第3話 夏との出会い






「ねぇ、遅刻しちゃうよ? 走らないの?」

「う……あ、その……」


 か、可愛い、なんだコイツめっちゃ可愛い。


 まるで太陽の様な元気さを感じさせる笑顔に、同じように元気に揺れる茶色のポニーテール。


 季節は春なのに、彼女を見ていると夏を連想させられる。


 え? 俺に話しかけてんの? こんな可愛い子が、俺に笑顔を見せたの?


 と、ととにかく、何か反応しないと……なんて言えばいいのか分かんねェェ!!


 えっと……足に爆弾を抱えてるからとか? それとも公太のせいに――――



 【黙れ、気安く話しかけんな】

 【もうどうせ、間に合わないからな】

 【のんびり歩けば、君に会えるかと思ってな】



 キターーー!! 選択神降臨!! ありがとうございます! ありがとうございます!!


 黙れはないけど!! それだけは選ばねぇけど!! あと主人公用の選択肢が紛れ込んでやがる!! 俺が言ったら完全に変質者だよ!!


 えぇ……一択じゃないっすか……。



「も、もうどうせ間に合わないし……な」


「あ~確かに! もう急いでも間に合わないよね!」

「そ、そうそう。なら……急ぐだけ損かなって」


 ど、どうだっただろうか? 俺の選択は。


 間違いか? 正解か? 俺の中ではこれだと(実質一択)思って選んだつもりだったけど。


 恐る恐る彼女の顔を覗き込む。不快な顔をしていたらどうしようと、情けなくもそんな感情が浮き上がってしまう。


 でも彼女の顔を見た俺は、選んでよかったと心の底から思った。



「君、面白いね! ねぇ、名前教えてよ!」

「お、俺は脇谷九郎……き、君は……?」

「ウチは愛川あいかわ夏菜なつな! 宜しくね、脇谷君!」


 眩し過ぎる笑顔、名前通り夏の様に元気な子。それが俺の愛川に対する第一印象だった。


 ここまで純粋な笑顔を女性に向けられた事なんてない。精々母親くらいだが、カウントに入れてもいいのだろうか?


 彼女の爛漫な笑顔を見た俺は、本当に何かが変わるかもしれないと思うのだった。



 ――――その後のんびりと登校を選んだ遅刻確定の俺は、同じく遅刻確定の愛川夏奈と肩を並べて登校していた。


 美少女との登校なんて、十分前までは信じられないほどの事だ。


 異性と話した事はあれど、ここまで長く会話を交わした事など人生で一度もない。


 それが、たった二つほど選択肢を選んだだけで変わったのだから、もの凄い事だろう。



「ウチも今日から二年生だよ。脇谷君は去年、何組だったの?」 

「俺はFだったよ……えと、あ、愛川は?」

「ウチはBだよ、だから接点なかったんだね」


 よぉぉぉぉし!! 敬称なし、つまり呼び捨てで呼んでやったぞ! 嫌がってないな!?


 なんとなく愛川なら許してくれそうな気はしてたんだけど、結構怖かったのは内緒だ。


 ニコニコと笑いかけてくれる愛川、俺もニヤニヤが止まらない。


 せめて気取られないようにと平静を保っているが、心臓がバクバクうるさいです。


 もし全速力を選んでいたら、こんな事になっていなかったのだと思うと、とても不思議だ。


 遅刻して印象が悪くなってもお釣りがくる。こんな可愛い子と一緒に登校ができるのだから。



 その後、他愛のない話をしながらのんびりと登校した。


 言っておくが、俺達は大遅刻だ。それを忘れたかのような二人は、人っ子一人いなくなった組み分けの掲示板まで足を運んだ。



(えっと……俺の組は……――――)


「――――あっ脇谷君とウチ、C組だよ! 一緒だね!」

「うぇえ!? マジ!? もはや運命だろ!?」

「運命? C組の予想でもしてたの?」

「あ、ああいや……そんなとこかな」


 お前が運命の人だとは口が裂けても言えん。選択肢が出てきたら考えたけど? 本当に考えたけど?


 まあ出なかったという事はそういう事だろ? でもホッとしている自分もいるぜ。


 そんなヘタレな俺に気づかない様子の愛川は、何か期待するような目で俺に声を掛けてきた。目がクリクリと大きくて、とても可愛いです。



「それで……どうしよっか? たぶん、今って始業式の真っ最中だよね」

「だよな……やべぇ、何も考えてなかった」

「そうなの!? あまりに堂々とした登校だから、何か策があるんだと思ってたのに!」

「愛川。現実逃避している場合じゃないんだ」

「現実逃避してのんびり登校してたのは脇谷君でしょ!?」

「いや、俺は神の導き選択肢に従ってのんびり――――」


「――――お~い二人とも~」


 この現実をどう受け止めるかを二人で考えていた時、後方から男の声が聞こえてきた。


 腕を振りながら小走りで掛けてくるイケメンっぽい人。近づくにつれイケメンっぽい人は紛う事なきイケメンに変わった。


 公太じゃん。なんでそんな爽やかなんだよ、遅刻したくせに。


 そんな遅刻野郎の登場に驚いていると、隣にいた愛川の口から出た言葉には更に驚かされた。



「あっ、公くん!」

「……コウクン? え? ウインナー?」


「はぁはぁ……夏菜に脇谷、お前たちも……遅刻か?」


 息を切らした公太が遅刻仲間を作ろうと声を掛けてきた。


 赤信号、みんなで渡れば的な精神か? 確かにイケメンが遅刻仲間に加わるのは心強い――――ってそうじゃないっ!!


 呼び捨て!? そんな馬鹿な!? 俺だって一世一代の覚悟で名字の呼び捨てを敢行したのに、すっ飛ばして名前呼び捨て!?


 俺の覚悟をアッサリ超えやがった。これが陽キャイケメンなのか……?

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