第56話 球技大会練習
僕は葵と別れて、体育館へと回った。
そこそこ広い体育館。
バスケとバレーだったか?
これなら全クラス一緒に練習できるだろうに、そんな風に思いつつ、人が集まっているところに歩いて行く。
バシュッ!
ちょっ、危ない!
顔をめがけて、何かが飛んできた。
バスケットボール?
思わず避けて、後ろに飛んでいったボールを目で追った。
あれ、中学生の球か?僕じゃなかったら大けがですまないぞ。
そんな風に思った直後。
「遅いぞ!」
と、聞き慣れた声が飛んできた。
なんだ、淳平か。とすると、わざと僕にボールを投げたんだ。ったく、当たってたら大けがだぞ。正直怪我するだけなら問題ないけど、リカバーしてしまう体のことを考えるとゾッとする。まぎれもなく、そのレベルの脅威だった。
ボールを放置、しても、どうせ取ってこいって言われるんだろうな、と思いつつ、僕は後方へ飛んだボールを回収して、彼らの元へ。
「先にサッカーのところへ行ってたんですよっ。」
ちょっとキレ気味にボールを投げ返したけど、しれっと受け取られた。
「ちょっと飛鳥君、そんなに強く投げたら危ないでしょ。先生は目が見えないんだからね。」
まだ名前を覚えてない女子からクレームだ。
目が見えない、なんてことは、この化けもんにはハンディにもならないんだよ、そう言い返したいけど、さすがにできないよな。僕は小さく口の中でごめんとつぶやいたけど、その子、と便乗してきた数人の女子が、ちゃんと謝りなさい、とか、詰め寄ってくる。
ああ、そうだったな。僕は心の中で大きくため息をついた。
チャラい雰囲気も相まって、淳平はやたらとモテる。この学校は真面目そうな年配の教師が多いから、なおさらだ。
この年頃の女の子は、年上に憧れる、というのもあるしな。
「飛鳥ちゃん、ちゃんと謝ろ?」
ルカがそんな風に声をかけてきた。そういえばバスケ班か。背が小さいけどカットやドリブルが上手い、らしい。
いや、謝ろうもなにも、最初に仕掛けてきたのは淳平なんだが・・・多勢に無勢ってやつか。女子の剣幕に男子が弱腰になってるって図?
だけじゃないか。
やり玉に挙がってる僕を気の毒に思いつつ、面白がってもいるけど、なんだか上から目線で生暖かく見守ってる、って感じ?
そう感じつつむかついた自分を俯瞰して、気づいた。
さっきの葵とのやりとりのせいで、敏感になってる?
言い換えれば、テレパシー能力が発動してしまってる。
僕は、目線だけで淳平を見た。
これは、気づかれてるな。
深呼吸をしつつ、回路を閉じるように発動を押さえるけど、苦手っていうのはこういうところにも出る。
テレパシー系は苦手だ。防御も苦手だけど、無意識に発動してしまった力を押さえ込むのも苦手。
誰かから強烈な思念を向けられたとき、その圧に当てられて、引っ張られることがある。そういうのはドロドロしてて酔うっていうか硬直したり、ゲーム風に言えばデバフをかけられたみたいになってしまう。
それもあって、できるだけ心をシャットアウトする訓練をやらされてはきてるけど、そもそもいろんな力を受け入れられるという僕の特殊性が、それを困難にしてる。
ああ言い訳だよ。
極力、人の思念に引っ張られないよう、言われてる。けど、さっき、葵に手を握られて、なんでこの世界の人が?って疑問に思ってしまって、揺さぶられた。自分の思考の読み取りをカットしつつ、彼女の能力発動を感知しようと探った。別に思考を探るような使い方はしてないけど、彼女の能力があるのかないのか、霊力の流れを探るようなことはした。そのせいでテレパシーの発動が甘くなってしまってる。
『ったく、別に飛鳥が思ってるほど、能力が漏れてるわけじゃねぇよ。こいつらを見れば、そのぐらいの分析は可能だ。』
僕の動揺に、淳平が念話で話しかけてきた。
僕と違って、彼のテレパシー能力は高い。そもそもが人の力をコントロールするような力だ。僕の思考なんて簡単に筒抜けになる。本人曰く思考じゃなくて、感情が分かる程度だって話だが、そこから思考を推測されるなら同じことだ。
それは蓮華でも一緒で、ハハ、考えてみたら今更ノリに覗かれてもそんなに抵抗がないのは、この慣れのせいか。ノリの場合は感情だけではなく思考そのものが筒抜けってことだけど、僕にはどう違うか分からない。
『問題ないなら良いよ。一応報告。体育館の裏、この敷地の裏口近く、で、転移先を発見した。倉間葵の情報だ。』
『寮でみんなと聞く。』
『お前も目で見てこいよ。』
『飛鳥ちゃんと違って、ぼくちんは忙しいの。』
はぁ?
