第14話 体育祭・最強リレー






「九郎、頼むよ?」

「え? 俺!? 公太の代りに、俺!?」

「九郎も足、速いじゃないか」


 騎馬戦で負傷してしまった公太の治療を終え、C組のテントに戻っていた俺達は、心配するクラスメイトに囲まれ最強リレーの話し合いを行っていた。


 確認すると央平の次に足が速いのは、一応俺ではあった。


 しかしいくらなんでも、公太の代りが務まるはずがない。



「実力重視だろ? 次点は九郎なんだからさ」

「そうだけど…………分かったよ、俺のせいで怪我したようなもんだしな」


「九郎のせいじゃないって! でもまぁ、頼んだよ!」


 任された以上は全力でやる。公太とクラスのために、それに自分のためだ。


「じゃあ順番を見直そうよっ! 最初が速水さんで、次が真中君……」


 愛川の進行の元、最強リレーの確認が行われる。最強リレーは男女交互に走る決まりだが、スタートは男子と女子どちらでもいい。


 最強リレーは全員リレーと違って、走る距離が100メートルから200メートルに伸びている。


 そして最強リレーのアンカーは400メートルを走るため、スタートを女子にしてアンカーを男に据えるのが当たり前となっていた。



「……で、アンカーは脇谷君と」


「ア、アンカー!? いやいやいや! アンカーだぞ!? 二番目に足が速い速人君がアンカーでしょ!」

「むりむりむり! 緊張して走れないよ!」


 ガチ目の反応を見せる速人君。それなら仕方ないと三番手の疾風君に目を向けるが……一言も発せずに全力で首を横に振っていた。


「腹括れって九郎! 公太の代りなんだから、九郎がアンカーだろ!」


「……一番遅い奴がアンカーってどうなんだよ?」

「大丈夫だって! 最強リレーのアンカーは400だ! 体力勝負だよ!」


 央平に丸め込まれ、クラスメイトも一堂に異議なしを唱えた。


「やっぱり最後は委員長だろ! なぁみんなっ!!」


「「「「「委員長!! 委員長!!! 委員長!!!!」」」」」


 これは体育祭、お遊びだ! 楽しんでやろうぜ! というクラスメイトの言葉には大分救われた。


 体力なら人並み以上には……みんながこんなに言ってくれるなら、やってやろうじゃないか!!



 ――――

 ――

 ―



 最終種目、最強リレー。


 すでに一年生の最強リレーは終わっており、次はいよいよ二年生の番。


 トラックを囲むように見物を決め込む生徒たち。異様な空気を醸し出している中、俺達は所定の位置に移動する。


 その異様な空気の理由は誰もが分かっていた。なんと二学年の順位は大接戦なのだ。


 現在の順位は1位から……B、C、D、F、A、E。そしてBからDの点数の差はほとんどない。


 つまりB、C、Dは着順がそのまま最終順位となる。盛り上がるのも当然だった。



『第二学年、最強リレーを開始します』


 やばい、ドキドキがやばい。あまり心地よくないドキドキだ。


 二学年、約200名の中から選ばれた48人。その中でアンカーはたったの6人。


 トラックの北側には男子が、反対の南側には女子が。第二走者の央平はすでにスタンバイしており、速人君と疾風君も近くに待機している。


 少し離れた所には俺を含めた6人のアンカーが。どいつもこいつも、マジで速そうですよ。



「あ? お前さっきの騎馬戦の時の奴じゃん」

「ん……? ああ、さっきの卑怯な奴か」


 声を掛けてきたのは、騎馬戦の時の卑劣作戦の立案者だった。


 B組の……名前は知らないけど、騎馬戦の優勝者がコイツだ。流石にあそこまで残って、更には大将だっただけはあるのかアンカーとは。


「なんだよ? アンカーは酒神じゃねぇのかよ?」


「……あの騎馬戦で足を痛めたんだよ」

「ぷぷっ! だっせー! ていうかほんとか? 逃げたんじゃねぇの?」

「お前……ふざけんなよ?」



 ――――パンッ!!



 イライラして言葉を荒げると同時に、スターターピストルの音が響き渡った。


 その瞬間に溢れ出す大声援。間違いなく今日一番の盛り上がり。


「まぁ酒神なんて相手じゃねぇけど、これで優勝は頂きだな」


「……お前が公太以上だって? あり得ねぇだろ」

「はぁ!? なんだって!?」


「……覚えとけよ? 公太は俺とは比べ物にならないほど凄いよ」

「なに言ってんだお前?」

「俺に勝てなきゃ、お前は必然的に公太以下って事だよ!」


 ふふ、これこれ。一度言ってみたかったのだが、まさか言う機会があるとは。


 友情だぁ。怪我した友達の代りに出た男が放つセリフ。やべぇ、ゾクゾクしてきた。


「お前、ふざけ――――」


「――――おら央平ェェ!! 気張れよぉぉ!!!」


 B組男子を無視して、走り出した央平に檄を飛ばす。


 第二走者の央平がスタートし、疾風君がスタート位置に。現在の順位は二番手、第一走者の速水さんはやっぱり速みだった。


 央平は二番手のまま第三走者の林出さんに。林出さんも二番手のまま第四走者の疾風君に――――っ!? バトンの受け渡しでもたついた!?


