自覚編 ~生徒会役員選挙~
第1話 知らぬは本人のみ
体育祭を終え、再び通常に戻っていた高校生活。
次のイベントは、最大の難関である期末試験。中間試験では社会だけ赤点なので辛勝したが、ここで失敗すれば元も子もない。
社会だけの補習なら、一日二日で終わる。輝かしい夏休み、それに対する期待感と、それを実現するために勉強に励まなくてはならないのだが。
俺の心はモヤモヤで一杯だった。
「ねぇ九郎っ! 期末試験はみんなで勉強しようよ!」
「賛成です。私達が教えれば、バッチリだと思います」
「冬凛さんの家で勉強とかはどうかな?」
「ちょっと勝手に……まぁクローならいいけど」
「ああ、期末テストな……勉強、しなきゃな」
中間テストの時と同様に、俺の頭の悪さを心配してくれる彼女たち。
本来なら泣いて喜びたい事だが、この状況を喜んでいいものなのか分からなくなっていた。
「おい九郎~そりゃないぜぇ……」
「あはは! 央平、邪魔をしちゃダメだろ? 勉強なら俺が教えるよ」
「――――っ!?」
聞こえてきた公太の声に、体がビクッとなった。
俺は昔の公太を知らない。そのため、昔から知っている夏菜やアキ、そして月ちゃんや陽乃姉さんに聞いてみたのだ。
最近、公太に変わった所はないか? 昔と違っている所はないかと。
月ちゃんから返信はなかったが、他の三人は特に大きな変化はないと思うと言っていた。ほんの少しだけ、行動が変わったかもしれないとは言っていたが。
選択肢が表示されなくなったとしたら、それは大きな変化だろう。行動だって変わってくるはずだ。
やっぱり、本人に直接聞くしかないか。
「それで九郎、今日の昼はどうするんだ? 誰と食べる?」
「え? いつも通り、お前達と食べるよ」
「……お前も鈍いな~。じゃあみんな、悪いけど九郎の事は借りていくね?」
なぜ急にそんな事を聞くのか。体育祭前は当たり前のように一緒に食べていたのに、公太はここの所やたらと確認をしてくるのだ。
他に誰と食べろと……と思ったのだが、不意に視線を感じたため振り向くと、何か言いたそうで、どことなく残念そうな四季姫と目が合った。
「……ねぇ九郎くん。明日はあたしの番なんだ」
「あたしの番? えっと……何がだ?」
話してきたのは蓮海。頬が若干桜色に染まっている彼女は、周りに公太たちがいると言うのに爆弾発言をしてくれた。
「明日はあたしがお弁当を作ってくるから、楽しみにしてて」
「お、お弁当……? え……俺にっ!?」
ま、まじで? あの蓮海のお弁当!? 嘘だろ? そんな貴重なものを貰えるのか!?
……俺、明日誕生日だったっけ? いや、誕生日は九月のはず……。
「作ってきたら、食べてくれる?」
「ほ、本当に作ってくれるの!?」
「うんっ! じゃんけんに勝ったんだぁ」
じゃんけん? もしかして罰ゲームか?
いや、罰ゲームなら負けたらってのが基本なはず。漢気か……?
「ちなみに明後日は私よ?」
「その次は私です」
「ウチ……最後……」
え……なにその幸せな罰ゲーム。
火、水、木、金。日替わりで四季姫のお弁当!? 四季姫にとっては罰ゲームなのかもしれないが、俺にとったらただ幸せなだけなんだが。
罰ゲームなのにみんな嬉しそう……いや、夏菜だけは悲しそう。夏菜の弁当は大当たりが確定してるのになぁ。
……というか、全員が行う罰ゲームって罰ゲームって言うのか?
その後、ニヤニヤする公太とイライラする央平と共に学食へ。
明日から楽しみだと、いつの間にかモヤモヤなんて吹き飛んでいた。
――――
――
―
九< 明日から金曜まで、お弁当いりません。
三< は? 小遣いはやんねーぞ
九< いりません。
三< それでどーやってメシ食うんじゃ
九< あっははははあはあは!
三< なにこいつきも
九< それが息子に使う言葉かよ?
母への手回しは済んだ。これで明日からは美少女手作り弁当週間だ。
……念のため、三百円は用意しておこう。三百円でも安いが。
我が母が作ってくれた弁当をオープン。これが最後だと思うと名残惜しいが……名残惜しいか? これ、八割が冷食だぞ?
