第4話 少年たち

 僕は、面倒な奴らを避けて、解散と同時に部屋を出ようとした。


 「飛鳥!」

 が、知らない声がかかる。なんだよ、と、口には出さず、振り返った。悔しいが、ここでの僕の立場は低い。知らんぷりをして、後でとやかく言われるのも、勘弁だ。

 そうして立ち止まった僕に、蓮華と淳平は、「後で」と肩を叩きながら出ていった。後で何かあるのか?まったく、どうせ碌なことじゃない。


 僕が、声をかけられて振り返ったのを見て、近づいてきたのは、二人の男、いや少年だった。そういや、見たことのないメンツがいるなぁ、と思ったけど、こいつらだったっけ。自己紹介はしてたが、興味も無いし、覚えてない。

 みたところ、まだ高校生ぐらいか。こんな所に参加してるんだ、それなりののご子息ってやつだろうが、面倒な奴らがからんできたもんだ。


 「面倒で悪かったね。」

 クスリ、と、笑って、理知的な雰囲気のやつが言った。ちぇっ、面倒だな、テレパシストか。僕は、心が読まれないように、防御を張った。今更遅いだろうし、僕は得意分野じゃないからどこまで効くか分かんないけど、やらないよりましだろ。

 「うーん、無駄かな。」

 そいつは、おかしそうに首を傾げながら言った。

 「僕は・・・・さっき自己紹介したけど聞いてないよね。僕の名前は設楽憲央したらのりお幸楽憲右衛門こうらくけんうえもんの血を引く、といえば、君でも分かるかな?」

 幸楽、だと。また面倒きわまりないな。

 幸楽のじじい、と言えば、裏の世界ではビッグネームだ。別の名をさとりのじじい。さとり、という名の妖怪は、人の考えていることが手に取るように分かるという。そんな妖怪のように、いや、それ以上に、人の心を見透かす、強力なテレパシストだ。この国、日本の霊能者たちにとって、重鎮も重鎮。どこまで本当か知らないが、2度の世界大戦を経験している、とも言われる。僕らみたいな不死者とは異なり、単に化け物じみた生命力で長生きしているという、妖怪じじいとして知らない者はいないだろう。

 それで、こいつがその子孫、か。

 分家か傍系か、名字は違うが、わざわざじじいの名を出すと言うことは、じじいの後継の1人、しかもこの年でここにいる、ということは、それなりの立場、と言うことか。


 「ふうん。可愛い女の子がふてくされてるようにしか見えなかったけど、なかなかどうして、それなりの分析してるじゃない。気に入ったよ。これからよろしく。」

 奴は何が嬉しいのか、にこにこしながら、僕に手を差し出してきた。

 冗談?誰がテレパシストと接触するかよ。奴らは触れるとより強力な力を発揮するんだから。


 「あーあ嫌われちゃった。ま、いいや。善、君も挨拶するんだろ?」

 彼は横にいるもう一人を見上げながら言った。

 隣にいた男も同年代か。

 が、とてつもなくでかい。

 設楽、と言っていたじじいの子孫も、僕よりは残念ながら頭一つでかいが、そのまた頭一つ分でかいだろうか。

 それに比して、厚みもすごい。何らかの武道をやってるのだろう、と、自然に思わせる体格と・・・・立ち姿だ。

 善、と呼ばれたその男は、設楽に頷いて、僕を見た。


 今更、どうして、なんて思いもしないが、まったく嫌になる目つきだ。僕を見極めてやろう、とする、上から目線。まぁいいさ。好きに僕を評価して、絶望でも唾棄でもするがいい。

 「おいおい、善君。そんな怖い顔で見たら、飛鳥ちゃん、緊張しちゃってるよ。どうせ僕を馬鹿にしてるんでしょ、なんて、泣いちゃってるからね。」

 「はぁ、何言ってんだ?誰が泣いてるって?」

 あまりの言いように、ついつい口を出してしまった。下手に関わりたくないから、シカトのつもりだったのに。


 「ハハハ。あんまりだんまりだと、シカトしようなんて考えちゃうみたいだよ。僕ぐらい積極的に声をかけなきゃ、ね。」

 「お、おう。」

 「オイ!」

 善が、思わず頷き、僕は思わずツッコんだ。設楽はへらへらとそんな様子を見ている。

 だめだ。やつに乗せられてる。だから、さとりのやつらは嫌いなんだ。


 「おい、飛鳥。俺は、海里善かいりぜんという。密教の修行中の身だ。これからよろしく頼む。」

 そう言うと、頭を下げた。

 ・・・

 なんだか、思ったのと違って、こいつ、緊張してるのか?

 そりゃ、僕は、こいつらからしたら怖い存在だろうからな。

 フン、と僕は鼻をならした。


 「ああ、ちがうよ、飛鳥。善は、緊張してるけど、お前のこと全然怖がってないから。」

 「すまん、不愉快にさせたか。俺は、あまり口はうまくないんで、どう言えばいいか分からんが、その、共闘するのにあたって、噂とは違う、というか、なんというか・・・その、なんだ。とにかく背中を預けて欲しい。いや、その・・・」


 ハハハハ!


 何が言いたいか分からないまま、ごにょごにょ言ってるデカいのの言葉のどこが面白いのか、設楽は、腹をかかえて笑い出した。

 なんなんだ、こいつ。


 「ハハハハ、ああ面白かった。あ、俺のことは設楽じゃなくてノリかノンちゃんでよろしく。俺ら絶対いいコンビになるよ。ハハハハ。」

 設楽は、笑いながら、海里の背をバシバシ叩くと、部屋を出ていった。


 なんなんだ、まったく・・・


 僕はそう思いつつ、与えられている私室に向かう。

 僕の部屋は袋小路の最奥だ。手前には、蓮華や淳平、次長といった奴らの部屋がある。その手前には、食堂に医務室。

 なんのことはない。それらの部屋の前を通らないと、僕は部屋に出入りできない。

 多くの目に触れるように、という、僕からしたら、随分な嫌がらせだ。僕の行動は、ここにいる限り、常に人目にさらされている。なんせ、貴重なモルモットだからな。ハハハ。


 ここに来ると陥る、あきらめの気持ちを押しやりつつ、僕は自分の部屋の前に行くと、なぜか電気が付いていた。

 人が入ると自動で電気が付く仕組み。当然、誰かがいる、ということだ。

 僕の部屋には鍵なんて、高尚なもんはついていない。誰でも入り放題だ。

 チッと舌打ちしつつ、部屋に入る。

 そこには、思った通りの人物、すなわち、蓮華と淳平が、思い思いにくつろいでいた。

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