第15話 体育祭・閉幕
ぶっ倒れた俺にクラスメイトが集まり、揉みくちゃに。
央平を始めとしたお調子者の男子が、俺が動けない事を良い事に担ぎ、胴上げ。
その様子を見て笑顔を弾けさせる、愛川とアキを含めたクラスの女子。更によく目を凝らすと、胴上げメンバーの中には担任の荒木先生の姿もあった。
「お、おい! やめろ……まじ……なんか……気持ち悪いっ!!」
眩暈がする! 冗談じゃなくて! ヤバイ……お好み焼き+αが噴き出す!!
「やったぜくろーー!!」
「さすが委員長だぜ!!」
「ほ~れほれェェェ!!」
「マジで感動したわ!!」
「ね? 脇谷君、ヤバくなかった?」
「うんうん! 良い感じったよね!」
「カッコよかった! 顔はパッとしないけどね~」
「「「それは言っちゃだめでしょ~、あははは!」」」
盛り上がっているところ悪いんだが、このままじゃ本気で戻してしまう。
荒木先生! 気づいて!? いま僕の顔ヤバいでしょ!? 土気色ってやつ!
「よくやったぞ脇谷!! 先生は鼻が高い!! 褒美の胴上げじゃあ!!」
使えねぇぇこの教師!! 生徒のピンチを救うどころか、更に陥れてどうするんですかね!?
他の人に救難信号を……愛川とアキと目がバッチリあった。やっぱり俺を救ってくれるのは天使と女神のようだ。
「あ……愛川、アキ……助け…………え?」
あれ? 目を逸らされた……? 二人と目が合うと、二人は慌てたように目を逸らしたのだ。
まさか嫌われたかと嫌な事が頭を過ったが、二人ともチラチラと俺を見ては逸らすという事を繰り返す、意味の分からない行動を取っていた。
その目はどこか潤んでおり、耳まで真っ赤な二人。
見たいのに見れないといった感じだが……まさか!? もしかして俺、パンツ見えてんじゃね!?
それは恥ずかしい! 感覚がなかったから分からなかったけど、もしかして丸見えなんじゃ!?
『あの~二年C組の皆さん? 盛り上がっているところ申し訳ないのですが……三年生の最強リレーを始めますので、避けてもらってもいいですか?』
俺を救ってくれたのは、まさかまさかの名前も知らない生徒会の人だった。
――――
――
―
その後、表彰式や閉会式は
なんというか、本当に思い出に残る体育祭だった。ここまで必死になったのも、クラス一丸となったのも初めてだった。
そして撤収作業。テントなどは後日業者が片付けるそうだが、椅子などは自分達で片付けなければならない。
しかしみんな、中々動こうとしなかった。
余韻に浸る生徒たち、撮影した写真などを見せ合い一喜一憂する生徒たち、思い思いの出来事を語る生徒たちが大半だった。
そんな生徒に教師を含め誰も文句は言わない。どこか不思議な雰囲気に包まれるグラウンド、俺もボーっと代表テントの中で呆けていた。
「――――く、く……九郎っ! やったね! 優勝だよ!」
「お~愛川……優勝したなぁ……ほんとやったよ」
まさに喜びが張り付いていた笑顔の愛川だったが、急に沈んだ表情となってしまった。
なんだ? もしかしてダラけ過ぎただろうか? でもなんか、気が抜けてしまって……。
「……な、名前で……呼んでくれないの……?」
「え? 名前……?」
なんでそんな不安そうな表情を……? 名前……そう言えば最強リレーの時、呼び捨てにしたっけ。不思議な興奮状態だったからなぁ。
「夏菜って、呼んだじゃん……」
「ああ~あの時なぁ……調子に乗ったな、ごめん」
「よ、呼んでよ名前でっ! ウチも九郎って呼ぶしっ!」
「えっ!? いいのか!?」
「いいのっ! 脇谷って、四文字で長いもんっ!」
「そ、そういう理由?」
一文字減るだけだが……でもなんだよ、呼んで良かったのか!
