女子会






「冬凛~、来たよぉ~」

「いらっしゃいみんな、入って」

「お邪魔するね~」

「お邪魔します」


 体育祭代休の前日、兼ねてより予定していた女子会を行う事にした四人。


 明日はお休みだからと、一泊の予定で一人暮らしである冬凛の家に集まった。



「思ったより広いんだね」

「ウチも思った! 一人には大きすぎない?」

「セキュリティーもシッカリしてましたしね」

「でも駅から少し歩くから、家賃は安いのよ? セキュリティは、親に絶対だって言われたから」


 間取り的には1LDK。ゆったりとしたリビングに、就寝用の洋室。


 高校生の一人暮らしにしては、多少贅沢かもしれない部屋に、三人は目を輝かせ家探しを始めた。



「おおっ! お風呂とお手洗いが別だよぉ」

「それは絶対条件だったわ」


「キッチン綺麗だねっ! 料理するの?」

「最近、料理の先生が出来たの」


「ベ、ベランダまでありますよ!?」

「ベランダは普通、どこにでもあると思うわよ」


 特に目新しいものはないのに、嬉々として動き回る三人に苦笑いする冬凛。


 自分も初めはこうだったなぁと思い出していた時、夏菜が寝室の扉を開ける姿が目に入った。



「あっ!? ちょっそっちは!?」


「ん~? 別に普通の寝室じゃん? んぇ……?」


「どれどれ~? は……?」

「わ、私も見たい……えっ……」


 慌てて止めに入るが時すでに遅し。夏菜によって開かれた扉に、春香と秋穂までもが突撃した。


 寝室の中は、特に変わった様子は見られない。


 冬凛らしい落ち着いた色合いで統一された寝室。余計な物は置かれず、本当に寝るだけの部屋と言った感じで、女の子らしさなどはあまり感じられなかった。


 枕元のぬいぐるみを除いては。



「ち、違うのっ! 別に抱きしめて寝ている訳じゃなくて、置き場所がなかったからっ!」


「……誰も何も言ってないけど……というか冬凛さん、抱きしめて寝てるの?」

「い、いや……だからそんな事は……」


 どこか責めているような目を見せる春香。狼狽え、弱弱しくなった冬凛。


「でもその気持ち分かります。私も抱きしめて寝ていますので」

「えっ!? そうなの秋穂!? は、恥ずかしくないの?」


「……恥ずかしい? ぬいぐるみですよ? 夏菜ちゃんは何を抱きしめて寝る想像をしたのですか?」

「え……いや何をって……」


「……えっち」

「な、なんで!? 別に九郎を抱きしめて寝ている訳じゃないしっ!」

「誰もクーちゃんなんて言ってません」


 秋穂と夏菜が対称的な反応を見せている横では、攻めの春香と受けの冬凛の攻防が続いていた。


「寝てるんだ? 一緒に、朝まで、ぎゅっとして、ニヤニヤしながら」

「ニ、ニヤニヤなんてしてないっ!」


「……じゃあニマニマかな? 朝まで一緒にぎゅっはしてるんだ?」

「だ、だからしてないもん! そういう春香はどうなのよ!?」


「……あたし? あたしは別に……」

「あぁ言い含んだ! してるんじゃん! 春香もぎゅって、頬を摺り寄せて!」


「……ギュッとはしてるけど、頬は摺り寄せてないよ? 冬凛さん、動揺し過ぎでしょ」


 このよく分からない攻防は、みんなのお腹が空くまで続けられたと言う。



 ――――

 ――

 ―



 みんなで夕食を作り、笑い合いながら夕食を終え、順番にお風呂に入り、寝間着に着替えた彼女達。


 まず学園の男子生徒は見る事ができない、幸せの園。


 優しく淡いピンク色の春香。爽やかなスカイブルーの夏菜。落ち着いた薄黄色の秋穂。清潔感がある白色の冬凛。


 今日は女子会なので寝室も一緒。リビングに布団を二枚敷いて準備万端。


 さあ始まるのは枕投げ……ではなく、身を寄せ合っての女子トーク。男とは違うのだよ、男とはっ!


