338.地上

 ◆地上◆


 クロウティア達が『天空の城』に向かっていた頃。


 地上でも激しい戦いが繰り広げられていた。



 大きな黄色いドラゴンの背中に乗り、多くのモンスターや獣獅子族のような、地上では見ない種族が地上を攻めてきた。


 まず最初に、全ての戦力が集中していたのはバレイント領の地下に作られている『大規模避難所』である。


 敵もその居場所を既に察知しており、多くの戦力がバレイント領に降り立った。


 バレイント領の各地には、各国の混合軍が編成されており、相手を選ばない戦い方が出来るようにしている。



 降り立った敵軍はモンスターだけでなく、獣の種族が多く含まれていた。


 地上軍はクロウティアの従魔である白狐達の攻撃を中心に各個撃破していった。




 暗黒大陸の広い大地に、数人の魔族が降りた。


「おいおい~! 久しぶりじゃねぇか!」


 降りてきた魔族は嬉しそうに、地上で自分達を待っていた魔族を見つめた。


「お久しぶりです。四天王様」


「くっくっくっ、我々がいなくなり、お前らも楽しめたらしいな?」


「……楽しめた……ですか、ええ、貴方達のおかげで……我々も随分も苦労・・しましたよ」


 クロウティアの奥さんの四人と戦った魔族の四天王の四人が彼らを睨む。


 彼らは元四天王であり、魔族を虐げてきた魔族達の元王であった。


 そんな彼らを、今の四天王の四人が追い出し、こうして再会を果たしたのである。


「くっくっくっ、それにしても、魔族にしちゃ面白い編成になったな? いつから魔族は人間も飼うようになったのだ?」


 彼らが指差した先にいたのは、地上軍でも最強を誇る騎士『戦慄の伯爵』『破滅の騎士』『鋼鉄の将軍』『グランセイル王国の英雄』の四人が待っていた。


 その中の一番小さな騎士が口を開く。


「あれが向こう側についた魔族ですね」


「元四天王だったらしい、今はもっと強くなっているはずだから油断はするな」


「お義父様も無理はなさらないでください」


「ガーハハハッ! そういう訳にもいくまい! のぉ? 鋼鉄さんよ」


「うむ。あやつら、相当強いぞぃ、戦慄さんより強いんじゃないか?」


「ふむ、お二人は相変わらず私を買いかぶり過ぎです」


「ガーハハハッ! 今では女性の方が強いしな!」


「ええ、彼女達も戦っているでしょう。我々も頑張りましょう」


「おうおう! 魔族の仲間・・達も頑張るぞい!」


 何処か嬉しそうな白熊のような騎士が、自分よりも大きい魔族の肩を叩いた。


「ひゃはははは! いいじゃねぇか! 魔族も人も関係ないだろう! さあ、宴の始まりだ!」


 大柄の魔族の合図で、敵魔族四人と、地上軍魔族四人騎士四人の戦いが始まった。




 ◇




「姉上! 我々も出撃します!」


「みんな! これは訓練じゃないからね! いつでも死が隣合わせの事を忘れずにね!」


「「「「ハイッ!」」」」


 アヤノの前には弟妹が戦闘衣装で整列していた。


「我々は闇に紛れる一族。貴方達には『職能』がなくても、その流れる血には『忍び』が入っているわ。今までの訓練を忘れず、ミスを恐れず、戦ってきなさい!」


「「「「ハイッ!」」」」


 直後、弟妹がその場から消えた。


 既にアカバネ大商会に所属している多くの人が、レベルが高くなっており、『職能』がなくても一般人よりは遥かに高い戦闘能力を有していた。


 アヤノ一族は長年暗殺に長けていた一族。


 今のアヤノも高い実力を有していたため、その実力を遺憾なく発揮し、後進の育成に力を入れていたのだ。


 本来ならアカバネ大商会の『新聞隊』に働かせるためではあったが、人々を守るという事はアカバネ大商会の常日頃の考えから、彼らも人を助ける剣となるため日頃から鍛錬を積んでいた。


「みんな……どうか無事で……」


 そして、アヤノもまた戦場に赴いた。




 ◇




 アカバネ島でもアカバネ大商会の従業員達が慌ただしく動いていた。


 各地に『女神ポーション』を送っていたり、食事も大事になるため、運んでいた。


 武器が壊れたら直ぐに武器を渡し、大型兵器魔道具用の魔石も運んでいる。


 アカバネ大商会では『魔石』は扱っていないが、日頃に『ウリエルのダンジョン』から取れた『魔石』を全て保管していたのだ。


 人々を守る為、彼らも休むことなく、戦う兵士達のために裏方を必死にこなしていた。




 ◇




 ◆ウリエルのダンジョン九層◆


「戦いは激しくなる一方ですね……」


「ああ、今はクロウくん達の無事を祈るしかないのじゃ……」


「お父様……クロウティア様はかの魔王に勝てるのでしょうか」


「さあ……我々はただ信じて待つしかないからのぉ……出来るなら儂も参戦してあげたかったのじゃが……」


「お父様…………お父様は十分に頑張りましたよ」


「はは……それならば良いのだがな……あの方への恩返しが少しでも出来たのなら良いがな………………シエル」


「はい、お父様」


「残念じゃが、儂もここまでのようじゃ……」


「……はい」


「すまぬが、あとを頼む……どうか、女神様に……精霊体を…………」


 横たわっていたリッチの目から生気が消え去った。


 シエルは大きな涙を流し、消え去る自分の父であったリッチを見送った。


「お父様。貴方の功績は計り知れません……クロウティア様のために全ての力を振り絞り……全ての天使様を降臨させた……貴方は本当に……自慢のお父様です」


 消えたリッチの跡に残された小さな美しい白い石を拾い、近くにあった色とりどりの石が七つ入っていた箱の中に入れた。


「どうか……地上の事は忘れ、安らかに休んでください」


 シエルの優しい声が祝福するかのように、太陽の光で石達は輝いていた。

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