 少しだけ青くなってしまった林出さんに近寄り、必ず勝つからと男の約束をし、照れ笑いをする乙女の笑顔を頂きました。


 現在、第五走者の早川さんは四番手。流れる川のような綺麗なフォームの彼女は、我がクラスで公太に次ぐNo2の速人君に!


「アンカーの人、スタート位置について下さい」


 流石! 速い人の速人君! 順位を四番手から三番手に! そしてついに、我がクラスが誇る絶対的アイドルの片割れ、最強女子の愛川夏菜にバトンが手渡された!



 【夏菜】

 【愛川】



 なんだすげぇ興奮する。今の俺ならなんでも言える、無敵だわ。


 体が震える! やべぇぞこの高揚感!!



「夏菜ッ!! 頑張れぇぇぇ!! 夏菜ぁぁぁ!!!」


 ふはは、言ってしまった。ついに女の子の名前呼び。アキはあだ名だし、トーリもイントネーション的にあだ名なんだよなぁ。


 俺のどさくさ紛れ名前呼びに苛立ったのか、夏菜のスピードが上がった。


 三番手から二番手に順位を上げ、俺は先行しているB組の気にくわん奴を追いかける立場となった。



「お願いっ!! く、九郎っ!!」

「任せろ夏菜ぁぁ!!!」



 【全力疾走】

 【ペース配分】

 【後半全力】



 顔を真っ赤にするほど頑張った夏菜からバトンを受け取り、後先考えずに全力疾走。


 アンカーだけは半周ではなくトラック一周400メートル、なんでやねん。


 ゆえにアンカーだけは、スピード+αが求められる。いや、どちらかと言うとスタミナ+αかもしれない。


 だから、体力ならそこそこ自信がある俺にも……なんとか!



「クーちゃんっ!! 頑張ってぇぇぇ!!」


(聞こえたぞアキ!! ありがとうっ!!)


「九郎!? そのペースで大丈夫か!? 後半バテるぞ!?」


(公太! だからそういう台詞は主人公を心配する脇役である俺の台詞だから!)


 大体、スピードで敵わないんだからペース配分なんてして勝てるはずがないんだよ! そもそも今は二位で、追いかける立場なんだから!


(ペースなんて知るかぁぁぁぁぁ!!!)


 B組の背中がみるみる近づいてくる。このペースなら行けんじゃね!? っと舐めてかかっていた400メートルが牙を剥き始めた。


 急に足が棒のように。残りはまだ200メートルくらいあるのに。



「九郎先輩っ!! 行けますよ!!」

「おら九郎っ!! 根性見せなさい!!」


 酒神姉妹ありがとぉぉぉ!! でも足が、足が棒のように!! 動いているのかどうかも最早わからねぇぇぇ!!


(やば……上半身はなんともないのに……下半身がないみたい)


 残り100メートル!! おお!? 並んでんじゃん!? いけ好かないB組野郎と並んでんじゃん!!


 公太を貶した、コイツにだけはぁぁぁぁ!!



「頑張れぇっ!! 空手くんっ!!」

「あと少し!! 走れ麻雀男っ!!」


(君達は敵でしょーー!! 大丈夫!? 後で怒られたりしない!?)


 トーリ! 俺は今お前のクラスと接戦を演じてんだぞ!? 悪いな蓮海! お前のクラスは眼中にない!



 公太の代りとして出て、こんなに色々な人から応援されているんだ。


 勝たなければ……勝ちたいっ!! 俺も主人公になりたいっ!!!


 下半身の感覚がない、いいよ! 色々なものを垂れ流してでも! 足が棒のようだ、いいよ! 折れてでも走ってやる!



「「「「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」



 最後は目を瞑り走り抜けた。


 ひときわ大きな声援が聞こえたと同時に、足がガク付き盛大に転倒。


 もう動かない。ゴール出来たのかどうかも分からないが、これ以上はどうしようもない。



『い……一着! 二年C組!! 二学年優勝は、二年C組!!!』


「「「「「よっしゃーーー!!!!!」」」」」」


『続いて二着B組! 三着――――』


 ははは……俺、公太の代りに……主人公になれたかなぁ。

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