第2話 陽姫の番?






「――――はい先輩! あ~ん」

「あ、あ~ん……」


「九郎、今度はこっち……あ~ん」

「あ、あ~ん……ムゴゴッ!?」


 陽乃姉さん、ちょっと量が多いんだが。あと勢いつけ過ぎ。


 陽乃姉さんに生徒会室に呼び出されて向かうと、そこには陽乃姉さんと月ちゃんの姿があった。


 一先ず昼飯を食べようと言う事になったんだが、月ちゃんが秘奥義を繰り出してきたのだ。


 お弁当あ~んは男の憧れ、経験できた事には感謝だが……いざしてみると、そこまで良いものではないな。自分のペースで食べたいわ。


 それに張り合ったのは姉属性。弟の面倒はアタシが見ると参戦してきたが、どうにも介護されているような、餌を与えられているペットの気分にしかならない。



「九郎先輩? どっちのあ~んがお好きですか?」

「アタシに決まっているわよね? こんな優しい姉はいないわよ」


 好みでいったら月ちゃんだが……言える訳がない、姉怖い。


 後輩キャラは手皿付きの可愛らしい感じだったが、姉御キャラは突き出すだけで、喰らえッ!! って感じだったし。


 どっちが……なんて聞かれたら、選択肢が出てきてしまう…………あれ? 出てこないな。



「どっちも、甲乙つけがたいです……」

「「はぁ……」」


 溜め息を付きたいのはこっちだ。なんで優劣を付けたがるのかな? 姉妹ってこういうものなのだろうか。


 俺がおかしいのだろうか……やはり優劣は付けてしかるべきなのかな。


「……ところで陽乃姉さん」

「あ?」


「……お姉ちゃん、何の用なの?」


 もうすぐ怒る~、それがなければ完璧なのに。なんつー眼力、甘えなさいと言われるが……甘えたらぶっ飛ばされそうな気がするんだが。



「メッセージで送ったでしょ? 生徒会役員選挙、手伝いなさい?」


「……やっぱそれか。手伝うって具体的に何をするのさ?」


 体育祭が始まる前に姉さんから送られてきた、生徒会役員選挙を手伝えという命令メッセージ。


 手伝ってくれない? じゃなく、手伝え。原文ママです。


「はい先輩……あ~ん」

「あ~ん……むぐむぐ……」


「選挙なのだから、アタシを生徒に売り込む手伝いに決まっているじゃない」

「う、売り込む? なにそれ、アピールって事?」


「そうよ? 選挙期間中、校内を回ってアタシに投票してくれるようにアピールするのよ」


「……うわ、めんどくさ」

「は?」


「九郎先輩、あ~ん」

「あ~ん……むぐむぐ…………いえ、なんでも。というかさ、お姉ちゃんって書記だっけ? アピールなんているの?」


 期末テスト前になんでそんな面倒な事を。夏休み前に生徒会メンバーを入れ替えるのが我が学園のやり方らしいが……そんな事をしていたら赤点祭りになってしまう。


 だいたい書記って……ぶっちゃけ誰がやってもよくね? 生徒会長なら兎も角、書記ならアピールしなくても当選でしょ。



「今期は生徒会長に立候補するわ」

「はぁ生徒会長……え? マジですかお姉様」


「はい先輩っ! あ~ん……」

「あ~ん……むぐむぐ」


「そう。生徒のトップに君臨するのよ。有象無象を見下ろす……さぞ気分がいいでしょうね」


 マジかよ、こんな恐怖で人を従える人が生徒会長? しかも理由がマジ世紀末。この人は世紀末覇者にでもなるつもりか?


 気分がいいから、人を見下ろしたいから生徒会長? 普通、そういうのは学園を良くしたいとかいう立派な志しを持つ方がなるべきでは……。



「まぁ流石にそれは冗談だけど。去年の後期選挙では、役者が揃わなかったからね」


 ほんとに冗談か? その顔と雰囲気で言われても、冗談っぽく聞こえないのだが。


「先輩っ! あ~ん」

「あ~ん……むぐむぐ……役者って?」


「……今の生徒会長、任木田葉にんきだよう。あいつは人気者で、女子生徒の大多数を味方につけたのよ」

「なるほど、勝ち目がなかったと?」

「まぁそういう事ね。勝ち目のない戦いはしたくないわ」


 三年生の姉さんにとっては、今期がラストチャンスと言う訳か。


 でも俺なんかが手伝うよりも、公太が手伝った方が女子生徒を味方に付けられると思うけど。



「先輩、次はこれです。あ~ん」

「あ~ん……もぐもぐ……でもお姉ちゃんには男子生徒が味方になったんじゃない? お姉ちゃん凄く綺麗なんだし、黙ってれば完ぺ……あいや、黙ってなくても完璧」


「……アンタ、そうやって女を落とすの? 残念だけどアタシには効かないわよ?」


「……よく分からないけど、顔赤いよ?」

「うるさい、ひねり潰すぞ」


 捻り磨り潰す!? それって女子高生が使う言葉? だから男子生徒が味方に付かなかったんじゃないか!?


「お姉ちゃん。そんな怖い顔でそんな事を言うから男子生徒が敵になるんだよ」

「知ってるわ? そこで九郎の出番と言う訳よ!」


 そんなビシッと指先を向けられても意味が分からん。


 男子生徒を味方に付けたいのなら、俺ではなくさっきから我関せずと弁当を突いている月ちゃんの方が適任だろう。


「せ~んぱいっ! あ~――――」


「――――月乃っ! アンタさっきから煩いわよ!? 黙って食べてなさい! アンタも自然にあ~んされてんじゃないわよ!!」


 あれ? そう言われれば俺は手を動かしていないのに腹が膨れている。


 なにそれ怖っと思ったが、今まさにアスパラベーコンを箸で摘まんで、あ~んしている月ちゃんと目が合った。


 なんという自然所作。末恐ろしい子っ!!



「んな事より九郎! アンタ最近、二年の四季姫と仲が良いじゃない? 男子に人気の彼女達……言わなくても分かるわよね?」


 あ……そういう事。聞けばすでに公太にも声を掛けており、女子人気の方も準備は万端だそう。


 でも四季姫に頼まなくても、姉さんがお淑やかに微笑めば男は味方に付くと思うんだけどな。


 ……想像できん。彼女達には悪いが、我が姉のために協力を要請してみよう。



 ――――――――

 ――――――――



「――――そう言えば九郎先輩。あのメッセージの事ですけど」

「ああ、あれね。そういえば月ちゃん、返事くれなかったよね」


「……その件は直接お話したかったので、後で時間をもらえますか?」

「ああ、いいよ」

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