325.天使と証

 『決戦の日』までのカウントダウンが始まった。


 その日、僕は、いや、僕達は遂に『天使の試練』を突破する事が出来た。


 この三か月間、着実に強くなった僕達に天使さんから『天使の試練』の意味の説明があった。



「クロウ様、ここまでよくぞ頑張ってくださいました」


「いえ、ここまで頑張れたのも天使さんのおかげです。本当にありがとうございました」


 天使さんはとびっきりの笑顔を見せてくれた。


「それで、天使さん。そろそろ……お名前、教えて頂けませんか?」


「…………気づいておられたのですね」


「ええ、ミカエル様――――ではないのでしょう?」


「…………はい。私の名は、ルシフェル。『裏切りの天使、ルシファー』と呼ばれております」


 何となく、ミカエル様はリッチお爺さんの事だと思う。


 でも、今、僕の目の前にいる天使さんは間違いなく『ミカエル様』そのものに違いない。


 でも中身・・はそうじゃない気がしていた。


「私が何者で、どうしてミカエル様の身体を使っているのか……それを語るには、以前話していた『エデン・デュカリオン』を語る必要がございます……その話は、今夜、皆様の前で話すとしましょう」


「分かりました。約束ですよ?」


「ええ」


 天使さんは優しく笑った。


「それでは、試練を乗り越えし者に『証』を授けます」


 天使さんの声に僕は自然と天使さんの前で跪いた。




「汝、クロウティアは我『忍耐の天使、ミカエル』の名の下、試練に打ち勝った其方には『忍耐の証』を授ける」




 僕の身体から眩い光が溢れ、今まで感じた事もない大きな力が溢れ出るのを感じた。


 これが……天使の『証』の力なんだね。


 ミカエル様……ルシフェルさん……ありがとう。


 この力で必ず世界を――――親友を助けて見せます。




 ◇




 屋敷に僕と奥さん達が全員集まった。


 更に天使さん全員が集まる。


 その時、一つごたごたが起きた。


 僕を担当した天使さんを見つけた他の天使さん達が物凄く怒っていた。


 俯くルシフェルさんに対して、リッチお爺さんが何とか宥める事が出来た。


 天使さん達の中でも色々起きたのかも知れないね。


 ルシフェルさんから、これから天使族に起きた事件の話をすると伝えると、他の天使さん達も諦めたように納得してくれた。



 ルシフェルさんが話し始める前に、それぞれの奥さん達も『天使の試練』を超えた『証』を貰えたとの事だった。


 セナお姉ちゃんはアズライールさんから『人徳の証』。


 リサはウリエルさんから『慈悲の証』。


 ディアナはガブリエルさんから『勤勉の証』。


 レイラお姉さんはラファエルさんから『純情の証』。


 ヒメガミさんはカマエルさんから『謙虚の証』。


 最後にソフィアはアリエルさんから『節制の証』を貰えた。


 ルシフェルさんからこれらの『証』は『七元徳しちげんとくの証』と呼ばれていると教えて貰えた。


 意外にも奥さん達のそれぞれ貰った『証』の名前がとてもお似合いな気がする。



 奥さん達から『証』の話が終わり、いよいよルシフェルさんから天使族の話を聞く事が出来た。




 ◇




 遥か昔。


 世界に神がまだおぼろげに存在していた頃。


 地上で急速に増えていった命が戦いを起こし始めた。


 最初はみんなが仲良く暮らしていたけれど、命達の中に、『欲望』が生まれるようになっていたのだ。


 より楽に、より楽しく、より自分の為に。


 少しずつ戦いは広がり、やがて種族間で大きな戦争が起きた。


 そして、数百年戦争の結果。


 強い種族が上に立ち、弱い種族が虐げる時代が到来した。


 そこで生まれたのが『負の感情』という想いだ。


 それでも神は『想いの力』更に成長させ、二人の柱を顕現させる事に成功した。


 それがクロウティアが出会った神の二柱である。


 両神は増えていく『負の感情』を良しとしなかった。


 だから、『負の感情』に勝つべく、地上にある『天使族』を使わせたのだ。



 それから数十年。


 天使族の奮闘もあり、地上の戦争は終わり、弱い者、強い者の差も縮める事に成功した。


 使命を果たした天使族は、神界に戻る事を願った。


 しかし、既に力が弱まっていた二柱の神は、天使族を神界に戻す事が出来なかった。


 奇しくも……『負の感情』が弱まる事によって、神の力が著しく下がってしまったのだ。


 その事で落胆した天使族だったが、アマテラス神は何とか力を振り絞り、天使族を神界に招く方法を考えた。


 結果、天使族に『女神の石』を三つ作って与える事により、天使族を神界に戻す事が出来ると考えた。


 アマテラス神の言葉を信じ、天使族は『女神の石』を作ろうと必死になって動いた。


 しかし……百年が経っても一向に『女神の石』が完成する兆しがなかった。


 少しずつ不信感を抱く天使達。


 そんな中、天使達にも子供が生まれた。


 三人の子供はメキメキと育っていった。


 それから百年。


 神界を知っている天使達は『女神の石』が完成する事がどういう事なのかをおぼろげに理解していてか『女神の石』作りを放棄していた。


 ただ……地上で生まれた天使三人だけが必死に『女神の石』を作り続け、百年の年月を経て『女神の石』を完成させたのだ。


 天使達は歓喜した。


 やっと神界に帰れると喜んだのも束の間。


 三人の天使が『女神の石』を使い、三柱の女神となった直後、全ての天使は『羽』を失ってしまったのだ。


 ――それは全ての天使が『女神の石』を作る事を放棄した『負の感情』によるものであった。



 二百年。


 天界での生活を終えた天使達は、羽を無くし、地上に降ろされた。


 こうして羽を無くした耳が尖っている『エルフ羽を無くした天使族』が生まれたのである。



 エルフ族は地上で多くの子供を残し、神界を知っている者全員がその生を全うした。


 自分達の『負の感情』で羽を失った事を反省し、生まれた『女神三柱』を崇めるように暮らし、エルフ族は代々女神を崇拝する種族となった。



 それから千年以上の時間が過ぎた。


 地上は平和そのものだった。





 ――しかし、ある事件から世界は急速に変化する事になった。

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