第25話 ハーレムとは






 九< 彼女が出来ました。


 央< ふざっっっっっけんなっ!!!!

 公< おお! おめでとう!!


 わいわいと騒ぐ四人を横目に、俺は男友達への報告を行っていた。


 彼女が出来ました……なんて誰かに報告する日が来るとは。四人ほどではないが、俺もニヤニヤが止まらない。



「そ、それなら今日はあたしが内側!」

「今日はジャンケンでしょ~、二分の一」

「というか四人に纏わり付かれて、歩けるんですかね?」

「……二人ずつにしましょう、腕を組んで歩くのは」


 何やら夢のような相談をしている四人だが、腕を組んで帰るつもりなのだろうか?


 そんな事をしては、夏休みだとはいえ一発でみんなの知る所となる。


 ここは一先ず、隠れて付き合うべきではないだろうか? 世界はハーレムに寛容ではないのだ、後ろ指を差されてしまう。


 そりゃ俺だって、腕を組みたい気持ちはあるけど。



 公< それで? 四季姫の誰とお付き合いを? 俺としては夏菜か秋穂を選んでいて欲しい所だね。

 央< 蓮海さんと向空さんも捨てがたいぞ! でもよく選んだなぁ~。俺だったら選べねぇぞ!


 九< 俺だって選べねぇよ。だから……まあとりあえず、新学期に話すよ。



 とりあえず、色々と世話になった二人には報告した。新学期に根掘り葉掘り聞かれるのだろうが、全員と付き合っていると言った時はどんな反応をするだろう?


 公太はどんな選択でも変わらず友達だと言ってくれたけど……まさか全員を選ぶなんて思っていないだろうな。



「し、失礼しま~す」

「こっちは私よ」


「お、おう。話し合いは済んだのか?」


「うん! 今日はウチと冬凛」

「今日だけは譲らないわ」


 腕を組み、体を密着させ始めた夏菜とトーリ。その少し後ろでは悔しそうな顔をした春香とアキの姿があった。


「「むぅぅぅぅ……」」


 頬を膨らませて悔しがる二人は大層可愛かったが、彼女達は我慢をしているのではないか?


 彼女に我慢をさせるような関係って……どうなんだ? それはやっぱりダメなのでは?


 いや違うぞ。四人と付き合うと決めた以上、どうしてもこういう事は出て来てしまうはずだ。


 ハーレムルートの主人公はどうしてたっけ……イチャイチャしていた記憶しかねぇ!!


 なら俺がやるべきなのは――――イチャイチャすればいいのでは?



「春香とアキ、ちょっとおいで」


 トコトコと俺の前までやってきた二人。どこか不思議そうな、それでいて何か期待しているかのような表情を見せる。


 さて、本当にやるのか? 確かに頭を過ったのだが、今まで恋愛経験などなく、ついさっき彼女が出来たばかりの俺に出来るのか?


 いややるんだよ、覚悟を決めろ。四人と付き合うのだ、それくらい強引でも彼女達を喜ばせないと、簡単に終わってしまう可能性もある。



「……キ、キスしていい……?」


「「「へ……えぇぇぇぇ!?!?」」」

「どうぞ、クーちゃん」


 驚く三人とは対照的に、目を閉じて物凄く可愛らしく唇を差し出したアキ。


 こんな可愛く色っぽい顔を見せられたら我慢が……ではなくて! 流石にまだ唇はハードルが高いよ!!



「ち、違くて! おでこ! おでこにキスしていい!?」


「へ……あぁ、うん……いいよ」

「私は別に口でも……」


 とは言いつつも顔を真っ赤にしているアキと春香。


 ゆっくりとおでこを近づけてくる二人。なぜか両腕に込められる力が強くなった。



「――――ん。はは……恥ずかしいな。その、腕組みの代わりと言うかさ」


「「は、はい……ありがとう」」


 キスしたおでこを触りつつ、満足げな表情で二人は一歩下がった。ありがとうはこっちのセリフだ。なんだその髪? いい匂い過ぎて失神するかと思うたわ。


 これで全員が喜ぶだろう! これからも誰かを贔屓する事なく、全員を愛でていく所存であります!!



