333.嫉妬と人徳

 ◆嫉妬の間◆


 セナが通った扉の先の広場には、沢山の飾り物や花が植えてあった。


 外や玄関口から見た景色からは想像も出来ないほどの美しい景色。


 でも、それは逆に言えば、『着飾る』と言えるだろう。



「ふうん~あんたがあたいの相手ね…………お互いに仮面・・だわね」


「ええ、私はセナ。今では『仮面騎士』と呼ばれているわ」


「ふうん~『仮面騎士』ね…………」


 セナを待っていたのは、大きなソファーに優雅に横たわっている蝶々の仮面を被った女性だった。


 衣装も華やかなドレスを身に纏っていて、戦いとは無縁のようにも見える。


「あんた、その仮面の下……醜い顔じゃないわね?」


「醜い……顔?」


「寧ろ……その顔立ちなら綺麗みたいね……全く! そんな女、ほんと! ――――虫唾が走るわ」


 女から殺気が放たれた。


 少し身構えるセナだったが、意外にも大きな威圧感はなかった。


 ――その時。


「ベルシュタイン!! 早くこの女を醜い顔にしてしまいなさい!!」


 女の言葉の直後、強大な威圧感と共に、大きな巨人が一人現れた。


「ママ……りょうかい……」


 巨人の目が光る。


 直後、巨人が消え、セナの目の前に現れ、拳を下した。


 巨人の大きな拳が地面を抉り、大きな爆音が響く。


 見た目に反した巨人の速度だったが、セナは難なく避けていた。



「剣聖技、神殺シノ剣グラム!」



 セナの剣に禍々しい赤いオーラが立ち上る。


 巨人は迷う事なく、セナに再度攻撃を仕掛けた。


 剣と拳がぶつかる。


 セナの強力な剣でさえ、巨人の拳を斬る事は出来なかった。



 巨人の一振りの殴りに対して、セナは堅実に攻防を重ねた。


 着実に巨人の身体には傷が増えていったのだ。


「ベルシュタイン!! 何をやってるの! 早くその女をぐちゃぐちゃにしなさい!!」


 女の叫びに巨人が反応する。


 巨人の目が更に赤く染まった。


 すると、先程までの速度から更に速い動きになった。


 まだ余裕のあったセナであったため、巨人の攻撃をギリギリ避けつつ剣戟を重ねる。



「使えないわね!! 仕方ないわ、これもあの女をぐちゃぐちゃに出来ないお前が悪いのさ――――大罪ノ進化! 嫉妬ノ巨人!」



 女の言葉に巨人から禍々しいオーラが立ち上る。


 グ、グルァアアアアアアア――


 巨人の咆哮が響くと、広場がボロボロになっていく


「全く! 広場がボロボロじゃない! 後でお仕置きしなくちゃ!」


 巨人は禍々しい鎧の姿になり、両手には大きな包丁のようなギザギザした刃を持つ剣を二振り持っていた。


 既に理性を失った巨人の目がセナを捉える。


 直後、巨人が仕掛けた攻撃にセナは避ける事さえ叶わず、吹き飛ばされていった。



「アハハハ~! ベルシュタイン!! その女をもっと痛めつけておしまい! 美人がわざわざ顔を隠すなんて邪道よ! もう二度とその顔が見れないようにぐちゃぐちゃにしてしまいなさい!!」



 グルァアアアアアアア!!


 巨人は更に咆えた。


 その時。



「神格化! 人徳ノ天使」



 セナが埋もれた壁の中から眩い光が溢れる。


 土煙が少しずつ消えていき、中から美しい天使の羽が四枚見え始めた。


「何か誤解があるようだけど、この仮面はそんな安直・・な理由で付けているのではないわ」


 土煙が消え、羽根が生えたセナが現れる。


 その神々しい姿は、誰もを祝福するかのようであった。



 セナを捉えた巨人が仕掛ける。


 しかし、セナに辿り着く前に巨人は吹き飛ばされた。


「この仮面にはね、多くの人々の平和を願った『想い』が込められているわ」


 吹き飛ばされた巨人の上に一瞬で移動したセナが現れる。


 両手に持った魔剣グラムは、既に禍々しいオーラはなく、美しい刀身に変わっていた。


 セナは剣を振り下ろす。


 剣戟が届くはずのない距離での振り下ろし。


 その直後、巨人の身体に亀裂が入る。


 そして――――轟音と共に、巨人の身体からおびただしい量の血が流れた。



「ベルシュタイン!! 起きなさい!!!」


 セナは地面に降り、叫んでいる女を見つめた。


 そして、『仮面』を取り外す。


「やっぱり! そんな美しい顔なのに仮面を被っているなんて! 貴方は最低よ!!」


「この仮面にはね、私の生きると決めた想いが込められているの。それに……多くの人々はこの仮面に希望を見出しているわ。だから、私はいつまでもこの仮面を被るし……いつでも脱げるわ」


 セナは女の仮面を優しく取った。


「や、やめて!! その仮面は!!!」


 女の外れた顔は左右の大きさの違う目や崩れた皮膚が見えていた。


「貴方の顔が醜くなんてないわ」


「う、嘘よ!!」


「だって……この広場を見て、私が思ったのは――こんな美しい世界があるんだ――と思ったわ。それは貴方が作り出した世界。貴方の外見なんて関係ないわ。だから、私だけは貴方を認めてあげる。この仮面の下に隠されている美しい顔・・・・をね」


 セナは女に優しく仮面を付けてあげた。


 女は何も言わず、ただただ――――







 涙を流し続けていた。

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