326.過去の真実
女神三柱が降臨して千年。
世界は平和そのものだった。
女神に祝福された『アルテナ大陸』は『世界樹』と共に繁栄し続けていた。
その平和が、その繁栄が永遠に続くと思われた。
千年。
その果てしない悠久の時に、最初に違和感を覚えたのは、女神三柱の一人、女神ウラノシスであった。
天空を司る女神は、千年という悠久の時間にひらすら耐えていた。
ただ平和な時間が虚しく思えて仕方がなかった。
更に、神は女神達の神界への帰還を聞いてはくれなかった。
実は平和になった千年の世界では大きな
神は『想いの力』によって、その力を維持できる。
しかし、平和になった世界では……神が要らなかったのだ。
やがて人々は千年の平和から神の存在を忘れ、祈る事を忘れ、永遠に続くと思われた平和に酔いしれていた。
その事により、神の力はどんどん弱まり、女神を神界に連れてこれる力など無かったのだ。
しかし、その事を伝える事が出来なかった神に対して、女神達は少しずつ
その最初が女神ウラノシスであった。
彼女は千年前の過去に、全ての羽を失ったエルフ族……であり、自分達と同族だった天使族の事を思い出した。
そして、彼女が取った行動。
それは、自ら自分の
女神ウラノシスの突如な行動に、女神達は驚いたが、そのうちの一人、大地の司る女神ガイアラスもまた彼女の考えを直ぐに理解出来た。
そして、最後一人の女神を残し、二人目の女神は……天界を捨て、羽を捨て、自らの命を落とした。
最後に残った女神は、『女神の石』に戻った親友二人の『女神の石』を抱き締め、泣き続けた。
泣き続けて百年。
世界は――――『崩壊』の道を辿っていた。
◇
平和が終わった世界は『悪意』が満ちるようになっていた。
千年続いた平和の所為で忘れていた『欲望』が溢れ出た人々はまたもや争いを始める。
女神が泣き続けていた百年間、千年前と同じ状態となった地上。
そんな地上にも奇跡が起きた。
女神を崇めていた元天使族のエルフ族から『先祖帰り』が現れたのだ。
彼らは女神が困った時に『先祖帰り』が出来るように仕組んでいたのだ。
『先祖帰り』が出来た天使は全部で八人。
彼らは羽を広げ、泣いている女神に寄り添い、女神を宥め、地上をもう一度平和にしようとした。
しかし、時は既に遅かった。
地上では大きな力を持った『魔王』が生まれてしまった。
かの『魔王』は絶大な力を手に入れ、女神をも飲み込もうとした。
最初こそは天使達によって『魔王』も深手を負ってしまった。
しかし、そこから『負の感情』を更に手にした『魔王』は再び天使達攻めるのであった。
『魔王』が遂に天界に攻めてきた。
天使達は防衛に六人が当たったのだが、『魔王』を止める事が出来なかった。
『魔王』は女神に、現存する『女神の石』二つを要求する。
それを拒む女神であった――――が。
一人の天使によって、現状が大きく動いた。
その天使は、女神を騙し、隠していた『女神の石』の一つを『魔王』に献上した。
それが『裏切りの天使、ルシファー』である。
こうして『魔王』の脅威は去り、天使達によって『裏切りの天使』は追放となった。
それから何故か鳴りを潜めた『魔王』であったが、五十年後、世界を崩壊させようと再度現れる。
天使七人との壮絶な戦いによって、『魔王』は遂に滅ぼされたのだった。
しかし、この時の傷により天使七人は全員命を落としてしまう。
そして、一人残った最後の女神もまた――――その羽を自ら落とす事となった。
◇
ルシフェルさんのあまりにも衝撃的な話に、僕はただただ聞き入る事しか出来なかった。
彼の話が終わると、僕の隣いた奥さん達が僕を抱き締めてくれた。
――――気づけば、僕の頬には涙が流れていたから。
◇
それからリッチお爺さんからの説明もあった。
