陽姫加入!?その一
――――次の日
「おい見ろよ、あいつだぜ」
「あいつが? 嘘だろ?」
「モテそうに見えねぇけどな」
「金でも渡して雇ってんじゃね?」
廊下を歩くたびにこれだ。人の噂も七十五日というが、逆にいうと二か月半もこんな状態が続くというのだろうか?
冗談じゃない。なんで彼女を五人作っただけでこんな……いや、俺も逆の立場だったら同じ反応をしたのかもしれないけど。
「仕方ねぇだろ、受け入れろよ。それだけの事をお前はやったんだ」
「そうだね~、まさか四人全員と付き合う事になるなんてね」
隣を歩く央平と公太。俺といると色々な視線に晒される事になるのに、彼らは特に気にした様子はない。
この二人の存在は大きかった。一人でいたら間違いなく囲まれて尋問でもされていた事だろう。物理的にも精神的にも支えてくれて、感謝です。
「……四人というか、五人だけどな」
「九郎? なにか言った?」
「い、いや、なんでも……」
鋭く目を光らせる公太。どうやら兄は妹との交際を認めてはくれないようだ。
あの後、月ちゃんは公太に色々と説明を行ったようだが、この反応を見ると反対なのだろう。
そりゃ可愛い妹がハーレムの一員にされたんだ。シスコンの兄としちゃ放っておけないか。
「しっかし四季姫はまだしも、あの月乃ちゃんまで加えるとはな~」
「「…………」」
ここで空気の読めない男の爆弾発言。今の公太に月ちゃんの話は厳禁だ。
「……っ!? も、もしかして酒神先輩もか!? あの人とも付き合ってんのか!?」
「そ、そんな訳ないだろ!? 陽乃姉さんとはそういう――――」
「――――なあ九郎。なら月乃の代りに陽乃姉でどうかな? おススメだよ」
こいつ、平気で嘘をつきやがった。おすすめだと? 本気でお勧めしているような奴の顔に見えないのだが。
妹の代りに姉を差し出す、悪い顔だ。あれだ、詐欺師の顔だ。
「ねっ! 丁度これから陽乃姉の所に行くんだし、ついでに告白しちゃいなよ!」
そうなのだ。これから生徒会の用事で、陽乃姉に召集を受けている。俺達がトイレに寄っている間に四季姫は先に行ったのだろう。
というか告白なんてしてみろ。生まれた事を後悔させられそうだ。
「ついでってお前な……」
「身内の俺が言うのもなんだけど、陽乃姉って外面はいいだろ? ファンクラブが出来たって話も聞いたし」
「ちなみに俺は会員だ! 九郎と公太もどうだ?」
「「お断りだ」」
しかしファンクラブか。生徒会長になった事などで人気が出たのだろうか?
彼女達には……ないよな? ファンクラブ:四季。うわ、ありそう。
しかしファンクラブか。そんな人気が出ている陽乃姉を加えようものなら、冗談抜きで命が危なくならないか?
あのビーチクイーンコンテストで見た取り巻き、アイツらの熱量はヤバかった。
「身長も高いし、スタイルも良い! 頭もいいし将来有望だよ?」
「間に合ってます。それに加えて中身もいいトーリがいるので」
「「――――ッチ。惚気てんじゃねぇよ……」」
おお~怖い怖い。陽乃姉さんには陽乃姉さんの良さがあるのは分かっているけど、俺には無理です。
もう一杯一杯。それにあんな爆弾を内に抱え込んでしまったら、命がいくつあっても足りないよ。
――――
――
―
「――――それで、なにか言いたい事はある?」
「いえ、特には……」
生徒会室にて、生徒会長様に睨まれていた俺。
その俺を心配そうに見守る彼女四人と、面白そうにしている後輩彼女、ビクビクしている男友達二人。
生徒会の仕事の話などすぐ終わり、他の生徒会の人達が退室した後で事件は起こった。
さぁ放課後、彼女達とイチャラブ下校でもしようと思った瞬間、陽乃姉さんに呼び止められた。
「昨日今日と、校内で何回も面白い噂を耳にしたわ」
「ほ、ほう……?」
「とある男子生徒が、四股しているって。堂々と、隠す素振りもなく、それが当たり前だとでも言うかのように」
「姉さん、四股ではなく五股で――――」
「――――アンタは黙ってなさい」
自分が抜かされた事が気にくわないのか、月ちゃんがどうでもいい事を修正しようとするも、陽乃姉さんがシャットアウト。
しかし俺的にも黙っていて欲しい。これ以上、燃え盛る炎にガソリンを投入しないでくれ。
「うちの学園には、風紀委員会なんて漫画みたいなものは存在しないわ。学生の悪行非行を取り締まるのは、生徒会なのよ」
