第21.5話 脇役の好きな人






 目の前で俺の目を、黙ってジッと見つめている主人公な酒神公太とは、俺はどう見ても違う。


 公太はどうやらハーレム主人公ではなかったみたいだけど、俺なんか脇役でしかないんだ。


 そんな時、公太が真剣な様子で口を開いた。


「主人公……ね。大影さんもさ、そんな事を言ってたんだ。私には釣り合わないって」

「…………」


「それを聞いた時さ、俺がどう思ったと思う? そんな理由、そんな事を……好きな人に言われたらどう思う?」


「……そんな事、ないって」

「そうだね。釣り合う釣り合わないで、好きになる訳じゃない、一緒にいたいと思う訳じゃないんだよ」


「……そうだな。でもそれはさ、言ってしまえば……モテる側の、主人公やヒロインの考えだろ? 自分に自信が持てない、脇役だっているんだよ」


「……じゃあ九郎は、そんな理由で好きな人……四季姫から遠ざかるの?」

「そ、それは……」


「釣り合わないから、脇役だから無理だって……九郎が思う、釣り合う男とやらに渡すの?」

「それはっ! 嫌だな……」


 確かに俺は、自分の気持ちや考えばかりで、相手の事を考えていなかったのかもしれない。


 端から自分は無理だと決めつけ、舞台に上がろうとすらしなかった。


 それなのに、俺は彼女達が離れる事を嫌だと思っている。何もしようとしてない癖に。


 何もしないで待っていても、何も変わらないのに。


 でも脇役が舞台に立った所で、何が出来る? 主人公には勝てないじゃないか。



「……確かに俺は主人公だよ」

「な、なんだよ今さら、知ってるよ」


「そりゃ、俺にとったら俺が主人公だよ。他の人はみんな脇役だ」

「…………」


「九郎だって主人公だろ? 九郎の人生は、九郎が主人公だ。九郎にとったら、俺は脇役だよ」

「いや、そういう事じゃなくて……主人公ってさ、色々と特別じゃないか? 容姿性格環境、色々とさ」


「それは九郎が思い描く、主人公像でしょ? 物語を見ている第三者の目線だよ。それにそういう話なら、色々な主人公がいると思うよ?」

「まぁ……そうだな」


「随分と偏ってると思うけど……例えば、正反対の主人公だっているじゃない」

「正反対の……はは、俺みたいにか」


 公太の言う通りだとは思うけど、誰が見ても明らかな主人公がすぐ近くにいたんだ。


 色々な主人公がいる、言われればそうだけど……それでも主人公はどこか特別だから。



「今この状況はさ、九郎が色々と選択して、行動してきた結果だよ。そんな事が出来るのは脇役じゃない、それこそ主人公だけじゃないかな」

「まぁ、選択はしてきたけど……」


「九郎の選択は九郎だけの物だよ。主人公とか脇役とか、そんなの関係ないって」


「……でもさ、選択肢が見えたんだ。俺はそれを選んだだけなんだよ」

「前にもそんな事を言ってたね。その選択肢だって、九郎の頭の中の物だろ? それに、選んで行動したのは九郎自身じゃないか」


「頭の中……? そうなのか? そういえば少し、ゲームの選択肢とは違うなって思ってたんだよな」

「よく分からないけど、そういう事じゃない? 俺にはまだ見えないんだよなぁ」


「……そっか。公太にもその内、見えるんじゃないか? 公太……も、主人公なんだから」


 頭の中の選択肢か……え? て事は俺、幻覚を見てるのか? ちょっと、ヤバくね?


 病院とか行った方がいいかな……? あの激突で、脳に異常をきたしたのかもしれないし。


 しかし、目から鱗というか……主人公はこうだ! っていう固定概念があったのかもしれない。


 それに比べたら俺は脇役だって、誰も何も言ってないのに自分で役を演じていたのか。


 卑屈になるのは止めにしよう。俺は俺、主人公だとか脇役なんて事ではない。


 自分で選択して自分で行動する、その結果がどうであれ。やっぱりダメだったとしても……それは主人公じゃなかったからじゃない。


 もちろん脇役だからダメだったって事でもない。俺だから、俺自身の結果だという事か。



「……なんでこんな話になったんだっけ? 俺の相談にも乗ってよ!」

「あ、あぁ悪い。えと……」


 公太からの相談を忘れていた。でも正直、俺に相談するより自分で考えた方が、いい結果になる気がするぞ。


 流石は公太だもん。主人公とかそういう事ではないとしても、やっぱり凄い奴だと思うよ。


「――――と言いたい所なんだけど、時間切れかな?」

「え……?」


「俺の相談は今度でいいよ! 結果、教えてくれよな? 九郎がどういう選択をしても、俺達は友達だからね」

「あっお、おい! どこに行くんだよ!?」


 そう言い残し、公太は屋上から出ていってしまった。


 何か他に用事でもあったのかと思ったが、用事があったのは俺の方だった。


 月ちゃんとの用事、すっかり忘れていた。


 公太と入れ替わるように、月ちゃんは屋上へとやってきた。



「ご、ごめん。もしかして待たせた……あれ?」


「「「「……こ、こんにちは」」」」

「こ、こんにちわ……?」


 ええ? なんで四季姫がここに……? 約束はしていないよな?


 現れたのは月ちゃんではなく、四季姫達だった。


 みんな何処か神妙な顔付きをしているが……もしかして公太との会話を聞かれていたか!?


 しかし兄の次は想い人達か。俺は好きな人の前で、月ちゃんに告白の返事をしなきゃならんのか?

 

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