リッチお爺さんの正体は、なんと、『天使長ミカエル様』との事だった。
『先祖帰り』したミカエル様は、元々エルフ達の族長さんだったみたい。
そして、その娘さんがシエルさんだ。
二人は命
シエルさんは『精霊体』となって彷徨い、ウリエルのダンジョンに辿り着いたそうだ。
そこから二百年後、僕がウリエルのダンジョンの主となった時に再び復活出来たそうだ。
リッチお爺さんも『精霊体』になろうとしたんだけど、『ミカエル』の力があまりにも強く、『精霊体』には出来なかった。
そんな時に現れたのが『裏切りの天使、ルシファー』であるルシフェルさんだ。
実はこの二人……
『魔王』の手から女神様を救う為に、偽装工作として味方をも欺き、『魔王』に『女神の石』一つで女神様を守ったのだ。
強すぎる『ミカエルの身体』をルシフェルさんが乗っ取り、守る事になり、彼は神術により、『リッチ』という存在に生まれ変われたそうだ。
しかし、あまりに強力な秘術だった為、『リッチ』として呪縛に侵され、自由が無くなり、更には意識すら無くなったそうだ。
ルシフェルさんが転機を利かせ、そんな『リッチ』になったリッチお爺さんを『精霊の扉』に張り付けかせて、何とか命を延命させられたとの事だ。
知らなかったけど、僕と出会って、僕がナギちゃんの為に使った『エクスヒーリング』によって、その範囲内に入っていたリッチお爺さんの呪縛も全て治ったそうだ。
こうして、ルシフェルさんは長い間、必ず復活するであろう『魔王』を待つ為、ずっと『ミカエルの身体』を守りつつ、一人孤独に二百年間、このダンジョンの下で待ち続けてくれたのだった。
他の天使さん達もルシフェルさんとリッチお爺さんの話を真剣に聞いてくれていた。
天使さん達にも関わる事だからね。
「そう言えば、以前、クロウ様が対峙して倒すのに唯一苦労した相手の名前が、『エデン・デュカリオン』と話してましたね?」
「「「「「「なっ!? デュカリオンだと!?」」」」」」
ルシフェルさんの言葉に天使さん達全員が驚いた。
あれ?
天使さん達も驚いた。
「皆さんは、『エデン・デュカリオン』の名に覚えがあるんですね?」
「ええ、覚えも何も……我々の宿敵、『魔王ノア・デュカリオン』でございます」
「『魔王ノア・デュカリオン』!?」
思ってもみなかった事実が発覚していた。
天使さん達が戦っていた『魔王』が……まさか自分と戦った相手と同じ名前『デュカリオン』だったなんて……。
「でも僕が相手したのは『ノア』という名前ではなく、『エデン』という名前でした」
「しかし、『デュカリオン』という名が偶々同じとは考えにくいですね……」
「確かに僕が戦った『エデン・デュカリオン』は物凄く強くて、魔王と言われれば、その強さはあったと思います、ただ……恐らくルシフェルさんでも勝てたと思うんですけど…………特殊なスキルを持っていたので、僕との相性が非常に悪かった感じですね」
「確か『魔法無効化』と仰ってましたね?」
「はい」
ルシフェルさんが顎に手を当てて考え込む。
「『魔法無効化』というスキルは聞いた事がないのです……女神様でもそういったスキルは持ってはいないはず……」
「事はともあれ、『エデン・デュカリオン』は既に亡くなってます。聖女の短剣で灰になった事も僕が確認していますから」
「となると、アハトシュラインをまとめている者がますます誰なのか……難しいですね」
こうして、僕は女神様や天使さん達の過去を知る事が出来た。
そして、『魔王』『エデン』『ノア』『デュカリオン』という言葉を聞く度に、人知れぬ不安を感じるのであった。
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