どさくさに紛れて呼び続けようかとも思ったけど、そんな事で嫌われるのも嫌だったからなぁ。
「じゃあ、夏菜」
「うぅ……なに? 九郎……」
おい夏菜、その意識しまくってます! って顔やめてくれ、可愛すぎる。
「……結構恥ずかしいっす……」
「そ、そっすね……にゃはは」
お互いに真っ赤になって笑い合う。なんか妙に意識してしまって、それがおかしくて二人でバカ笑いをした。
「――――ちょっとお二人さ~ん? なにいい雰囲気を出してるのかな? かな?」
「むぅ……夏菜ちゃん? 抜け駆けはズルいですよ?」
「これは……後で話し合う必要がありそうね?」
椅子を持った撤収途中の四季姫が近づいてきた。その後ろには苦笑いをした公太と央平、月ちゃんと陽乃姉さんも姿もあった。
真っ先に近づいてきた三人はどことなく目が怖い、逆に夏菜は怯えた様な目をしていた。
「な、なんだよぉ……ウチはただ代表だから……」
「代表? 代表なら何をしてもいいのかな?」
「夏菜ちゃん、泥棒猫です。猫は私なのに!」
「こんな事なら、私も代表になるんだったわ」
おおお!? なんだ? なんか雰囲気が悪くね? なんか怖いぞ皆。いつもは言い合いつつも、どことなくみんな楽しんでいる感じなのに。
逃げよ……公太たちの所に――――
「――――九郎くん? どこに行くつもりなの?」
「――――クーちゃん? どこに行くんですか?」
「――――ちょっとクロー? どこに行くのよ?」
「ねぇ九郎っ! ウチを置いて行かないでよぉ!」
「「「く、九郎!?!?」」」
退路を断たれた俺だったが、一転して夏菜を囲い出した三人。
なにやら夏菜を問い詰めている様子、この隙に避難しよう。
「モテモテだなぁ九郎。羨ましいよ」
「……羨ましい? モテモテなのは……公太だろ?」
「えぇ? この状況で、そんな事を言うのか?」
見つからないように公太たちの元へ逃げていくと、公太から驚きの言葉を投げかけられた。
いや、央平にも言われたけど、四季姫と仲良くさせてもらっている事はモテモテと言うのかもしれない。
仮にそうだとしても、なぜ主人公が脇役の環境を羨ましがる? 羨ましがられるのは……主人公の方じゃないか。
「はぁ……ほんと、兄さんは高校二年生になってから変わりましたよね」
「変わった? なに言ってんのよ月乃。そんな風には見えないわよ?」
月ちゃんと陽乃姉さんの会話が耳に入ってきた。
公太がどういう人生を歩んできたのかは知らないが、想像は付く。
陽乃姉さんは特になんとも思っていないようだが、月ちゃんは公太に違和感を覚えている様子だ。
公太が変わった? 俺の違和感の正体は、公太が変わったからか?
「九郎先輩と出会ってからじゃないですか? 兄さんが変わったのは」
「九郎と出会ってからねぇ……そう言えば少し、今まで以上に部活に打ち込んでいる気がするけど、そういう事?」
「……いえ、そういう事では、ないと思いますが……」
俺と出会ってからか……そういえば俺も公太と出会ってから…………っ!?!?
なんで……なんで今まで気が付かなかった!? いや、怖くて考えないようにしていたのか!?
あの日じゃないか! あの、公太と激突した日から俺の環境が変わったんじゃないか!
選択肢だ!! あれが現れるようになった理由、それを深く考えていなかった。
あの衝撃で頭がイカれたとか、モテない俺に神が起こしてくれた奇跡だとか、そんな適当な事を思ってきたけれど。
「俺は特に何も変わってないぞ? ぶ、部活はね……ちょっと打ち込む理由が出来てさ」
「ほら、やっぱりそうなんじゃない。アンタって昔は、部活より友達を優先していたような気がするし」
「部活……いえ、私が感じている違和感は……」
公太は部活に打ち込むようになったものの、特に何も変わっていないと言うが……。
大きく変わった所があるんじゃないか?
表示されなくなったんじゃないか?
選択肢が。
恋愛ゲームにおける選択肢は、主人公に与えられた特別な力だ。
それが今、脇役である俺に表示されている。
「どした九郎? 顔、青いぞ? 具合悪いのか?」
「いや……大丈夫だ」
央平は心配そうに俺の顔を覗き込むが、それどころではなかった。
最近、公太に感じていた違和感。色々あったような気がするが、簡単に言うと…………
「だからね? 九郎ってなにかな? いつから?」
「べ、別にいいじゃん……名前くらい」
「まぁ私は、一歩先のあだ名ですけど」
「私も、あだ名で呼び合っているようなものね」
「……あだ名は別に一歩先って訳じゃないでしょ」
「そうそう! 仲の良い友達! 止まりだよねぇ」
「「はぁ!? なんですってぇ!?」」
あそこで言い合っている、存在感バリバリの彼女達もそうだ。公太を囲む姿はシックリくるが、俺を囲むのは違和感しかない。
そんな彼女達が俺を囲んでいるのは、選択肢を選んだからだ。
主人公が崩れたのは……選べなくなったから。
――――奪ったんじゃないか?
俺が、脇役が……公太から、主人公から……あの曲がり角で激突した時。
選択肢を、奪ったんだ――――
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