~自覚と共有~
春・夏
最近、彼の事が気になるの――――
始まりはなんだろう? 思い返してみると、自分の中に芽生えた覚えのない感情が始まりだったのかもしれない。
せっかく知り合いになれた彼は、可愛い子達に囲まれていた。
あたしだけが特別な扱いをされている訳じゃないという事は、すぐに分かった。
彼は優しい。出会った時から一貫して、ずっと優しかった。
自分にとっては些細な事でも褒めてくれて、あまり好きではなかった容姿を褒められる事も、なぜか彼に言われるのは嫌ではなかった。
そして、彼と彼の周りに集まる女の子達を見ていて気が付いた。
自分の中に芽生えた感情が、小さな独占欲であるという事を。
彼があたしに見せる優しい笑顔、困ったような顔、恥ずかしがっている顔。それと同じような顔や言葉を、彼は他の子にも見せている。
あたしだけに見せてほしいと思ってしまった。
いや、正確には違うのかもしれない。何か一つでも、彼との特別が欲しかったのだろう。
あたしにとっての彼との特別は、空手道場。
ここでなら彼を独占できる、他の子は知らない姿を見る事ができる。
たった一つの特別で、あたしの欲は満たされた。これがあれば、例え彼が他に特別を作っても大丈夫だと思えるほどに。
――――この場所では、あたしは彼を一人占め。
初めて見る彼の道着姿、組手の様子、真剣な顔。他の子は知らないんだろうなぁ~と、優越感が凄まじかった。
さり気なく、貴方もあたしの特別だという事を伝えたくて、専属って言葉を使ってみたのだけれども、彼は気づいているだろうか?
いないだろうなぁ。彼、鈍い所があるし。
――――
――
―
――――やば……あたし、どうしちゃったんだろう。
彼に触れられた箇所が熱い。もちろん本当に熱いんじゃなくて、まだ彼に触れられているような不思議な感覚が残っている感じ。
軽々と持ち上げられ、スマートな動きだった。馬鹿みたいに恥ずかしがり慌てるあたしを、空手をしている時と同じように真剣な表情で宥める彼。
人生で一番ドキドキした。心臓が口から飛び出そうとは、この事を言うんだ。
騎馬戦の時も思ったけど、彼……やっぱり男の子だな。
今まであまり男らしさを感じなくて近づきやすかったけど、今日この日、嫌というほど彼に男を感じさせられた。
そんな彼は最強リレーのアンカーに。なんか色々あったみたい。
なんとかして応援したかった。身振り手振りじゃなく、声に出して彼を応援したかった。
彼は男らしい表情で、一着でゴールテープを切って見せた。
あぁ、だめだ……今は絶対に彼の顔を見れない。彼から顔を逸らして、遅れてやってきた自分のクラスのアンカーに目をやると……うん、落ち着いた。
――――やば……あたし、どうしちゃったんだろう。
ううん、分かってる。初めての事で混乱しただけで、この感情がどういうものなのかは知っている。
彼と別のクラスだという事が、これほど辛いものだとは思わなかった。
あの輪に入りたくて仕方がなかった。一緒に喜んで、一緒に笑い合いたかった。
カッコよすぎるでしょぉ……もう、なんなのかな!? あたしをどうしたいのかな!?
ああ、やば……彼が、イケメンに見えてきたよぉ……。
春――――――――
――――――――夏
最近、彼の事をよく考えちゃう――――
いつからだろう? よくは分からないけど、同じクラスの彼を目で追うようになっている事に気がついた。
最初は興味があったからだと思う。色々と驚かせてくれた彼の事が気になって、彼の事をもっと知ってみたくなり近づいた。
まぁある意味、当たり前なのか彼は可愛い子達に囲まれていた。
なんだろう? 彼はどこか、人を惹きつける何かがあるのかもしれない。
彼の言葉や態度、仕草などは女の子に警戒心を抱かせない。グイグイ来る事もないし、言われたら嬉しい事を軽く言うので受け止めやすい。
というか、女の子の方からグイグイいっている様に見えた。
恋愛経験がないウチは、それが当たり前なのだと思い、周りと同じように頑張ってみたのだが……恥ずかし過ぎるんですけど。
みんなはよく密着できる。ウチなんかは顔が真っ赤になって、いかにも意識してますっ! と顔に出るだろうし実行できない。
軽口を叩きながら小突く事はできたけど、それ以上はまだ無理。そんなにスタイルもよくないしね……ふんっ!
そして自分で言って気が付いた。ウチはこれをどこか、恋愛として見ているのだと。
彼は委員長、ウチは副委員長。
これから色々なイベントを一緒に頑張っていくのだから、仲良くなっておくに越した事なない。
――――というか……仲良くなりたい、彼の事をもっと知りたい。
これだけは譲れない、譲りたくない。彼といると、とても楽しいんだもん。
ウチだって何も考えていない訳じゃないよ? まだ……そう言ったのだって、ワザとなんだからね?
でも彼は……うん、絶対に気が付いてないしっ! 少しくらい照れろよぉ!!
そして、彼と一緒に纏めて一丸となったクラスで挑む、体育祭が始まった。
――――
――
―
――――うう……ウチ、どうかしちゃったのかもしれない。
何気なしにお裾分けしたお弁当、美味しいと言って無邪気に頬張る彼が可愛くて仕方がなかった。
美味しいと言いつつも、急に箸が止まった事に不安を覚えたが、もったいなくて食べられないとか……可愛いんですけど。
というかそんなに念を入れなくたって、そんなに喜んでくれるのならお弁当くらい作るし……というか作ってあげたい、でも素直に言うのは恥ずかしい。
そしてアクシデントが発生した最強リレー。
彼はとても不安がっていて、自信なさそうにしていたけど、最後は覚悟を決めた様な真剣な表情をしていた。
そんな彼が、どさくさに紛れやがった。
名前で呼ばれた、叫ばれた。めっちゃ嬉しかった。
ウチも名前で呼んでやろうと思った。ここで呼ばなきゃ、もうチャンスなどないかもしれないと思って、早く名前を呼びたくて一生懸命に走った。
名前で呼んだ、叫んだ。めっちゃ恥ずかしかった。
そんな彼は一着ゴール。信じられない、競い合っていたあの人は、陸上部の中でも足が速くて有名な人なのに。
――――うう……ウチ、どうかしちゃったのかもしれない。
反則でしょぉ……カッコよすぎぃ……。彼を見ると胸がドキドキ、彼に見られるとバクバクしちゃうっ。
どうしよう……九郎って、あんなにイケメンだったっけ……?
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