第2話 スキルが死んだ。そして、パーティーからも追い出された 2

 カチンと来た。今までは自分の現状にガッカリしていたが、今の言葉を聞いて、倒木の上から思わず立ちあがってしまった。

 

 俺は、相手の目を睨みつけた。その目が嫌いだったからではない。今の言葉を「生意気だ」と思ったからでもない。その言葉にただ、「自分の気持ちを踏みにじられた」と思ったからだ。

 

 その思いだけは、どうしても耐えられない。

 自尊心のそれは決して高くない(と思う)が、それにはイラついてたまらなかった。

 コイツには、一発食らわせなければならない。


「ふざけるな!」


 自分はもう、得意のスキルを使えない。


 そんな事すらも忘れた剣は、相手の剣にあっさりと捌かれてしまった。


「なっ!」


「ふんっ!」


 勝ちほこったかのような顔。普段はパーティーの脇役に徹しているだけあって、今は自分がまるで主役のように笑っている。


「何だよ? が使えなきゃ、本当に無能だな。普段は、モンスターをあんなにも狩りまくっているくせに。今は、そこら辺の雑魚と変わらないじゃねぇか?」

 

 それに言いかえしたかったが、確かにその通りだった。

 今の自分は、正真正銘の雑魚。自分が「仲間」と思っていた奴にやられ、笑われ、罵られ。あげくは、地面の上に倒されている。そこから何とか立ちあがろうとしても、自分の喉元に剣先を突きつけられ、その意思をすっかり砕かれてしまった。


「くそぉ」


 オマケに顔も一踏み。

 これが、本当に痛かった。


「へっ!」


 そう言って、俺をまた笑うバシリ。ちっ、涙が出る程におもしろいのか?

 ふざけやがって!


 俺はフラフラの身体を何とか立たせて、相手の目をまた睨もうとした。だが、それは文字通りの無意味だったらしい。補佐役のバシリですらこうなら、周りの連中はもっと最悪だった。「しつこいな、さっさと出ていけ」からはじまる罵倒。「俺達のパーティーに無能は要らない!」と続く怒声。奴らは普段の態度、俺と親しげに話す態度を忘れて、俺に様々な罵倒を浴びせつづけた。


 俺は、それらの声に打ちのめされた。信じていた仲間達に傷つけられた現実。その現実に潜んでいた、醜い本性。うちのギルドは巷でも有名なA級パーティーだったが、それ故に少々傲慢な、自分達への特別意識を持っていた。「俺達は、周りの雑魚パーティーとは違う」ってね。俺としては「それ」があまり好きでなかったが、自分の夢や目標、そして、日々の生活費が掛かっている以上、それを必要以上に責められなかった。


 相手の悪徳に意見するだけが最善ではない。

 時には、それに目を瞑る必要もある。

 そうやって自分を誤魔化し、そして、逃げてきた結果が、今回の追放を招いてしまった。だから、彼らの事は責められない。責める資格すらも、持っていない。

 

 すべては、自分が招いた結果なのだから。

 でも、それでも、これが理不尽である事に変わりはない。

 冒険者達の悪い伝統が生んだ、文字通りの理不尽には。

 

 俺はマティから、パーティーの脱退書を渡された。普通ならリーダーがギルドセンターの受付に出す物だが、そこに代理書(リーダー以外の物が書類を出す場合は、この代理書を添えなければならない)が添えられているため、つまりは「お前が出せ」と命じられているのも同然だった。

 

 俺は、その現実にうなだれた。それ以外の考えは、何も浮かんでこない。元仲間達の罵倒を聞いて、右手の代理書を握りしめて、奴らの前からただ離れる事しかできなかった。

 

 俺は、自分の悲運に打ちのめされた。

 

 ……と。

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