332.傲慢と謙虚

 ◆傲慢の間◆


 ヒメガミが通った扉の先は広い部屋だった。


 その先で待っていたのは、大きな獅子の獣人族だった。


「ゲララララ、族か、グララララ」


「…………まさか……貴方は……『獣獅子族』……」


「ゲララララ、流石の鬼族、俺様の事を知っているみたいだな?」


「……ええ、お母様から聞いているわ……『鬼神族』を滅ぼした種族の事ですもの」


「ゲハハハハ! そうか! まだ『鬼神族』が生き残っていたのか! 憎たらしい神を崇める罪深き種族よ! 今一度この『獣獅子族』の王、ゲラハルが滅ぼしてやるぜ!」



 直後にゲラハルはヒメガミに殴りかかる。


 ヒメガミは事前に準備していた『クロウティアの火属性魔法』を飲み込む。


 ゲラハルがヒメガミを強打するも、ヒメガミの身体から真紅の炎が燃え上がりゲラハルの手を止めた。



「武術、剛撃打」



 ヒメガミの剛撃がゲラハルに直撃した。


 骨が折れる音が響き、ゲラハルが吹き飛ばされる。


「神術、炎撃破!」


 両手から大きな炎が吹き飛ばされたゲラハルに追い撃ちする。



「……お遊びが好きなのね」


「ゲハハハハ! そういやお前の母親に俺様の事を聞いたと言ったな、これは失敬!」


 やられたような素振りを見せていたゲラハルが何もなかったかのように起き上がった。


「まあ、少しはやるようじゃねぇか! じっくり楽しんでやりたかったが……少し本気を出してやろう」


 首を左右に動かし、ボキッボキッと音を鳴らすゲラハル。


「獣獅子流武術、獅子の構え」


 ゲラハルから真っ黒いオーラが立ち上がり、直後ヒメガミを激しい威圧感が襲う。


「くっ……」


 普通の人なら目の前に立つのがやっとの威圧感にヒメガミは冷や汗を流した。


「そんじゃ~一丁やってやるか~!」


 ゲラハルは目にも止まらぬ速さでヒメガミを襲う。


 あまりの速さに避ける事が出来ず、ゲラハルの一撃を両手でふさいだヒメガミ。


 ボギッと音が鳴り、ヒメガミは成す術なく吹き飛ばされ、広場の壁にぶつかり埋もれた。



「こんなもんか……たった一撃すら耐えれないのか、鬼よ」


 壁の瓦礫の中から爆炎が溢れ、瓦礫が吹き飛んだ。


 中から出てきたヒメガミは既に満身創痍の状態だった。


 口と両手からは既に流血している。


「はあはあ……」


 たった一撃がこれほどまでに重く速い事にヒメガミも予想していなかった。




「解放! 真ノ火神シン・カグツチ!! 神術! 青龍偃月刀真ノ火神ノ大刀!!」




 ヒメガミから凄まじいオーラと共に、青い炎に変わったカグツチの火と大刀が現れた。


 ヒメガミは素早く『女神ポーション』を飲む。


「ほぉ……おもしれぇもん持ってるな、それもあの『神ノ子』が作ったやつなのか?」


「『神ノ子』というのは……旦那様の事ね、ええ、そうよ。貴方達がどれほど強くても私達は負けないわ」


「ガハハハッ! 結構結構! 痛める時間が伸びただけの事!」


 再度ゲラハルがヒメガミを襲う。


 しかし、さっきとはまるで違う戦いとなった。


 ゲラハルの重い一撃を軽々と止めたヒメガミの大刀が反撃に出る。


 どんな攻撃も効かないはずのゲラハルの皮膚に傷が増えていく。


「ゲーハハハッ! おもしれ! 俺様の皮膚に傷を付けれるのが、あの以外にもいるとは!」


「…………それは、卑弥呼という名では?」


「ほぉ、その名を知っているとは、あの姫の子孫か?」


「……いえ、その名は――――私のお母様の名だわ」


「ゲハハハ! あの姫が生き延びた事は知っていたが、まさかこの時代に生きていたとは! 我が神以外で時を超える者がいようとは……確かにあの姫は不思議な力があったな……ゲハハハ! この戦いを終わらせて姫に会い・・に行くとしよう!」


「残念ながら貴方はお母様に会えないわ……ここで私に倒されるのだから」


「ゲーハハハハ! おもしれぇ! 少し遊んでやったら図に乗ったな! 俺様の本気を見せてやろう!」




「大罪ノ進化! 傲慢ノ獣王!」




 ゲラハルの頭に『大罪の傲慢の紋様』が浮かび上がる。


 紋様から闇の霧が溢れ、ゲラハルを飲み込んだ。


 直後、今まで感じた事もない威圧感と共に、霧の中から真っ黒い獅子になったゲラハルが現れた。


「誇りに思うがいい、俺様がここまでなったのは、あの姫以来だからな!」


 獅子状態となったゲラハルの咆哮が放たれた。


 咆哮だけで周辺の全ての物が崩壊していく。


「偶然ね、貴方と誇りに思うといいわ。私が初めてこのを見せるのだから」




「神格化! 謙虚ノ天使」




 ヒメガミから眩い光が溢れ、光が羽根と化していく。


 ヒメガミの背中に美しい四枚の羽根が生えた。


「行くよ! 火ノ神カグツチ!」


 ヒメガミとゲラハルがぶつかり合う。


 ヒメガミの大刀をゲラハルの爪が弾き、切り裂く。


 切り裂いたはずのヒメガミの身体が揺れ、消える。


 いつの間にゲラハルの後方に移動していたヒメガミの大刀から青い炎がゲラハルを飲み込む。


 青い炎の中からゲラハルの鋭い尻尾がヒメガミを突いてくるが、大刀の束の部分で防いだ。


 ゲラハルの全身から黒い魔法攻撃が数十発放たれる。


 ヒメガミに魔法攻撃が直撃し、煙が上がっていた。


 少しずつ煙が履ける。


 しかし、そこにヒメガミの姿はいなかった。




「私はここよ」




 ゲラハルのから声が聞こえた。


 ゲラハルの上空に目線を上げると、そこにはゲラハルの三倍は大きい赤と青が混じり合っている炎を展開していた。




「悔しいけど貴方の強さを認めるわ。でもね……私には守りたいモノが沢山あるわ。貴方の奪う事しか出来ないなんかよりもずっとね。だからこの力で、貴方に勝って見せる」


「ゲーハハハハ! 上等だ! 俺様の最強技で相手してやろう!!」




「暗黒滅凶咆哮!!!」


「火神滅炎皇破!!!」




 巨大な炎と黒い炎がぶつかり合う。


 広場に轟音と共に広がる衝撃波が広がり周辺の瓦礫すらないくらいに溶けて消えていく。


 爆破は更に広がり広場諸々飲み込み、ヒメガミ、ゲラハルをも飲み込んだ。

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