339.ドラゴン

 ◆バレイント領の上空◆


 バレイント領の上空では、黄色いドラゴンが目の前を睨んでいた。


 その目の前には、色の違う青いドラゴンがいたからである。


「ふむ、おぬし……本当に『ドラゴン』族かえ?」


 リヴァは目の前のドラゴンに声をかける。


 しかし、黄色ドラゴンは何も話してはこなかった。


 寧ろ、そのまま攻撃が始まる。


 黄色ドラゴンの口から大きな炎が吐き放たれた。


 リヴァは既にクロウティアからの従魔の絆により、自由自在に空を飛べるようになっていて、軽々とドラゴンの炎を避ける。


 行き場を無くした炎の塊は、そのまま地上の自軍にぶつかり、大きな損害を出していた。


「ふむ、自我すらないのかえ……このまま避け続けてもよいのじゃが……それも面倒なのでこのまま倒して貰うぞ!」


 リヴァから多数の雷属性魔法が展開された。


 本来なら水属性魔法しか使えないリヴァであったが、クロウティアの従魔の絆により、飛行魔法以外にも多数の属性魔法が使えるようになっていたのである。


 中でも最も相性が良かったのは、雷属性魔法だ。


 リヴァの高い魔力から放たれた雷が黄色ドラゴンに命中した。


 黄色ドラゴンは咆哮と共に、地面に落ちていった。


「なんじゃ、一撃で終わりなのか? 思っていた以上に弱い・・のぉ?」


 落下していくドラゴンにリヴァが追加で攻撃を仕掛けた。


 長い尻尾から繰り出された攻撃に、黄色ドラゴンは成す術もなく落下していき、地面に衝突した。


 爆音と爆風で一帯が吹っ飛び、既に降りていた自軍のモンスターを多く巻き込んだ。


 悠々と降りたリヴァは黄色ドラゴンを見つめる。


「ふむ……ドラゴンの戦い方もなっていない……はてさて、一体こやつは…………ん?」


 既に虫の息の黄色ドラゴンがリヴァを見つめた。


 黄色ドラゴンの目からは、大きな涙が流れていた。


「涙……? どういう事じゃ?」


 黄色ドラゴンの右手がリヴァに向かって上がる。


 既に力はなく、手を上げるのは精一杯だろう黄色ドラゴンは、涙を流したまま、リヴァを見つめ続けた。



 ――その時、上空から大きな剣が黄色ドラゴンの頭に突き刺さった。


 黄色ドラゴンは短い悲鳴と共に、眼から生気が無くなり、その場に倒れ込んだ。


「ふん! これだから人化ドラゴンは嫌なのよ」


 空から小ぶりなドラゴンが一頭、降りてきた。


「ん!? お主は…………まさか、生きておったのか」


「アクアドラゴンね、久しぶり。勝手に殺さないでくれる? まあ、生きているのか死んでいるのかよく分からなかったけどね」


 降りてきた赤いドラゴンは黄色ドラゴンの頭の剣を引き抜いた。


 一瞬黄色ドラゴンがビクッと動くも、その後は動く気配が一切しなかった。


「よいのか? 味方なのじゃろ?」


「味方? ふん、そんなはずないでしょう。こんなゴミ、いらないわ、元々人間・・だしね」


「……元々人間?」


「ええ、そうよ。ドラゴンにして欲しいと嘆願してきた人間でね~人間の頃がまあまあ強かったから、主にお願いしてドラゴンにしてやったのに、耐えられなくてね。自我を失っちゃんだよ」


「なんとゲスい事を…………」


「ふふっ、いいでしょう? 自らドラゴンになりたい~なんて言ってたんだから。なんか、ドラゴンと結婚・・したとか訳の分からない事を抜かしていたな~」


「…………そやつ、名前は何と?」


「ん~忘れたよそんなこと~たしか~ホーバン? ホラン? そんな感じの名前だったような……」


「…………ホフマン」


「あ! その名だわ! 凄いね、まさかアクアが覚えているなんて!」


「…………ああ、忘れるはずもない……そやつが結婚したというドラゴンは」




「我じゃからな!!!」




 リヴァから多数の魔法が展開され、赤いドラゴンを襲った。


 赤いドラゴンは一瞬驚くも、急いでその場から空中に逃げた。


 直後、リヴァの口から鋭い水圧の吐息ブレスが放たれた。


 赤いドラゴンも既に予想していたようで、空中から火炎の吐息を放った。


 二つの吐息はぶつかり、大きな爆発を起こした。



「へぇ! あんた、空も飛べるようになったのね」


 既に怒りに震えているリヴァは一切答えなかった。


「ドラゴンが人間如きに執着するなんて、滑稽ね」


「お主だけは許さん! 神格化!」


 リヴァの身体から眩い光が溢れ出た。


 そして、リヴァの身体が少しずつ縮んでいく。


 一回り小さいドラゴンとなったリヴァだった。


「えっ!? 何その力! き、聞いてないわよ!」


 リヴァの変形に驚く赤いドラゴン。


 急いでその場から去ろうと飛び上がった。


 その直後。


水神ノ矛アクア・アルティメットスピア!」


 リヴァから放たれた水の槍は、逃げ去ろうとする赤いドラゴンを貫いた。


 貫かれ、身体に大きな穴が出来た赤いドラゴンは、そのまま力なく、海に落ちていった。





 リヴァは倒れている黄色ドラゴンに近づく。


「馬鹿もの……人間がドラゴンにはなれないと、あれほど言ったじゃろう……息子まで置いてお主は何を……やっているんじゃ……………………我々の息子は立派に育ち、子孫に繋いだぞ……だからゆっくり休め、ホフマン……もう戦いは終わったのじゃ、お主は役目を終えたのじゃ、我が見守っておるからの、ゆっくり休むがいい……」


 リヴァは黄色ドラゴンをアクアドラゴンの湖の中にゆっくりと沈めた。

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