しばらく冷食ともお別れか~。
「――――ッチ!! ニヤニヤしてんじゃねぇよ!!」
「ま、まぁまぁ央平」
「あらごめんなさ~い? 抑えきれなくて溢れちゃった」
いや~こんな事になるとは。遠い昔、央平が女の子に弁当を作ってもらったと騒いだ事があったんだが、あの時とは真逆の立場だな。
……遠い昔って言うか、去年の話じゃなかったか?
「……てか央平。いつだったか、お前も弁当作ってもらったって騒いでたよな?」
「ま、まぁな」
「そうなのか央平? 詳しく聞かせてよ!」
「……バイト先の人だよ」
「あ~、年上の人だっけ?」
「ああ、春から大学生になったから……」
央平は、その大学生のお姉さんに惚れているという話。去年は同じ学校に通う高三だったが、今年から大学生になったようだ。
「いつでも作ってくれるとは言ってくれるけどさ……大学生って、忙しいだろ?」
「作ってくれるって言ってるのなら、そこまで苦じゃないんじゃない?」
「……いや、流石に図々しいだろ! ってか俺の話はどうでもいいんだよ! 問題は九郎だろ!?」
図々しい存在が何を言ってんだか。俺の話って、似たようなものだと思うが。
彼女達が罰ゲームで弁当を作ってくれる、ただそれだけの話じゃないか。どうだ羨ましいだろ。
――――ピコン
陽< 生徒会室に来なさい。
せっかく央平にヘイトが向き始めていたのに、僅かな振動と音がそれをぶち壊した。
うわ……陽乃姉さんからだ。これは無視できないけど、いま食べ始めたばかりなんだが。
九< いま、昼食を食べ始めました。
陽< 生徒会室で食べなさい。
九< なら公太と央平も連れて行きますね。
陽< いらない。早く来なさい。
くそ、二人も巻き込もうとしたのに。ダメだ、逆らえない。後が怖すぎる。
「わり、呼び出し食らったわ」
「誰から?」
「陽乃姉さん」
「そ、それは行った方が良いね。悪いけど頼むよ、九郎」
二人と別れ、心が拒絶するのを無視して足を動かした。
恐らくこの前いっていた、生徒会がらみの事だろうなぁ。
――――――――
「――――あいつも大変だな」
「そうだね。九郎には申し訳ないけど、月乃と陽乃姉が、九郎の事を気に入ってるんだよ」
「……それってどういう方面で? まさか四季姫とぶつかったりしないよな?」
「そっち方面じゃないような気はするんだけど……想像したくないね」
九郎が去った学食で、九郎の事を近くで眺める二人が会話を続ける。
話題は専ら、九郎を取り巻く女性陣についてであった。
「結構さ、凄かったよな? さっき」
「だね。九郎は気づいていなかったみたいだけど、雰囲気がね」
先ほどの教室内での事を思い出す二人。当の本人は気づいていない様子だったが、教室内の雰囲気が若干ピリピリしていたのだ。
「まぁ体育祭の活躍があるから、分からないでもないんだけど……」
「九郎に話しかけたがる女子生徒……それを牽制する四季姫……」
九郎の活躍を見て、近づきたいと思った女子が何人かいたのだ。
しかし一早く九郎を囲んでいた四季姫が、目と雰囲気でそれを牽制していた。
実際、公太と央平は体育祭が終わってから、何人かの女子生徒に九郎の事を聞かれていたほど。
「一人ならまだしも、四季姫全員が相手となると勝てないわな」
「そうだね、誰も近づけてなかったよ。お前達の入る隙はない! って感じで」
本人が気づかぬ所でモテモテ状態の九郎。これからどうなるのだろうというワクワク感と、近くにいる自分達への被害を懸念する。
「まぁ四季姫達は比較的最初から九郎の周りにいたからな。応援するなら四季姫か?」
「そうだねぇ……仕方ない! 友人として一肌脱ぎますかっ!」
ポケットを弄り、何やらニヤつく公太。これを使えば、九郎は誰にも邪魔されずに四季姫と仲を深める事ができるはず。
それは九郎のため、四季姫のため。とは言ってみるが、俺達を巻き込まないで欲しいと言う願望でもあった。
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