こんなところで油を売ってるのに何をいってるんだか。
「はいはい。謝るのが苦手なお子様には後でお話ししてもらうとして、みんなせっかく練習に来たんだから、練習しないとね。少人数制の練習ってことで、今日は試合形式。相手は監督1人で大丈夫だと思うんで、まずは先発候補でやってみようか。」
はぁ?
「ちょっと待って。相手は監督1人ってどういうことだよ。」
「田口君なら、一人で3人相手のバスケ、できるでしょ?6人ぐらいならバレーボールも。」
「できるわけないだろ!」
「サッカーで10人抜き、やったんだってね?」
・・・・
え、マジ?とか、さすがにあの筋肉か、とか、それなら1人で相手にして貰ってもいい、とか、監督のレベルが知りたい、とか、みんな好き勝手、言ってる。
僕はチッと舌打ちをした。
やりすぎ、だったのかもしれない。
どうせやり過ぎたんなら、こっちも合わせろ、と淳平の目が言ってる。
だけど、さすがに試合はないだろ?
できない、じゃなくて、手加減が難しいんだ、って。
それが分かっててのオーダーってのがむかつくんだ。
僕はいろんな力のコントロールが上手くなくて、そのあたりの訓練には時間が割かれてる。これも訓練に入れようって心づもりなんだろう。だけど相手は中学生の子供。下手打つのが、正直・・・怖い。
壊していい魔物たちと違い、人間って簡単に壊れるんだ・・・
「あぁ、先生?さすがに飛鳥ちゃんの負担大きいですよぉ。それにほら、顔も青いし。飛鳥ちゃん病弱、なんでしょ?」
ルカが僕の肩を抱くようにして、淳平に抗議してくれてるようだ。僕の顔、そんなに青い、のか?
「まぁ、無制限ってことじゃないさ。そうだな。各10分。それぐらいなら問題ないだろ?」
いや、十分長いわ!
「まぁ、それくらいなら、ねぇ。飛鳥ちゃん頑張れる?」
「お前は僕の味方じゃなかったのかよ。」
「うーん、味方だけどね?味方だけど、ちょっと飛鳥ちゃんの勇姿も見てみたいかな?なんてね、ハハっ。」
・・・
結局、バスケとバレーを各10分。
僕1人で試合形式の練習を行った。
やってわかったこと。
これらはボールが1つしかない。
それに合わせて動けば良いだけ。
つまりは、考えていたよりずっと楽だったってこと。
何度か、ジャンプをしかけて、力尽くで淳平に体をキャンセルされ、転けてしまう、というハプニングはあったけど、思いの外楽しんでる自分に、ちょっと戸惑ってしまう。
最初に転がされたとき、『普通の人間は膝丈しか飛べないことを忘れるな。』って、頭の中で怒鳴られたけど、逆に普通に出来ない動きを淳平が強制キャンセルしてくれる、そんな安心感があった、ということを口にするつもりはない、けどな。
そして。
病弱、という微妙な設定を言い訳にしつつ、試合後は淳平とともに体育館を出た。
なんだかんだ言いつつ、一応先ほどの転移先に向かい、二人で確認を行う。
鍵をなんとかする、そう言う淳平を放置し、僕は、みんなに集合をかけつつ、寮に戻った。
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