第4話 主人公パワー

 





 人の覚悟(名字呼び捨て)をアッサリと凌駕して見せた主人公様。


 脇役なんかそっちのけでヒロインとの会話を始めやがった。


 それを黙って見てる脇役の気持なんか考えた事もないんだろうな。ただの僻みだが。



「まぁね! どうせ間に合わないならのんびり行こうって脇谷君が」

「あぁなるほど。確かに、俺は凄く走ったけど結果は変わらなかったしな」

「ビックリだったんだよ? 脇谷君、余裕な顔して俳句読んでたんだから」

「そりゃなんとも……優雅なご登校だね、遅刻してるのに」


「「あはははははっ」」



 し、しかし仲いいなこの二人。


 愛川は誰とでもフランクに接する雰囲気を纏う子だけど、少なくとも俺より仲は良さそうに見える。


 そりゃそうか。何しろあだ名呼びと名前呼びだもんな。天と地ほど違うという事か。


 ちくしょー、この二人はいったいどういう関係――――



 【二人は恋人なのか?】

 【二人は兄妹なのか?】

 【二人は友達なのか?】



 うんそうだね! 聞けばいいだけだよね! いちいち提示されなくても分かっとるわ!


 恋人? んな訳ねぇだろ、ぶっ飛ばすぞ。始まる前に終わらせんな。


 しかし流石に兄妹って事はないだろ!? 俺の中に仲のいい男女は兄妹っていう現実逃避した思考があるせいか、神が気を利かせたようだが。


 公太には妹がいるらしいけど、名字が違うし…………ま、まさか、ご都合主義義理の妹……?


 あ、ありえる。複雑な家庭事情、ありふれたラブコメ設定だ。


 酒神公太のスペックや周りの環境を考えると、完全に物語の主人公だ。


 ならありえる! なるほど、やはり仲のいい男女は身内間でしか成立しないのだな。



「二人は義兄妹なんだろ?」

「……え? いやいや、そんな訳ないだろ?」


 ……ですよねぇぇ!! 呆れた様子の公太はさらに言葉を続けた。


「普通に友達だよ、夏菜とは」

「そ、そうか。ずいぶんと仲良さそうだから、勘違いしたわ」

「それなら普通は友達だと思うだろ……」


 男女間に友情って成立するんだな~……あれ? 俺は成立した事がないんだけど?



「まぁ公くんとは幼馴染だからねぇ、気心知れてるし」

「幼馴染かぁ~、俺も可愛い幼馴染が欲しかっっオサナナジミ!?!?」


「ビックリしたぁ! 驚かせないでよ脇谷君」


 ビビる愛川いと可愛い。


 んなぁにぃ!? 幼馴染って幼馴染の事か!? ほんとに実在してたのかよ!? ゲームの世界の話だと思っていた。



「俺と夏菜は家が隣同士でさ、家族ぐるみで昔から仲がいいんだ」

「小学校から一緒だよね」


 はい出た役満! 隣同士の家族ぐるみ、W役満!! 俺だって人生で一度しか上がった事ないぞ! ここまで在り来たりだと逆に感心するね!!


 疑いの余地なし、かんっぜんに主人公じゃねぇか!



 【幼馴染ってどこに売ってんの?】

 【俺も可愛い幼馴染が欲しかった……】

 【はいはい、テンプレ乙】

 【二人は麻雀できる?】



 そしてなに、この選択肢ッ!?


 これしかないの!? とりあえず俺に道化を演じろと!? それが主人公の物語における俺に与えられた役割なのか!?


 あぁでも、そろそろ年が近い人と卓を囲んでみたいな。昨今の若者は、麻雀しないよね。


 ぐゥゥゥゥ……本当に神の選択肢から選んでいいのか――――



「――――コラお前らぁぁぁ!! こんな所でなにやってんだぁぁ!!」


「あらら、生徒指導の荒木先生だ」

「あはは、大人しくお縄に付こうか……」


 二人は苦笑いをしながら、迫る荒木先生を待ち構えた。

 そんな二人をぼんやり眺めながら、俺は少し驚いていた。



「……え!? あれ!? 俺まだ選んでないぞ……!?」


 選択肢が消えてしまった。


 心のどこかで選んだのだろうかと思ったが、迷いに迷っていたため選んではいないと思う。


(時間制限あり……? そりゃそうか、ゲームじゃないんだから)


 ゲームのように時が止まっている訳ではない。選択を選ぶのに時間が掛かれば、普通にタイムオーバーという事もあり得ると。


 しかしタイムオーバーを気にするあまり適当に選んでいては、直感と変わらなくないか? 難しいな……。



「ったくお前ら! 早く来い! 初日からなに遅刻してんだ!」


「すみません、春の陽気(俳句読み野郎)に中てられて……」

「一身上の都合(財布家に忘れた)がありまして……」


「えと……自分の選択(諦めてのんびり)は間違いだとは思いません」

「大間違いだ!! 何を言ってんだ脇谷!!」


 言い訳をし出した俺達に激怒した荒木先生は、なぜか俺の首を掴んで体育館へと歩きだした。


 それを苦笑いしながらついて来る公太と愛川。

 こんな扱い、完全に脇役である主人公の友人キャラではないだろうか。



「あっそうそう、俺もC組だったからよろしくな!」

「ほんとに!? 凄い偶然だね、遅刻者全員が同じクラスとか」


 なんだと!? せめてヒロインとは別クラスなのを心で祈っていたのだが、こうなる事は必然であった気がしてならない。


「っく……これが主人公パワーか。ざけんなよご都合主義」

「なに訳の分からない事いってんだ脇谷!? さっさと歩け!! いいか脇谷、今日の放課後――――」



 片や青春の一幕を感じさせる雰囲気で歩く二人と、ある意味では青春の光景である俺と先生。


 ……代わってくんねぇかな、公太君。

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