目を見つめた。彼女の目はやはり、どこまでも落ちついている。


「そう言うスキルを持っているの?」


「スキル?」


「そう、スキル。人間の持っている不思議な力」


 少女は、その言葉に目を見開いた。え? 俺、何か変な事を言った?


「そうか。これ、『スキル』って言うんだ」


 まさか! ありえない! 「スキル」の事を知らない人間がいるなんて。


「知らなかった」


 彼女は「クスッ」と笑って、俺の事をマジマジと見た。


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