第3話 彼女は友達を作ったそうです
午前中、入学式が終わりみんなてんやわんやしている中、忙しくうちのクラスの担任の先生が教室に入ってきた。
「すまないが、明日休みになるから、今日授業をすることになった。本来なら今日は入学式だけで終わるはずだったんだが、申し訳ない。急いで、教科書を配るから何人か手伝いに来てくれ」
それは申し訳なさそうに先生は謝ってきたので、俺達は責めることが出来ず、文句は言わなかった。
「では、私達が行きます」
そして、厄介な楓は俺の袖を掴んで持ち上げ、、、俺は巻き添いをくらった。
「はぁ、やると思ったけどマジでやりやがったよ。ほんと伊波さん想像通りだよ」
「誰かに任しておけばいいとは、思わないだろう。それに二人で話す時間もできたじゃないか?」
「そのおかげで、俺達二人だけで運ぶ羽目になってるがな」
「それが、私という人望の厚さだよ」
「言ってて悲しくならないのかよ...」
二人しか立候補しなかったため、俺達は荷台の上に四〇人×九冊分の本を乗せ運ぶことになった。
「重くね、マジで」
「漫画みたいに前が見えないほど積まれてるという訳でもないから大丈夫さ。だが、良く考えれば、漫画に出てくる彼らはそれを持ち上げられるだけ筋力をつけているというわけか!!」
「なんも凄いことなんかないぞー。そんなことより段差だちょっと上げてもらえるか?」
「分かった。仕方ないな」
そんなふうに言って、楓は教室に入る前の段差に対応した。っていうか、荷台押してたのずっと俺じゃないか、立候補したの俺じゃないのに。
いいように使われた、が、もう気にしないことにした。
しかし、なぜ、明日が休みになり今日は授業なのか?そもそもの理由も先生からは聞いていない。
一体何があったというのか。疑問は残るが、授業は急に始まった。
「はい。数学担当粟井です。これからよろしく」
「「「よろしくお願いします」」」
「ちなみに今日は授業になったが全くやる気にならん。お前らお互い自己紹介もしてないだろう。だから、この時間は自己紹介タイムにしまーす」
「「「はーい!!」」」
なんか、テンションはついていかないが今から授業じゃなく自己紹介する時間になるらしい。
というか、元気すぎないか?
「ここはどうやら隠していただけで楽しい奴らがたくさんいるようだよ」
俺の心を呼んだかのように楓は話す。
「お前が一番なのは変わりなさそうだけどな」
俺から言わしてもらえば、ここが普通と違うだけだ。会津も驚いてる、いや完全に乗っているみたいだな。そんなやつじゃなかったはずだけど
「ふふふ、私にもようやく女友達が出来そうだよ」
「いや、難しいだろ。女子のネットワークってめっちゃ怖いんだろ?」
「ま、そこは何とかするんだよ」
そう言って楓は、何人か集まっている少女達の中に入っていき、何か話し込んだ後、少女達を連れてこっちにやってきた。
「な、できただろう」
「なんで、わざわざこっちに戻ってきたんだよ」
「いや、悠斗も話したいかと思って」
「余計なお世話だよ。大体、俺が女子と話せるわけないだろう。陰キャだぞ」
「すごい説得力だな」
「バカにしてんのか?」
「でも、楓ちゃんを守るために暴漢をのしたって聞きましたよ。すごいじゃないですか」
「いや、それは伊波さんが...」
「尊敬しちゃうな。やるじゃん、そんなケンカできそうな顔してないのに」
「いや、だから、それは...」
いつの間にか俺は楓を含む女子三人に囲まれ、逃げ出せない状況になっていた。
さらに言うと、男子からの目線が痛い、どう考えても友達になろうなんて言える雰囲気じゃない。
「(かえでぇやってくれたな!!)」
俺が、楓をじっと眺めるとちょびっと舌を出して可愛く仕草した。確信犯だ。
「ちな、名前は...灰羽悠斗っていうのか」
「いい名前ですね」
取り囲む女子達は僕の所持品を勝手に触りながら、僕の情報を手に入れようとしている。
どうして僕なんかに関わってくるんだ?
「灰羽くんスマホ出して」
「え、何するんですか?」
「何するってそりゃRINE交換に決まってるだろー」
茶色の髪の子がそう言いだす。うん?これは当たり前のことなんだろうか?僕は言われるがまま、スマホを取り出し、家族のしかないRINEを起動した。あとから、
「わ、私も混ぜてください」
黒髪の背の小さい方の少女も遅れじとスマホを取り出し、
「ちょ、ちょっと待って、いや、ここは私からだろ?」
とかよく分からないことを言っている楓もこのRINE交換に参加してきた。そして、女子三人とのRINE交換を終えると
「オッケー。登録しといた」
「よろしくお願いします」
「いきなり、三人も女子を手に入れるなんてやるじゃないか、悠斗」
と楓に煽られ、
「ほとんど、いや一〇〇%伊波さんが原因だけどな」
と僕は言った。
というか自己紹介に時間を使うはずが、いつの間にか周りもRINE交換会になっていた。(なお、俺は一人の男子とも話せてない)
あと、先生も全く注意しない。っていうか、先生まで混ざってRINEを交換しようとしていた。
別にスマホ禁止の学校じゃないからいいんだろうけど、全員自由がすぎる。秩序ってものが全く感じられない。
そんなことをしていると、まぁ、時間は早く経つもので、
「あと、一〇分だから、そろそろ席に着いてくれ〜」
と、初めて先生が先生らしいことをするとさすがに皆も、席に着いた。
ちなみに、俺はずっと女子に捕まっていて(普通なら喜ぶところなのだが、男友達を作る時間を潰されたという意味では最悪)、ずっと話を聞くbotと化していた。
そして、異次元の会話を聞き終えると俺の頭は完全にショートしていて、貴重な休み時間を無駄に費やしてしまった。
「大丈夫か?ボォーっとしているぞ。もう休み時間終わるし、そんな燃え尽かれても困ってしまうぞ?」
楓の呼びかけでようやく、現実世界に戻ってきた。やはり、女子との会話は危険だと思った。
「え、えっと。次はなんだっけ?」
「次は国語だよ」
楓は新入生代表の挨拶と登校時のあの事件からは想像できないくらい実はちゃんとしてるのかもしれない。
楓は今日の口頭で伝えられた時間割をメモ帳に残していたらしい。
「伊波さんが真面目なのか真面目じゃないのか、分からなくなってきたよ」
「私はいつも大真面目さ、何事も全力で取り組んでいたら楽しいだろう?」
俺とは全く真逆といっていい思考回路だ。俺は自分の行動全てに無気力だから。単純にすごいなと思った。
「俺はそんなふうに思って行動できないけどな」
「ふぅーん。ま、大丈夫だよ。私に任せなさい!!」
「嫌な予感しかしない」
楓は口元に人差し指を近づけふふふっと不敵に笑った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ねぇ、あの灰羽っていう子どう思います?」
「ま、楓に捕まったんだから苦労することになるんだろうね」
楓の友達、夜野芽衣と如月ぬめは少し離れた席で、二人の様子を観察していた。
「ほら、私達も不登校とか一番目立たないとかで捕まったクチじゃん」
「そうですね。私達、お互い変でしたね」
「清楚系とギャル系の組み合わせおもしろいなんて言う理由で私ら、初顔合わせだったしね」
はぁ、っと二人は息を合わせ楓の自由っぷりを思い出し笑った。
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