「ず、ずるいっ!!」

「そうよ! そうよ……」


「……え?」


 まさかの腕組み組からの抗議の声と視線が。ああ、二人の拗ねた表情が可愛い。


「で、でも二人は腕を組むんだろ?」


「キ、キスがいい……」

「ウチも、それがいい……」


 そう言うと二人は腕を放してしまった。二人はそのままおでこを差し出し、早くしろと上目遣いに訴えてくる。


 それでいいならと、二人のおでこにもキスを落とした。


 二人もまぁいい匂い。どうして女の子の髪ってこんなにいい匂いがするのだろう。


「「えへへ……」」


 なにこの二人? えへへだって、可愛すぎでしょ。これ本当に俺の彼女なの?



 その後はただイチャイチャしていただけ。春香とアキが腕に引っ付き、あまりに長いものだから夏菜とトーリが抗議の声を上げて。


 こんなに幸せでいいのだろうか? 彼女達もちゃんと幸せだろうか?


 あの笑顔を見ると、不幸せという事はないと思うけど。


 そんなピンク色に染まっていた屋上に、一陣の風が吹くのでした。



「――――あの~? もう宜しいですか?」


「うん? あれ…………ッゲ!?!?」


「ゲッてなんですか先輩? 人の顔を見るなり、酷いですよ?」

「つ、月乃さんでは……ありませんか」


 そこにいたのは酒神月乃。俺に纏わり付く四人を見ても表情を変えず、ゆっくりと俺達の前までやってきた。



「とりあえず……おめでとうございます、先輩」

「あ、はい……ありがとう、ございます……」


 やべぇ、忘れていた。この子に、告白されていたんだった!!


 何の返事もしないまま、俺は四人も彼女を作ってしまった。彼女からしてみれば、はぁ!? みたいな感じだろう。


 こ、ここで告白の返事を……? こんな雰囲気の中で? 月ちゃんを振れと!?



「つ、月乃さん。あの……お話は後日改めて……」

「改めるも何も他に彼女を作ったのですから、答えなんて決まっているんじゃないですか?」


「あぁ……はい、そうですね……」


 仰る通り、彼女が出来たのだから他の告白は断って当然ですね。


 俺は月ちゃんになんて酷い事を……告白の返事を言葉にするのではなく、彼女を見せて視覚的に断りを入れるなんてっ!!


 四人には悪いが、俺が忘れていたのが悪い。月ちゃんは何も悪くない。


 雰囲気が悪くなって、後味も悪くなるのかもしれないが、誠意を見せなければ。



「あの、月ちゃん。その……ゴメ――――」


「――――ところで、九郎先輩は誰を選んだのですか?」


 さあ土下座の一つでもしようとした時、月ちゃんに言葉と行動を遮られた。


 ここは逆らえない。聞かれた事にはちゃんと答えて、誠意を見せなければ!



「えと……そのですね、誰かと聞かれれば……」

「四人とも、随分と先輩に近い気がしますけど……どういう事ですか?」

「あの、それはですね……」


 出来れば今だけは離れてもらいたい! 目で訴えるも四人は離れるどころか、絶対に渡さないとでも言わんばかりに腕に力を込め始めた。


 ちょっと四人分は痛い。それと、俺が悪いんだから月ちゃんを睨まないでやってほしい。



「よ、四人全員とお付き合い、させてもらう事に……なりました」


「……四人全員ですか。凄いですね? まさにハーレムじゃないですか」

「は、はい。まさに、ハーレムであります……」


 なんのやり取りなんだ!? 早々にお断りを入れて、月ちゃんに謝罪の一つでも口にしたいのだが!?