「悪行非行って……」
「端的に言うと、面倒なの。分かるわよね?」
「へい」
その噂の男子生徒が俺だという事もバレている様子。つまり陽乃姉さんは、俺の五股を不純異性交遊として対処するつもりと。
でも面倒だから、せめて校内では止めてくれという感じだろうか。
……それはいい! 学園では離れるようにすれば、いずれ噂は噂で終わり、この針の筵のような学園生活から解放される。
下手に先生に目を付けられても困るしな。学園では大人しくして、学外で愛を育めばいいのではないだろうか。
「なら、どうすればいいのかも分かるわよね?」
「……学園では、彼女達とイチャイチャしないと誓い――――」
「「「「――――それはいやっ!!!!」」」」
「――――つまらなくなるので嫌です」
会長閣下に誓おうと思った矢先、後ろにいた五人が一斉に声を上げた。
勢い其のままに四人は俺に抱き着き、見せつけるかのように陽乃姉さんの前に立った。月ちゃんはそれを眺めて面白そうにしている。
「……アンタ達、そもそも四股されているのを分かっているの?」
「姉さん、四股ではなく五――――」
「――――振られるくらいなら二股された方が良い……なんて考えなら、止めておきなさい。そんなの、ただ都合のいい女になるだけよ」
確かに二股三股と聞くと、そう思う人もいるだろう。女性の想いを利用して、自分にとって都合のいい状態にするんだ。
俺は違う……と言い切れるだろうか? 俺は確かにみんなの事が同じように好きではあるけど、今の状況は俺にとって都合がいい状況ではないか?
……またウダウダと俺は。決めただろ。周りにどう思われようが、彼女達だけは幸せにしてみせると。
いやでも……どうしても陽乃姉さんが怖い。大勢の男子生徒なんかよりも怖い。公太も央平も陽乃姉さんからは助けてくれないだろうし。
「あたし達は今の状況を理解した上で、今の関係性を持っています」
「こうなってみて分かったけど、たぶん、みんな一緒なのが一番いいんだと思う」
「クーちゃんも約束してくれましたし。みんなを幸せにするって」
「私達は納得しています。周りにどうこう言われる筋合いはありません」
「先輩の将来に投資中です。多少の障害には目を瞑ります」
あの陽乃姉さんに一歩も引かず、さすがは強姫。五人の強姫の力が合わされば、最強姫も落とせるか……!?
どこまでもついて行きます。もしかして俺が頑張らなくても、彼女達が引っ張って行ってくれるんじゃないか?
「一人変なのがいるけど……恋は盲目、あ~いやだいやだ。なら勝手にしなさい。ただ、必要以上に校内での接触はやめなさい。苦情がきたら面倒なの」
「「「「だ、だから、それはいや……」」」」
「嫌ですよ。困る先輩がもっと見たいです」
「……あのね? 意地悪で言っているんじゃないの。アンタ達は十分にバカップル。止める人がいないのだから、行く所まで行くわよ?」
「あ、あはは。バカップルだって」
「にゃはは。嬉しいような、でないような」
「行く所とは……校内でそこまではしないですよ」
「秋穂、あなたどこまで行くつもりなのよ」
「先輩方なら、本当に最後まで行っちゃいそうですね」
「おらバカップル、いい加減にしろ。教員が動き出したらもっと面倒になるのよ? いう事を聞きなさい」
「「「「うぅ~……」」」」
「教師が動いたら動いたで、面白そうじゃないですか?」
面白くないです。どうせ俺が痛い目を見るんだ。男子生徒に目を付けられ、教師にも目を付けられる。
ここは俺のためにも納得して欲しいのだが、彼女達は不機嫌そうな、納得できないと言う顔をしている。
やはり、最強の姫には勝てな――――
「――――こ、こういうのはどうかな!? 要は止める人がいればいいんでしょ? なら陽乃姉も、九郎パーティーに加わればいいんだよ! それで監視すればいい!」
「……なるほど。姉として、弟が道を踏み外そうとしているのであれば手を貸すもの。なんなら姉に甘えればいい。彼女なんかよりいい思いをさせてあげるわ」
「公太ぁぁぁぁ!!! なんて事を言いやがるッ!!! 余計な事を言ってんじゃねぇぇぇぇ!!!」
なんて恐ろしい事を! 姉が本気にしてしまったらどう責任を取るつもりだ!?
逃げよう。俺に残された道はそれしかない。
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