秋・冬






 確信、私は彼の事が好きです――――


 アキって呼ばれて、身体中に電気が走ったあの一目惚れの日から、想いは日に日に強くなっているように感じる。


 幸い、彼とは同じクラス。色々なイベントを彼と一緒に行う事ができて、近くで彼の事を眺められる。


 彼女になりたい……そう思わない訳ではないが、彼を好きでいられる今の状況が心地よい。


 それに月並みにはなるが、想いを伝えた時に断られてしまう可能性を考えると、やはりどうしても怖い。


 しかしそんな事を言っていられないのかもしれない。彼の周りには、私より可愛い子が三人もいるのだから。


 自信があるのは、彼に対する想いの強さだけ。彼にも好きになってもらおうと、言葉や態度で示してはいるが……これが中々に難しい。


 ここまで人を好きになった事なんてないんだもん。どうしたら正解なのかなんて、分からないよ。


 あまりグイグイ行けば引かれるかもしれない。でも単純に、彼に触れたかった。



 そんな彼と、仲を進めるチャンスがやってきた。


 彼は私の家でアルバイトをしている。言い方は悪いけど、この時間だけは誰にも邪魔はされない……お父さん邪魔。


 ――――彼氏……役? 役かぁ……はぁ。


 上げられて落とされたぁ……早とちりした私も悪いけど、その言い間違いはちょっと酷い。


 いいや、でもこれはチャンスに違いない。友達以上恋人未満って事ですよね? この関係性を使って、もっとアピールしないと。


 ねぇダーリン? デートしてください! ってあれ? 本気なんですけど? そんなに慌てなくたって……。


 もう……にぶちん。



 ――――

 ――

 ―



 ――――あぁ……私、もうダメかもしれません。



 初めて見た強引な態度、言葉。優しさの塊のような彼が見せた、女性を引っ張っていく頼もしい男の姿。


 繋がれた手だけは離さないようにと必死になるが、体に力が入らない。


 まるで支配でもされてしまったかのような感覚。それなのに不快感は一切なく、不安だって一切感じなかった。


 この人に付いて行きたい、どこへでも。私を引っ張ってくれる、どこまでも貴方色に染まりたい。


 恋は盲目とは、よく言ったものだ。



 彼がアンカーを務める事になった最強リレー。


 どうやら騎馬戦で公太君は足を痛めてしまったようで、代わりに彼が走る事に。


 自分の好きな人が大舞台に立つ、その高揚感はみんなにも分かりますよね?


 見ているだけなのにドキドキする。自分は何もしないのに、まるで自分の事のように様々な感情が溢れ出す。


 もう私の目は釘付けです。気が付けば彼が走る番、慌ててトラックの近くまで駆け寄り、普段は出す事のない声量で彼に想いを届けます。


 ……届いたのでしょうか? まさか、一着でゴールするなんて。


 なぜでしょう? さっきまであり得ないほどドキドキしていた胸は、今は静まり返っていました。


 いえ、勘違いでした。彼と目が合った瞬間に再爆発。嘘でも何でもなく、ドクンッと胸が高鳴りました。


 ――――あぁ……私、もうダメかもしれません


 こ、これは苦しいかも……好きになりすぎると、苦しくなるんだ。


 はぁ……心地よい苦しみです。今の彼は誰が見ても、イケメンに見えてしまうのではないでしょうか。



 秋――――――――

 ――――――――冬



 確信、私は彼を手放したくない――――


 彼とのスタートは麻雀という、まぁ高校生らしくないものだった。


 高校生にとって麻雀が趣味というのは、少々異質なのかもしれない。その証拠に、周りで麻雀をやっているなんて話は聞いた事がない。


 でも彼がいれば、あの雀荘でのひと時があればそれで満足だった。


 しかしそれが、無くなってしまうかもしれない状況な事に気が付いた。


 彼の周りには綺麗な子が何人もいたのだ。なんとなくではあるが、彼に好意を持って近づいている子もいるような気がした。


 彼が彼女を作ったら、私と麻雀をする事はなくなるかもしれない。


 比較的遅い時間に開始される麻雀。他に大人がいるとはいえ、そんな状況を彼女が許すはずがない。


 私だったら絶対に嫌だ。どんな手を使ってでも彼を行かせない、手放さない。


 だから最初は、彼を私の物にしたり、私に夢中にさせればとの思いで動いていたつもりだったのだが、夢中になっていたのは私の方だった。



 彼と度々行われる、雀荘での麻雀。


 一人暮らしの私に、彼から与えられた温かい場所。この場所だけでは、何も気にせず、何も考えずに素でいられた。


 それは私がどんな姿、どんな表情を見せても受け止めている彼がいてくれたから。


 ――――ただ純粋に、楽しかった、温かかった。


 自分がこんなに笑う人間だとは思っていなかった。全部彼のお陰だろう。


 そんな彼は脚フェチの様子、凄く視線を感じる。脚……生足って事かしら? 生足……スカート、スカートかぁ。


 実は持っていない……いいわ、丁度いい。買い物に付き合わせて、彼に選ばせて彼好みの恰好をしてあげる。


 ……デートではないからね? 勘違いしないように。



 ――――

 ――

 ―



 ――――はぁ……私、思った以上に彼に夢中なようね。



 私の目は、ずっとある一点ばかり見つめていた。


 トラックの反対側に設置されている代表テント。位置的に私のいる所からは、不自然なく視線を送れる位置にあった。


 暇さえされば彼を眺めた。そんな彼が、真っ先に私の所に来た事には驚いた。


 あり得ないと分かっていても、お前が一番だと言われているようで嬉しかった。


 今の所は、貴方も私の一番だと気づいてほしくて、他の男子からの名前呼びを断ったのよ? 気づいてくれた?


 別に男子に名前で呼ばれるのはそこまで嫌じゃない。ただ貴方が特別だと、そう伝えたかったのだけれど……気づいてはなさそうね。



 そして始まった最強リレー。


 私のクラスと彼のクラスとの点差はほぼない。着順がそのまま最終順位、クラスの一員としては自分のクラスの事を応援するべきなのだけれど。


 どうしても、彼の事を応援したかった。


 目の前を走る彼の真剣な表情を見た時、叫ばずにはいられなかった。


 ずっと彼の事を目で追っていたせいか、自分のクラスが彼と競っていた事など終わってから気が付いたほどだ。


 ――――はぁ……私、思った以上に彼に夢中なようね。


 一着でゴールした彼から目が離せない。本当は、辛そうに呼吸し倒れ込んだ彼に駆け寄りたい。


 そんな時、二着でゴールしたクラスメイトが寄って来て、俺麻雀やった事ないんだけど……と言われたが、今はそれ所じゃないからどっかに行って。


 ここまで他人に興味を持った事などない。ここまでカッコいい男なんて見た事がない。


 我ながらチョロいわね。ちょっとカッコいい所を見せられただけで、誰よりも彼がイケメンに見えるのだから。

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