第21.0話 脇役の好きな人
公太の好きな人とは、サッカー部のマネージャーをしている大影零那。
公太の周りにいるヒロインっぽい子は四季姫だったので、その中の誰かなのかと思って焦ったが違ったようだ。
そんな彼は彼女にアピールするものの、あまり上手くいっていないらしい。どうやら春休みに、何かがあったらしいが。
「部活の帰りにさ、大影さんと他のマネージャーの会話を聞いてしまったんだ。その時の会話が……その……」
歯切れの悪い公太が珍しく、多少の驚きがあった。色恋沙汰なんかに悩みなど抱く訳がないと思っていた。
公太は春休みのある日、部活が終わって帰ろうとした時、大影さんが公太の事を話している所を偶然にも聞いてしまったらしい。
大影さんの気持ちが知りたくて、大影さんと他マネージャーとの会話をコッソリ聞き続けたようだが……――――
『――――零那って最近さ、公太くんといい感じじゃない?』
『そ、そうかな?』
『絶対そうだって! 告白とかされちゃったらどうする!? いいなぁ~』
『……告白……もしされても、断るよ』
『へ……? な、なんで!? 公太くんだよ!?』
『……酒神くんって人気あるし、いつも女の子が周りにいるでしょ? ちょっと私には……無理だよ』
『あ、あ~まぁ……女子の妬みを買っちゃう的な?』
『う、うん。それもあるけど……そもそも私なんて、酒神くんの周りにいる女の子に比べたら……あの輪に入るのは無理だよ……――――』
――――……モテ自慢? ええ分かっていましたけど、そんな事を思われるほどにモテていたとは。
でも聞いた感じ、大影さんは公太に気がないと言う訳じゃなく、自分の自信だったり、周りからの影響を心配しているようだ。
「だからさ。それを聞いちゃった日から、俺なりに考えて動いたんだけどさ……」
公太曰く、集まる女子を意識して遠ざけ、不用意な行動を避け始めたのだと。
あまり女子に近づかないようにしたり、登下校を一緒するとか女子と遊びに行くなんてもっての外。告白などされたらハッキリと好きな人がいると断りを入れた。
去年の今頃に比べれば、公太の行動は大分変ったようだけど……それでもやはり、大影さんは公太を避けている節があるらしい。
「彼女のクラスに会いに行っても、その……他の女子に囲まれて話せなかったりね」
「す、すげぇな。そこまでかよ」
「唯一、長く話せたのが部活の休憩時間なんだ」
「あ~、だから何をするにも部活優先だったのか」
公太は公太で、夏休みを謳歌していたようだ。
そりゃ海旅行より部活を取る訳だ。そういや、やたらと四季姫に近づくのを嫌がったりしてたよな。
「端的に言えば、どうすればいいかな~って相談。九郎はどうしているのかな~と」
「……は? 俺? なんでそこで俺が出てくるんだよ?」
どうしてるってどういう事だ? 俺は特に、どうもしていないのだが。
どうすればって……そういう状況なら大影さんを説得、というか大影さんの考え方を変えるしかないと思うけど。
「九郎ってさ、あの四人と上手くやっているじゃないか。みんな楽しそうにしてるし、他の女子生徒とも普通に話すだろ?」
「そりゃ、話す事はあるだろ……」
クラスの女子とは元々、少しは話をしていた。最近は、他のクラスの女子も話しかけてくる事が増えた気がするけど。
でもそれは、話しかけてくる女の子の性格によると思うんだが。
というか、何を言っているんだ? 何を聞きたいのかサッパリ分からん。
「九郎が誰を好きなのかは知らないけど、今の状況って俺と似ているんじゃないかと思って」
「どこが似てんだよ!? モテすぎて好きな人に避けられるなんて、そんな悩み抱えた事ないわっ!」
どこが似てると言うのか? 公太は周りに女子が集まっていた、そのせいで好きな人からは遠ざけられてしまったんだろ?
俺は最近、四季姫が周りにいる事が多くて、いつの間にか彼女達の事が気になり始めて、そんな時に月ちゃんに告白されただけで……。
……似てないよな? 似てないよ! 真逆じゃないか!!
「いや全然似てないだろ!? だって俺の好きな人は周りにいる……ま、周りに……周りに……」
「おっ? 周りに? 周りにいるのか? 九郎の周りと言ったら、四季姫だよね?」
ニヤニヤする公太の顔にムカつくが、自分で言った事がスッと受け入れられた。
やっぱり俺は四人の事が好きなのだろう。あまり考えた事なんてなかったけど、気になるってのはそういう事なのではないか。
公太の好きな人が四季姫かもと焦ったり、月ちゃんに告白されてもモヤモヤしたり、彼女達に彼氏ができた事を想像しただけで嫌な気持ちになったり。
気づかなかったのが不思議だ。どう考えても惚れてるじゃないか。
どこがと聞かれても詳細に答えられないけど、隣にいるのが俺じゃなきゃ、嫌なんだよ。
「それで? ここまで聞いちゃったんだし聞くけど……四人の中の誰が好きなの?」
「……え? 誰が……? 誰がって、だから……四季姫が……」
「う、うん? だから、四季姫の誰が好きなの? え……もしかして、アイドルグループ的に好きなの? 四季姫というグループが?」
「い、いや、そういう訳じゃないんだけど……」
みんな好きだなんて言ったら、どう思われるんだろう?
冗談を言っていると思われて、笑われるか? それならまだいいけど、不誠実だとか思われちゃうのかな。
だって仕方ない。みんな良い子で、みんな魅力的なんだ。
そんな素敵な女の子が、たまたま俺の周りに四人もいた。みんな同じくらい素敵ならば、仕方ないじゃないか。
一か零だ。あんな状況なら、みんな好きになるか、ならないかのどっちがでしょ。
でも公太の言う通り、普通は一人なのかもしれない。二人以上と付き合っているなんて、現実には聞いた事がない。
好きな人が複数人いたとしても、選べるのは一人だけ。
選ぶだなんて……偉そうに。四人から告白された訳じゃない。好きな人と恋人になりたい、選ぶとかそういう話じゃないよな。
だったら俺はどうしたら……全員好きなら、どうしたらいいんだよ?
ゲームじゃないんだ、ゲームのように出来る訳がないんだ。
全員を選んだって、彼女達は良しとしない。全員を幸せに出来る自信だってない。
主人公のように出来る訳がない。これが公太なら上手くやるのかもしれないけど、本来俺には一人だって不相応なんだ。
「……俺には無理だよ。公太のように主人公じゃないんだ。俺には釣り合わないんだよ」
「…………」
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