第57話 身バレ

 僕が、スマートウォッチを操作して、概要と集合の連絡を打ちつつ、寮に向かっていたんだが・・・


 「おい、待てよ。待てって言ってんだろ、直江飛鳥!」

 直江って、まったく・・・誰だ、面倒だな。

 僕は本名を呼ばれて振り返る。


 養老千暮。こいつ、確か、生徒会もやっていたな。倉間葵ともども要注意ってか?


 「僕は田口だ。僕らに関わるな、と、親に言われてないのか?」

 こいつが、僕らの正体を知っていることは分かっている。

 この前絡まれた程度で上に泣きつくのも、と思い放置していたのは、まずったのか?明らかに、敵意をこっちに向けている。いったい何が気にくわない?

 奴は、こちらを睨み付けたまま、何にも言わない。

 僕は、付き合ってられない、と、奴に背を向けた。


 「おい!」

 そんな僕の肩を、走り寄ってきた奴が乱暴に掴んでくる。

 無造作に振り払った僕に、

 「化け物の分際で、何を偉そうにしてるんだ?僕は養老の次代だぞ。」

 だからなんだっていうのだろうか?僕には関係ないのだけど。

 「なんだ、その目は?」

 「あのな、だから、僕らに関わるなって教わってないのかよ。」

 「他に言うことがあるだろう!」

 「・・・さぁ?」

 「おまえ、ここに遊びに来てるのか?違うだろう?」

 「・・・だから、関わるな、と言っている。」

 「違うだろう?手伝ってください、だろ?この養老千暮様の手伝いが欲しいんだろうが。だったら、そういう態度があるだろう!」

 ・・・・

 何を言ってるんだか、このガキは?

 なんで、こんなやつの手伝いがいる?

 「倉間葵、生島麻朝。」

 「?」

 「だから、知ってるんだ!この二人が協力してるってな。」

 「・・・・いや?」

 「とぼけるんじゃねぇ!言っとくが、あんな二人より俺の方が優秀だ。なんで俺に頼まない?」

 ・・・・

 そもそも誰にも頼んでない。

 まぁ、結果的に二人の情報は、役に立ちそうではあるけれど・・・・

 だからって・・・

 「なんだ、その態度は!」

 黙っていたら、なんか胸ぐらを捕まれたけど、これを振り払っても、問題には・・・なるかなぁ。また、素人に手を出したなんて罰を受けるのも、なんか癪だ。そう逡巡していたときだった。


 「おい、養老、何やってんだ?」

 奴の後ろから、声をかけた者。ついでに僕から引っぺがしてくれる。


 太朗?


 「急に練習やめて飛び出していったから何事かって思ったら、何、飛鳥に手、出してんだよ。」


 そういや二人とも野球班だったな。今日はあそこだけ顔を出さなかった。サッカーをやってるときに、僕の様子を見てたのは気づいてたけど、太朗が仕切ってたし、彼に任せて、僕は体育館に行くって声だけはかけたはず。


 「鈴木か。パンピーは黙ってろ。」

 「お、出ました。養老お得意、セレブ発言!はい、パンピーその1、鈴木太朗君です。」

 「だから、引っ込んでろって言ってるだろ。」

 「うーん。どう見ても柄の悪い男が、かわいこちゃんを脅してる図、なんだけどさぁ。なぁ気づいてる?もうここって外だから、他人の目があるわけだ。通報されても文句言えないかもよ~。」

 太朗は養老の視線を周りに誘導する。

 確かに、チラチラとこつらを見るギャラリーの視線。

 チッ、と舌打ちして、養老は運動場へと戻っていった。



 「ふふーん、飛鳥、大丈夫だった?」

 「あ、あぁ・・・」

 「彼もこじらせちゃってるからねぇ。」

 「え?」

 「まぁ、そりゃ、ガキの頃から憧れてたヒーローとさ、共闘っての?役に立ってさ、ヒーローの親友マブダチって立ち位置を手に入れる気満々だったんだろうねぇ。それが後手後手に回るわ、ヒーローがヒロインみたいだわ、って言ったら、こんがらがっちゃったってとこ、かな?ハハハ。」


 ・・・・


 太朗は、知ってる、のか?


 「あ、ウェイッwaitウェイッwait。そんな警戒すんなって。僕は田口飛鳥が気に入ってるんであって、直江飛鳥は、その、興味はあるけど、頼まれなきゃ深入りする気はナッシング、だから、さ。」


 なんだよ、やっぱり知ってるのか。

 リストに入ってなかったけど、どうなってるんだ?使えねぇ。

 「あ、ちなみに、俺んちは霊能者とかはいないから。だけど、ちょっとばかり裏の世界とも関係があってさ。ちなみに、この学校の生徒、うちのクラスの連中も込みで、それなりの人数、飛鳥のこと気づいてるよ。」

 はぁ?

 ったくAAO情報収集班!どうなってんだ?


 「・・・ひょっとして、いろいろ聞きたい?」

 「・・・できれば・・・」

 「うしっ。いいぜ、の親友として協力して上げようじゃないか。ってね?ちょっと待ってて。着替えてくる。一緒に帰ろうぜ。」


 踵を返し走って行く太朗を目の端に捕らえつつ、僕は改めて潜入班のみんなに事の次第を連絡しつつ、太朗を待つことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る