 言おう、ちゃんと言おう。このまま引き延ばしても何にもならない。



「……なので、月ちゃんとはお付き合い出来ま—――――」


「――――でしたら、いまさら一人くらい増えても問題ありませんよね? それがハーレムというものでしょう?」

「え……?」


「先輩は私の事、お嫌いですか?」

「き、嫌いなんて事はないよ!」


「どちらかと言えば?」

「ど、どちらかと言えば……好きです」


「なら問題ありませんね。彼女四人も彼女五人も、大して変わりません」


「「「「えぇぇぇ……」」」」


 この子、頭大丈夫か? こんな四人も彼女を作るような男のどこが良いんだ? ただの女ったらしじゃないか。


 四季姫も引いている。まるで、四股する男のどこがいいの? とでも言いたげな表情だ。



「つ、つっきー。何を言っているか分かってる?」

「分かっていますよ? 末席に加わらせて下さいと言っています」


「月乃ちゃん。本気で言ってるのですか?」

「本気ですよ? そもそも最初に告白したのは私だと思いますが?」


「後輩キャラは……マズい気がするよ!? あたしの彼氏が寝取られる!?」

「蓮海先輩って、結構変な人だったんですね。大丈夫ですか?」


「な、なにが狙い? 貴女って、狡猾なイメージがあるから」

「向空先輩、年下に何をビビっているのです? まぁ、強いて言うならば……」


「「「「……い、言うならば?」」」」


「ハーレムを壊すつもりはありませんけど……最終的に私を選んでくれればそれでいいので」


「「「「は、はぁ!?」」」」


 いつの間にか四人は俺から離れて、月ちゃんを囲みだしていた。


 まるで先輩が後輩を囲んで虐めているような光景だが、どう見ても月ちゃんの方が四人を圧倒している。


 この後輩一人で、先輩四人分のパワーがあるというのだろうか。



「ハーレムという環境、関係性というのは、先輩方が思っているより難しいものだと思いますよ?」


「「「「…………」」」」


「先輩方も気づいていると思いますので、詳細を口にはしませんが……つまり、最終的に一対一になっている可能性があるという事です」


「「「「そ、そんなことないよ……」」」」


「先輩方はメインもメインのヒロインですから、誘惑も多いでしょう。九郎先輩のような人が最終的に選ぶのは……彼の元に最終的に残るのは、私のようなサブヒロインだと思うのですよ」


「「「「そ、そんな事ないっ! 私達はずっと残りますぅ!!!!」」」」


「まぁ、九郎先輩もサブだと思っていたのですけど……こんな結果になったのであれば、私が間違っていた可能性もあるので」


「「「「な、なにを言っているの?」」」」


「つまり、九郎先輩のこれからの人生に興味が出てきました。どうなって行くのかを見てみたい……その時に傍にいれないのは、後悔しそうなので……」


「「「「し、しそうなので……?」」」」


「全力で私の事を一番好きにさせます、お覚悟を」


「「「「あははは……いい度胸だねっ!!!! 負けないからっ!!!!」」」」


「という事は、私の加入も認めて下さるという事ですね?」


「「「「どんと来いやぁ~!!!!」」」」



 誰も彼も怒っているといった感じではないが、女の戦いが始まりそうな雰囲気は出ている。


 まぁ、なんだかんだ言って仲良くはやるのだろうけど。四人と月ちゃんが良いと言うのであれば、俺に文句なんてありはしない。


 本音を言えばあんな美少女後輩、手放したくありません。俺のものだ……おお! ハーレム主人公っぽくなってきたんじゃないか!?


 ハーレムとはそういう事だ! 来る者拒まず、去らせはしない……違うか?



「では九郎先輩。先輩の事を好きになる予定ですので、私とも付き合って下さい」

「ざ、斬新な告白だね? まぁ、その……月ちゃんがいいなら」


「私がいる事でメリットもありますよ? 先輩たちを盛大に煽っておきましたので、先輩方は危機感を覚えて九郎先輩に迫るはずです」

「せ、迫る?」


「ええ、あの様子だと……蓮海先輩なんかは、真っ裸になった自分にリボンでも結んで、プレゼントは私……とかやりそうです」

「な……なんとっ!? それはまことか!? あの春香が!?」



「いやいやっ! そこまではしないよっ」


「……いや、春香ならしそう」

「ええ、春香ならやりかねないわ」

「むむ……負けられませんね」


 俺的にはアキの方がそういう事を平気でしそうなんだけど……いや、もっと平気でしそうな月ちゃんがいたな。


 そんな事をされたら、間違いなく落ちる自信がある。優劣は付けてはいけない、みんな等しく平等に想わなければこの関係は崩壊してしまう。


 精進せねば……というか、冷静に考えると恋愛素人にハーレムは厳しいんじゃないか!?



「では私の位置は……どうやら正面しか開いていないようですね。失礼します……ぎゅ~」


「おい新入りっ! いきなり胸とはいい度胸だね!」

「私、ちょっとあの子に勝てる気がしないわ……」

「とりあえず、あのクソね……泥棒猫には目を光らせましょう」

「はぁ……りぼん、買っておこうかな」


 まあ、面白くはなりそうだし、これからもみんなの隣にいられるのは嬉しいけど。


 なんというか、本当に選択を間違った気がしてならない。

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