第22話 同時告白






 公太と話し込み、いよいよ自分の気持ちを自覚した所で月ちゃんを待っていたのだが、屋上に現れたのは四季姫だった。


 今日の会議中、彼女達とは一言も会話をしていない、もちろん何かを約束していた訳でもない。


 なにか用事があってここに来たのかもしれないが、早くしないと月ちゃんが来てしまう。流石に想い人の前で他の子への告白の返事はしづらい。



「ど、どうした? みんな……なにかあった?」


「「「「…………」」」」


 四人とも目を伏せていたり逸らすだけで、なぜか反応しようとしない。やはりさっきの公太との会話を聞かれていた可能性がある。


 つまり俺が……四人の事が好きだと知られてしまった可能性が。



「……もしかして、さっきの会話を聞いてた?」


 だとしたらよろしくない。四人の事が好きなのは事実だが、そこから誰かを選べた訳ではない。


 これが一人だったのなら勢いそのままに告白でもする所だけど、今の俺は何も選べていない。



「……さっきのって、公くんとの話? 今来たところだから聞いてないよ。頑張れって、言われただけ」


 代表して夏菜が答えてくれた。


 頑張れとは、なんの事だろう? 彼女達はここで何かをするつもりだったのだろうか? それならば、邪魔なのは俺の方か。


 月ちゃんに連絡して、場所を変えてもらおう。



「そっか。よく分からないけど、俺の用事は終わったから。またな————」


「「「「————ま、待ってっ!!!!」」」」


 足を動かそうとした時に四人に呼び止められた。


 どこか焦ったような、泣いてしまいそうにも感じられた声。流石に放っておけなくなり、足を止めて彼女達の話を聞く事にした。



「ちょっと話があるのだけれど……時間いいかしら?」

「えっと……ちょっとこれから、用事が……」


 真剣な目をするトーリ。よく見れば他の三人の目も俺の目を見つめていた。


 さっきまであった弱弱しさはなくなり、何か覚悟でも決めたかのような力強い目だった。



「すぐ済むから、少しだけダメかな?」

「だ、だめって事はないんだけど……なんと言うか」


 春香はそう言うが、今ここに月ちゃんが来たら大変な事になってしまう気がする。


 彼女達の用事が何なのかは分からないが、少なくとも告白の返事より大事って事はないだろう。


 ならやっぱり、月ちゃんへの返事を優先させるべきなのだろうが。



「本当にすぐです。イエスかノーか、答えてもらうだけですから」

「そ、そうなのか? まぁ、それだけなら……」


 あまり見た事のないアキの真剣な目、雰囲気。それが四人ともだ。


 ここで強引に行く事も出来るだろうけど、そうすると取り返しがつかない事になりそうな気がする。なによりなんでか放って置けない。


 彼女達もすぐ終わると言うし、月ちゃんが来ない事を祈るばかりか。



「えと……まず、どうしようか?」

「ひ、一人ずつは一人ずつなんでしょ?」

「う~ん、まずみんなで一緒がよくないです?」

「そうね。四人別々だと、最後の人とか……ね」


「な、なあ? なに話してんだ?」


 急にヒソヒソ話を始めた四人。断片的にしか聞こえないが、何かを四人一緒にやろうとしているみたいだけど。


 俺は正直、あの半開きになっている屋上の扉が、いつ開かれるか気が気じゃないのだが。


 なんでちゃんと閉めないのかなぁ? 本来、この屋上は出入り禁止なんだぞ。


「じゃあ、せ~ので」

「やば、緊張がやば」

「ドキドキしますね」

「みんな一緒だから」


 今にも扉が開きそうなんだがっ!? なんならもういるんじゃないか!?


 あの子なら変なタイミングで乱入しようとしているかも! それにもしかすると、半開きに気づいた先生が来る可能性も!?


 先生なんて来た日には、下手をしたら停学!? じゃないにしても反省文は免れな――――



「九郎くん」「九郎」「クーちゃん」「クロー」


「なに!? ど、どうしたの!? それより一回、扉を閉めてこない――――」


「「「「――――せ~のっ!!!!」」」」


「いや、だからさ――――」



「「「「あなたの事が――――好きです」」」」



「…………ぇ?」



 開いた口が塞がらない。目は見開き、耳の奥には声が焼き付いた。


 あなたのことがすきです。


 彼女達はそう言って、そう聞こえた気がする。


 そう聞こえたのに、言っている意味が分からない。俺の頭が、理解できないと騒いでいる。



「え……え? どういう事……?」


「え? 言葉通りの意味だけど……九郎くん、好きだよ」

「うん。そのまんまなんだけど……九郎、好きだから」

「混乱しているのでしょうか……クーちゃん、好きです」

「まぁ、分からなくもないけどね……クロー、好きよ」


「あぁ、そういう事……まぁ、俺も好きだけど」



「「「「えっ!?!?」」」」


「え? あん? なに、どゆこと?」


 未だ呆けている俺を無視して、再び四人は何かを話し出した。



「ね、ねぇ? 俺も好きって言ったよ?」

「い、言ったよね!? つまりどゆ事?」

「四人とも、好きって事なんですかね?」

「と、とりあえず、今の内に押し切る?」


 徐々に理解し始め、もの凄い事を言われてもの凄い事を口走った気がしてくる。


 好きって言われて好きって答えたって事か? それって両想いって事?


 という事はなに? 俺、告白されたのか?


 いやいやいや、四人だよ? 四人が同時に告白するって何よ?


 なにか別の意味が……? 好きですって……どういう意味?



「うん。このまま押し切っちゃおうよ」

「まだ混乱しているようだし、この隙に」

「そうしましょう。既成事実って奴ですね」

「皆の前で想いを伝えるのは、恥ずかしいし」


 とりあえず冷静に……屋上で、俺は四人に、好きですと言われました。


 真剣な目で、言い終わった後は頬を真っ赤に染めて、まさに乙女でした。


 まるで恋する乙女が、覚悟を決めて告白した時のような……え? マジで……?



「「「「大好きです! 付き合って下さいっ!!!!」」」」


「な…………なにィィィィィィィ!?!?」


 差し出される四つの手。目を上げれば各々違った表情をしており、何かを待っているような感じであった。


 何かって、俺の答えを待っている以外にあるか!? 未だに現実感がないが、間違いなく俺の答えを待っている。


 この手を取れば、彼氏彼女……恋人!? 好きな人とお付き合いできる!?


「言っちゃったぁ」

「言っちゃったね」

「スッキリしました」

「ドキドキするわね」


 今まで感じた事のない高揚感、単純に言えばめっちゃ嬉しい。好きな人に告白されて、断る奴なんていなかろうよ。


 答えはイエス。俺は手を取って、それを彼女に伝えなければ!!



 …………あれ? 四つあるぞ? どの手を取ればいいんだ……?

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