 行儀は悪いが、枕元にはドリンクもお菓子も準備済み。文句を言う人は誰もいません。


 夜は長い。普段は聞けないあんな事も、いつもは言えないこんな事も言えちゃう雰囲気。



「――――じゃあ撮りますね」


 ――――カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャッ


「ちょっ秋穂さん!? 連写連写!」

「あわわわ……ご、ごめんなさい」

「あははは! どんだけ撮りたいのさっ!」

「絶対何枚かは、半目があるわよ?」


 もう何枚撮ったのだろう。様々な仕草、表情。パートナーを変え、写真を撮りまくる彼女達。


 変顔し、おふざけし、誰かが誰かを襲っている所を盗撮し、たまに真面目に可愛いモード。


 そうして出来上がった可愛い自分を、意中の人にコッソリ送信。


 集合写真は送るけど、可愛いあの子のワンショットは絶対に送らないという、女子の小さな策略。



 ――――――――


 ここで中休み――――その頃あの方は。


 ―――――ピコンピコンピコンピコンピコンピコン


「もう何枚目だよ!? いやみんな可愛いけど!? うわ……これやば……見えそう……もうちょいっもいちょいっ……!!」


 ―――――ピコンピコンピコンピコンピコンピコン


「な、なんか段々と過激になっていってないか? ていうか、見えてるけど……ブラ紐」


 いいなぁ、こんな青春を送りたかった(筆者の声)


 ――――――――



 そうこうしている内に夜は更け、みんな横になり就寝モード。


 明かりは消したけど、誰も寝ようとする気配はない。


 みんな分かっていた。まだ一つ、話したい事がある。


 でも面と向かっては聞けない、言えない。真っ赤になった自分を見られるのは恥ずかしい。明かりがない今が好都合。



「……あのさ」

「……うん」

「……なに」

「……あはは」


「……みんな、あの人の事、どう思ってる?」

「……」

「……」

「……」


「なんとなく、分かります」

「だよね」

「うん……」

「ええ……」


「……ライバルに……なるのかしら」

「どうだろう?」

「う~ん」

「そうなるのかなぁ」


「でも、みんなといがみ合うのは嫌」

「そうだね」

「それはもちろん」

「うん」


「いっそのこと、みんなの共有財産にしちゃう?」

「それいいかも」

「あははは」

「面白いわね」


「……」

「……」

「……」

「……」



「……ただこれだけは」

「……誰が選ばれても」

「……選ばれなくても」

「……どんな結末でも」



「「「「恨みっこなしっ!!!!」」」」



「あははっ! でも、本当に共有財産ってよくないかな?」

「ねっねっ? 面白そうだよね!」

「確かに、みんなと一緒って言うのは素敵です」

「彼にそれだけの甲斐性があれば、それもいいわね」


 夜は長いよ。みんなの思いが共通となったからには、ちょっと進んだ事も聞けてしまう。


 秘密な事は秘密にし、共有したい事を吐き出し合う。見えないけれども、誰も彼も笑顔なのが丸分かり。


 自分の気になる人が、頭を支配しちゃう人が、ただただ好きな人が、手放したくない人が、何を言っても肯定される幸福感。


 否定されず、悪い反応は一切されない。隣にいるあの子の想いが、意外に強い事に気が付いても焦りはない不思議な安心感。


 自分が想うあの人が、そこまで想ってもらえているんだと言う満足感。


 そして僅かに見え始める、共有財産という夢物語の一ページ目。


 これからどうなって行くのだろう。それは分からないが、四人には何故か、誰も不幸にはならないのではないかという思いが芽生えていた。



「とりあえず、抜け駆けはなし?」

「抜け駆けって響きが悪いなぁ」

「でもたまには二人きりで会いたくない?」

「ローテーション……とか」


「「「それ採用っ!!!」」」


「それと夏菜に秋穂、分かってるわよね?」

「体育祭での彼、カッコよかったもんねぇ」

「他の女子も、やっぱ近づいてくるよねぇ」

「少し嫌な女になりますけど、頑張ります」


 はいはい。爆ぜろ(読者の声)

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